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今から約一世紀前。ブラスフェミーは世界各国から人体実験をするために孤児を集めていた。その中にはアブソーバーやエキラドネといった後に首輪の野良犬となる面々がいた。
集められた虎児は適性検査を受け、首輪を嵌められた。そして、首輪に選ばれた七人はレグノの指揮の下、人を殺すための訓練を受けた。
そして、実戦を行い、数々の任務をこなしていく内に、彼らの目に光は灯らなくなった。ただ一人を除いては。
「ちょっと、アブソーバー! 今のは無茶し過ぎ! いくら傷の治りが早いからって、あんなに無茶をするのはお姉さん許せません!」
そうハキハキと言ったのは七人の中では少し年上の女の子だった。
「チッ、またトルクかよ。うるせぇな。別に言われたことをやっているから文句ねぇだろ」
「そうだけど、これで死んじゃったら元も子もないよ」
「…別に死んでも誰も悲しまないし、俺らの代わりは幾らでもいるんだよ」
アブソーバーがそう言うとトルクと呼ばれた年上の女の子はアブソーバーの左頬を平手打ちした。
「…、いってぇな! 何すんだよ!」
「死んでもいいとか言うな! 死んだら私が悲しい気持ちになる。だって、もう二度と会えなくなるんだよ。そんなことを考えただけで胸が張り裂けそうになる」
「そんなこと言うんだったら、今まで殺してきた奴らにも家族がいて、その家族に二度と会えなくしたのはどこのどいつだよ」
「…それは仕方がないこと。殺さなきゃ私たちが死んじゃう。私たちは家族だから、家族を守る為には私は悪魔にだってなれるよ」
「チッ、俺に家族なんていねぇし、いらねぇよ」
アブソーバーはそう言うとその場を去った。
「ちょ、ちょっと、どこ行くの! エキラドネもなんとか言ってよ!」
「それは無理。アブソーバーはきっと反抗期だから何を言っても通用しないわ。
そんなことより、自分達の身を心配した方がいいわ。アブソーバーが苛立って壁なんかを力いっぱい殴ったら大変よ。そこから建物が崩れたら私達はがれきの下敷きになるわ」
「もう! 本当に世話がかかる奴だわ! みんな行くよ!」
トルクはそう言って、残りの首輪の野良犬のメンバーを引き連れて建物の外に飛び出た。そして、その瞬間、建物は凄まじい轟音と共に崩れ落ちた。




