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翌朝、早朝四時。いつもより早く目覚めた首輪の野良犬達は昨日の内に準備をしていた荷物を持って一斉に出口へと向かって走り出した。
朝が早いという事もあり、警備は手薄だった。人の目を掻い潜りながら、野良犬達はついにブラスフェミー支部の外に出た。
何時振りの自由だろうか。見上げる空はいつもより大きく見えた。それぞれ感傷に浸っていたが、すぐ我に返った。そして、行動を開始した。
彼らが向かっている先はとある児童養護施設。その施設はトルクがブラスフェミーに引き取られる前にいた施設だ。昨日の話し合いで、一旦の目的地をそこに決めたのだ。
野良犬達は休むことなく百キロメートル以上の距離を移動した。そして支部から二時間ほどで少し栄えた街並みが見えてきた。彼らはそこで小休憩を挟むことにした。
「ふぅ、結構走ったけど、皆大丈夫?」
トルクは少し疲れた表情を見せながら笑顔で問いかけた。皆はそれに大丈夫と答えた。
「あんまり無理をしちゃダメだよ。いつ追手が来るのか分からないから。特にレグノさんは別格。
まぁ、後、十キロぐらいしかないからペースを落として行きましょうか。街に入ったからあんなスピードで移動していたら逆に目立つし」
そう言って野良犬達はウィンドウショッピングするように街を歩きだした。彼らの目に映るものは全て目新しく見えた。街の人達が見慣れているパン屋も本屋も、何かもが野良犬達には無縁のものだった。
何故、何も悪いことをしていない自分がこんな目に遭わなければいけないのだと、そう苛立ちを募らせていったのはアブソーバーだった。
アブソーバーの力がどんどん高まっていくのを感じ取ったトルクはアブソーバーの手を取って自分に引き寄せて抱きしめた。
「落ち着いて、これから私たちは自由だよ。何も遮るものはないの。新しい人生を始めましょう」
「チッ、離せよ! 子ども扱いすんじゃねぇよ!
別に俺はここまでくればお前らと一緒に行動する必要なんてねぇんだよ!」
アブソーバーはそう言って、トルクから強引に体を離した。そして、拳を強く握り、それをトルク目掛けて放とうとした。それを慌てた様子でニヒルが間に入り止めた。
「ちょっと待って。今は争うべきじゃないわ。騒いだせいで街の住人がこっちを見ている。きっと警察だってくるはずよ。
ここは一旦落ち着いて行動しよう。目的地まで行って、そこで安全が確認出来たら後はアブソーバーの好きにしていいから」
ニヒルにそう言われたアブソーバーは辺りを見渡した。すると、街の住人は物珍しそうにアブソーバー達を見ていた。
アブソーバーは舌打ちをして、拳を収めた。それに胸を撫で下ろしたトルクはそっとニヒルに近付き耳打ちをした。
「能力を使ってくれてありがとうね」
「別に礼なんていいよ。私は私を助けたいだけ」
ニヒルがそう言うと野良犬達は再び目的地へと向かって歩みを進めた。