003
それから、五分程歩き、とうとう本部の前までやってきた。ここまでは特に問題ないのだが、どうやって中に入るのか、という問題が現れた。
扉はとても頑丈に出来ていて、とても素手で壊せるようなものではない。持っている武器はナイフと幻覚を見せられる子どもだけ。死なないこと以外は普通の人間と何ら変わりのない彼らにとって、この頑丈な扉を開けることが一番の難関であった。
見た所、扉を開けるためにはカードキー、指紋認証、そしてパスワードの三つが必要なようだ。
扉を開けることに時間をかけていれば、別の基地から応援が来る。死なないので負けることはないが、非常に疲れるし面倒なので是非とも避けたい。
カードキーに関しては最初に拝借したので問題はなさそうだ。後は指紋とパスワード。どうしようかと悩んでいると、丁度目の前に二人の隊員が現れた。チャンスだと思ったダレンはまたもや目にも止まらぬ速度で二人の背後に移動した。そして、一人をあっけなく殺し、もう一人の隊員の背後から首元にナイフを突き付けた。
「丁度いいところにきたじゃねぇか。協力してくれたら、お前の命だけはたすけてやってもいいぜ。
どうする? 協力するか? それとも死ぬか?
協力するならば、そのまま銃を捨てて手をあげろ。しないなら三秒間そのままでいてくれ」
ダレンはそう言ってカウントを始めようとした。すると、カウントを始める前に隊員は銃を捨てた。
「ほ、本当に見逃してくれるのか?」
「当たり前だ。ただし、この扉を開けてもらうのが条件だ」
ダレンはそう言って隊員を扉の前に連れてきた。
隊員は言われるがままと扉のロックを解除した。パスワードの入力を終えると、ロックが外れる音がした。その音を合図にダレンは隊員を解放して扉を蹴破った。
「あー、面倒臭かった。
あ、どうも、こんばんは。ここを潰せば仕事が終わったのも同然だから、手っ取り早く終わらせるぜ」
ダレンは目の前にある机に足を乗せ、ナイフで片をトントンと叩きながら部屋の中にいる人数を数えた。
ざっと数えて十三人。その全てがこちらに向けて銃を構えている。ダレンはそんなことはお構いなしに、どの順番で殺そうかと考えていると、この部屋の中で一番偉そうな男がダレンに向かって話しかけた。
「お前は一体何者だ! 誰の差し金で動いている? 何が目的だ」
「どいつもこいつも同じ質問ばっかで飽きてくるなぁ。「何者だ」「何が目的だ」そんなことばっか聞かれるとうんざりするぜ。
何者も何も、お前らが作り出したモノじゃねぇか。俺らは『罪』だよ。そして、その罪を犯したお前たちは『罰』を受けなきゃね」
ダレンはそう言うといつの間にか質問した男の隣にいた。
「なっ、何時の間に…
くたばれ!」
男は構えていた銃を撃った。しかし、そこには既にダレンの姿は無い。
「おいおい、危ないなー
ちゃんと狙いを定めてから撃たなきゃダメだぞ。他の人に当たって怪我でもしたらどうするんだ?君もそう思うだろ?」
そう言いながらダレンは先程の男から一番離れた場所にいる女性の方に手を置いて話しかけた。そして入り口の方に目線を逸らした。オルカの姿が見当たらない。
(また逃げたか。いや、違うな…)
ダレンがそんなことを考えていると手を置いていた女性が構えていた銃を撃った。咄嗟の事で反応しきれなかったダレンの左肩を弾丸が貫いた。
「…やべぇ、ミスった…」
視界がぼやける。思っていた以上のダメージだった。
今まで隊員達の報告では銃は効かないと報告を受けていた本部は予想以上のダメージを受けているダレンの姿を見て、今なら勝機があるのではないかと思い始めた。
だが、その思いは無駄に終わる。何故ならダレンが予想外の行動を取ったのだ。手に持っていたナイフで自分の喉を切り裂いた。辺りに血の海が広がり、ダレンは倒れた。そして、ピクリとも動かなくなった。
いきなりのことで驚いた本部の人間は、少しの間動けなかったが、本当に死んだのかを確認するためダレンの脈を取った。
「も、目標、脈拍を確認できません。死んでいます。残りは報告にあった子供のみです」