031
ルナが研究室から出て三十分後、研究所の扉が開く音がした。
「今日はアポなしのお客さんが多いな。私は暇じゃないんだがね」
カオスは水槽から目を離すことなくそう言った。
「ところで、ここに来るまでに中々の数の兵隊がいたはずだと思うが、それはもう処理をし終えたのかい?」
「野暮なことを聞くのね。
私の前では有象無象関係なく、私の言うことを聞くのよ。私が直接手を下すまでも無く、自分達で勝手に殺し合いを始めて死んだわ。
そんなことよりもオルカを返してくださる?」
「それは出来ないね」
「ふふっ、何を言っているの? これはお願いじゃなくて命令よ」
「君の絶対領域は確かに強力なものだ。
人、物、はたまた空気中にある物質だって君の命令通りに動く。無論、私にもその力は効く。
でも、世の中には例外って言うものがあるんだよ。生物界で言うならば君達のような絶対的不死者の存在のようにね」
「私の能力が効かない相手がいると言いたげね」
「そうだね。正確には効かないわけではなく、効きにくい相手だ。君はここに来るまでに第六支部で首輪を付けた女の子に出会わなかったかい?」
「…どうだったかしら? それがどうかしたの?」
「あれが私の生み出した、君たち、絶対的不死者に対抗する手段さ。私の研究の邪魔をされたくないからね。
まぁ、今回はオルカ君に充分すぎる程の細胞を頂いた。アリスが目覚める日も近い。邪魔をするなら首輪の野良犬たちが何時でも相手をしてくれるさ。
それでは私は会食があるので失礼するよ」
カオスはそう言うと消えた。
「流石の私の能力でも映像は操れないということを知っているのね。
…アリスの目覚め。一体、何のことなのかしら。
リーファ。オルカをこれから出したら帰りましょう。きっと今頃、リンクロッドが目を真っ赤にして待っているわ」
ニアがそう言うとオルカが入っている水槽が割れた。中に溜まっていた水は溢れることなくその形を保っている。そして、オルカの体に繋がれていた管はまるで自分の意思を持っているかのように勝手に一本ずつ外れていった。そして、形を保っていた水からゆっくりとオルカが出てきた。
四日ぶりに水から出てきたオルカは咳き込み、口から水を吐き出した。
「…あれ? お母様? それにリーファも。どうして、ここに?」
「助けに来たのよ。さて、帰りましょう。話はそれからよ」
ニアはそう言うと踵を返し、研究室を後にした。そしてそれを追うようにリーファが続き、少し体を休めたオルカも後に続いた。