038
ここは野良犬のメンバーが過ごしている部屋。全員、この部屋で寝食を共にしている。先程任務を終えたメンバーはここで束の間の休息を取っていた。すると、そこにレグノが現れた。野良犬のメンバーは即座にレグノの元に駆け寄った。
「先程の任務、ご苦労だった。カオス様が直々に褒めてくださったぞ。それでカオス様がお前に褒美をくれるそうだ」
「え、そ、それは本当ですか?」
トルクは怪訝な表情を浮かべてレグノに尋ねた。
「俺は嘘などつかん。一週間の休暇をくれるそうだ。その間、何をしようとお前らの勝手だ。但し、問題行動は慎むように」
レグノはそう言うと部屋を後にした。レグノがいなくなった後、首輪の野良犬のメンバーはトルクを中心に話し合いが行われた。
「急に休みなんて、何かあったのかな?」
「さぁ? あいつの考えていることなんて誰一人として分かるわけがないわ」
「そうだね~ エキラドネちゃんの言う通りだよ。でも、お休みはもらえたわけでしょ? 何して遊ぶ?」
「はぁ、ほんとオルトネイトは気楽でいいわね。遊んでいる暇なんかないわよ。一刻も早くここから逃げ出しましょ」
「はぁ、いつもニヒルは無理なことしか言わないな。この首輪が付けられている間は無理だよ」
「はぁ? トリガーどうして無理だと思うのよ」
「普通に考えれば、この首輪に発信機が付けられているはずだからだよ。どこに逃げようとこの発信機で居場所がバレる。それに首輪は自分で外せない」
「いや、外せたとしても、きっと逃げられねぇよ。あいつがいるだろ」
「…確かに、レグノ上官からはどう頑張っても逃げることは出来ないよね」
「それにどういう訳か、奴の前に立つと俺らの力は使えない」
アブソーバーがそう言うと、皆、押し黙った。そして、少しの沈黙があった後、トルクが口を開いた。
「…それでも、私は逃げるわよ。こんなところにずっと居てたまるもんですか。私は犬なんかじゃない。人間よ」
ニヒルはそう言って立ち上がった。それをトルクが止める。
「ちょ、ちょっと待って、今から出発するの?」
「そうよ。なんか文句あんの?」
「文句はないけど、一人は危ないよ!」
「子ども扱いしないで! それに私はあなた達より強いから!」
「は? おいおい、それはねぇだろ。お前が俺より強いだって?」
「はぁ、また始まったわ。どんなところでスイッチが入るのかしら。面倒くさい男ね」
「おい、エキラドネ。なんか言ったか?」
「えぇ、言ったわ。面倒くさい男ねって」
「ニヒルをぶっ飛ばした後はお前だから覚悟しとけよ」
アブソーバーがそう言うとエキラドネは呆れた表情を見せた。
「前々から言おうと思っていたけど、自分が最強だと思ったら大間違いよ」
「ほぉー、言うじゃねぇか。いいぜ、まとめてかかって来いよ。ぶっ飛ばしてやるからよ」
「け、喧嘩はよくないですよ。きっと、皆さん、連日の任務で体が疲れているんです。きょ、今日はもう寝ましょう」
ヴィクトリアは今にも泣きだしそうな声でそう言った。まさに一触即発の空気。その空気を換えたのはトルクだった。
「はい! 喧嘩はここまで、これ以上するとお姉ちゃん本気で怒るよ。今日は遅いからご飯食べて寝よ? 逃走するなら本当にちゃんと策を練ってからがいいよ。私も協力するから」
トルクがそう言うとニヒルは渋々了承したように頷いた。
「じゃあ、今から晩ご飯の支度をするからみんな手伝ってね。今日はシチューを作るから!」
トルクはそう言うと台所の方に向かっていった。その後にアブソーバー以外の全員が付いていった。