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アブソリュート・イモータル  作者: ぞのすけ
21/59

019

 「はぁ、はぁ」

 モニカは森の中をひたすらはしっていた。一切の迷いもなく自分の屋敷に向かって。

 普段優しい兄が見せた鬼気迫る表情が、眼前に現れた敵の強さを物語っていた。

 「…つ、疲れちゃった」

 モニカは一旦、足を止めた。後方を確認すると追手が来ている様子は無さそうだ。研究所から直線距離で10kmは来ただろうか。だが、まだ自分の屋敷までは100km以上はある。モニカは疲れと先の長さに軽く失望してため息をついた。しかし、いつまでも立ち止まるわけにはいかなかった。兄が自分の身を挺して逃げろと言ったのだ。捕まったとしても死ぬ心配をする必要はないのだが、死んだ方がいい、頼むから殺してくれという事を平気でしてくるのがブラスフェミーの連中なのだ。

 モニカは再び足を動かし走り始めた。少し走ると森を抜け、道路に出た。

 車が通れば無理にでも乗り込もうとおもったのだが、一切車が通りそうな雰囲気はない。またため息をつき、道路に沿って歩みを進めた。

 しばらく進むと前方から車のヘッドライトが向かってくるのが見えた。モニカは絶好のチャンスだと思い、タイミングを見計らって車の前に飛び出した。しかし、思っていたより車のスピードが出ていた為、車が通り過ぎた後で道路に飛び出すような形になった。

 少しの間があった後、猛烈な恥ずかしさに襲われたモニカは顔を塞いで、その場にしゃがみ込んだ。

 やってしまったと反省していると後ろから声が聞こえた。

 「あ、あのー、どうかしましたか?」

 モニカは顔を上げて、声が聞こえた方に目をやると男性が頬を掻きながらモニカを見ていた。

 「あの! お願いがあるんですけど!

 ちょっと遠いんだけど連れて行ってほしいところがあるの!」

 モニカは男性の手を握り、藁にも縋る思いで頼み込んだ。

 「一体、こんな夜遅くに女の子が一人で山道を歩いているなんて、何があったの?」

 男性はモニカに質問した。

 「実は、色々あって、道に迷っちゃって。

 家のある場所は分かるんだけど、移動手段がないから…

 どうやって帰ろうかなって」

 「それって本当? 家族の連絡先とか分からないかな?」

 「ん? れんらくさきって?」

 「参ったなー

 とりあえず、警察呼ぼうかな。…スマホは。

 …ちょっと待てよ」

 男性は警察に連絡する為、番号を打ち込み、通話ボタンを押すところで思い止まった。

 「今、この状況で連絡したら、児童誘拐とかいって俺が疑われそうだな。そうじゃなくても話を聞かせてくださいとか言って長時間拘束されそうだ。

 そうなると、面倒臭いよなぁ。ったく、ついて無いよな」

 男性はチラっとモニカを見た。モニカはキョトンとした顔で男性を見ている。

 「はぁ~、分かった。分かったよ。お嬢ちゃん。

 この俺、ランディ。ランディ・ナッツが責任を持って送り届けてやるよ」

 ランディと名乗った男性は面倒臭そうに頭を掻きながら言った。モニカの顔はたちまち笑顔になり、ランディに飛びついた。

 「わぁ! ありがとう!

 じゃあ、ランディさん、よろしくお願いします!」

 「じゃあ、ちょっと先に車停めてあるから、あれに乗ってよ」

 ランディは前方に泊まっている白い乗用車を指差した。

 モニカは分かったと言って走り出し、助手席のドアを開けて車に乗り込んだ。ランディはその様子を確認してから車へ向かって歩き出し、運転席に乗り込んだ。

 「それで、どこまで行けばいいのかな?」

 ランディは車を走らせながらモニカに尋ねた。

 「…うーん、ハイネル?ってところまでだったと思う!」

 「ハイネル!? ほ、本当にハイネルまで行くのか? ここから120kmぐらいはあるぞ!」

 ランディは驚いて思わずブレーキを踏んでしまい車は急停止した。

 「いてて、急に止まったらビックリするよ~

 うん! そうだよ! ハイネルってところに私の屋敷があるの」

 「屋敷!? もしかしてお嬢ちゃんのお家は貴族か何かなのかな?」

 ランディは驚きの連続で声が上ずってしまった。

 「うーん、どうなんだろ?」

 「ち、ちなみに、お嬢ちゃんのお名前を教えてもらってもいいかな?」

 「名前? うん、いいよ!

 私の名前はモニカだよ。モニカ・エルドルト!」

 「モニカちゃんって言うんだね。とても可愛らしい名前だ。

 …モニカちゃん、ちょっと友達に電話してきてもいいかな?

 大丈夫、すぐ戻ってくるから!

 「電話? うん、分かった! 待ってるね!」

 モニカは無邪気な笑顔を見せた。ランディは車から降りてスマホを取り出し友人に電話をかけた。3コール目で相手は電話に出た。

 『はい、こちらルナ・フェルミレールです』

 「おい、ルナ。俺だ」

 『御生憎様ですが、詐欺はお断りしておりますので』

 「違う! 俺だ。ランディだ! ランディ・ナッツ!」

 『あら、ランディだったのね。失礼したわ。随分と久しぶりじゃない。それでこんな時間に掛けてきて一体、何の御用かしら」

 ルナと名乗った女性は電話の要件を尋ねた。

 「いや、実は物知りなルナに聞きたい事があって。

 モニカ・エルドルトって人物知ってるか? どこかの貴族っぽいんだが」

 『誰? その人? あなたと私の共通の友人?

 それなら、おかしいわ。あなた友達いないじゃない」

 「違うよ! そうじゃなくて―

 ランディは事の顛末をルナに説明した。

 『なるほどね。要は森で幼女を拾ったから羨ましいでしょ。って電話なのね。

 まぁ、いいわ。エルドルトはどこかで聞いたことがある名前だからちょっと調べてみるわ。

 それじゃ、くれぐれも気を付けて』

 捻じ曲がった解釈をされた挙句、電話は一方的に切られた。ランディは暗くなったスマホの画面を見てため息をついて、車に戻った。

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