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アブソリュート・イモータル  作者: ぞのすけ
19/59

017

 一方、オルカはと言うと、先程トリガーに殺されてから生き返り、痕跡を残さないようにその場から離れ、近くにあった倉庫に身を潜めていた。

 「まさか、あんな厄介な奴らがいたなんて。

 お母様に怒られるけど、一旦帰って、体制を立て直した方が良さそうだよね。

 …はぁ、モニカの奴、どこに行ったんだ」

 オルカはそう呟き頭を抱えた。すると、倉庫の入り口の方で声が聞こえた。

 「おい、オルカ・エルドルトは見つかったか? 早く見つけないと上官に殺されるぞ」

 オルカはその声に聞き覚えは無かったが、確信した。首輪の野良犬がすぐそこにいる。

 息を殺し、奴らがどこかに行くのを待った。

 「そんなの言われなくても分かっているわ。

 こんな馬鹿みたいに広い研究所なのだから、時間をかけて探すしかないと思うけど。

 …案外近くに潜んでいたりしてね」

 オルカの心臓の鼓動が早くなる。この音でここにいることが分かってしまいそうだ。

 「それは考えにくいと思いますよ。ここから現場はかなり近いです。死んだ人間が生き返るなどバカげた話を信じるのならば、オルカ・エルドルトはかなり先に逃げたと考えるのが妥当かと」

 オルカはこの声に聞き覚えがあった。それは謎の力でオルカを殺した人物の声だ。オルカは気付かれないように顔を出した。

 人数を確認すると、オルカを殺した人物を含めて四人。その四人全てが首輪を付けている。どう考えても勝ち目はない。早くいなくなるのを祈るばかりだった。

 そんなことを考えていると、その四人が倉庫の中に足を踏み入れた。鼓動が最高潮に高まる。

 「とりあえず、探さないといけないのだから、近くから探していけばいいじゃない。ただ範囲が広いから手分けして探しましょ。

 私とアブソーバーでAからFフロアまで探すからエキラドネとトリガーでGからKまで探してちょうだい」

 「え、なんで、私とトリガーなの? 普通、トルクとトリガーでしょ?」

 「…お二人ともそんなに僕のことが嫌いなんですか?」

 「ったく、今はそんなことを言っている場合じゃねぇだろ。この辺は俺が一人でやるから、お前ら三人で仲良く探して来い」

 「それはダメ。オルカ・エルドルトと対峙した時はどうするの?」

 「大丈夫だろ。エンドハイドも「思っていたより弱すぎて油断した」って言ってたじゃねぇか。

 手加減できるか分からねぇけど、原型を留めて持ってこれるように努力はするよ」

 「あらそ、じゃあ、ここはアブソーバーに任せるわ。私とトリガーで別のエリアを探してくるから、エキラドネはアブソーバーと行動するか、オルトネイトと合流してオルカ・エルドルトを探してちょうだい」

 トルクはそう言うと手をヒラヒラと振りながらトリガーを連れてどこかに消えた。残された二人は少し話して一緒に行動することにした。

 「よし、とりあえず、ここから探すか」

 アブソーバーは頭を掻きながらそう言った。二人は手分けをして、広くない倉庫の中をオルカがいないか探し始めた。

 そのオルカはというと逃げるタイミングを窺っていた。オルカが今いる場所は位置口から倉庫の右奥にある段ボールがたくさん積まれた場所に身を潜めていた。倉庫の入り口は一つで他に外へ繋がるような所はない。徐々に二人がオルカのいる場所へと近付いてくる。すると、アブソーバーが何かを思い出したかのように手を止めてエキラドネに話しかけた。

 「おい、エキラドネ。お前、入り口に立っとけ。二人でこんな奥まで入ってきたら、もしオルカ・エルドルトがいた時に逃げられる可能性があるだろ」

 そう言われたエキラドネは無言で頷き、入口へと向かった。

 終わった。オルカはそう思った。この二人がどんな力を持っているのか分からないが、エンドハイド一人にでさえ、あんなにも苦戦をしたのだ。到底敵う相手ではないだろう。しかし、いつまでもここにいては見つかるのも時間の問題だ。オルカは玉砕覚悟で攻撃を仕掛けようとした。すると、丁度、その時、近くで銃声が聞こえた。アブソーバーは振り返りエキラドネを見る。

 「おい、今のは」

 「えぇ、もしかしたら、オルカ・エルドルトかもしれないわ。行ってみましょう」

 エキラドネがそう言うと二人は銃声が聞こえた方へと走っていった。

 オルカは胸を撫で下ろし、呼吸を整えた。それから倉庫の入り口へと向かい、周囲を確認すると気付かれないように銃声の方へと向かった。そこにモニカがいるのを確信したからだ。野良犬に見つかるリスクよりもモニカと合流するメリットを取ったのだ。

 オルカが曲がり角を曲がろうとすると、その先にアブソーバーとエキラドネの姿が見えた。二人は丁度部屋に入ろうとしたところだった。オルカは急いで体を引っ込めた。

 「あっぶねー、ギリギリセーフかな?」

 オルカは大きな深呼吸をした。そして、息を吐き出したタイミングで、目の前にどこから現れたのか分からないが、金髪の少女がいた。オルカは驚いたがそれがモニカだと分かると安堵と怒りが入り混じった不思議な感情に襲われた。

 「オルカお兄ちゃん、そんなに怖い顔してどうしたの?」

 モニカは自分が怒りの対象となっていることなど知る由もなく、キョトンとした顔で首を傾げている。

 「あのねー、元はといえばモニカの…

 おっと、今はこんなこと言っている場合じゃなかった。モニカよく聞け、今日のところは帰るぞ。想定していなかった敵がいる。強すぎて僕じゃ歯が立たない」

 「えぇー、このまま帰っちゃうの? まだコンピュータ破壊してないよ?

 それにモニカはどんな敵が来ても負けないし!」

 「はぁ、そう言うことじゃなくて、お母様にも知らせないといけないことだから帰らなくちゃ。

 ほら、いくぞ」

 オルカはモニカを無理矢理説得して帰ろうとした時、背後から声が聞こえた。

 「おいおいおい、まだ初めましての挨拶もしていないのに変える事は無いだろ。オルカ・エルドルトさんよ」

 オルカはゆっくりと振り返る。そこにはアブソーバーとエキラドネの姿があった。オルカはモニカを庇うようにして立ち「逃げろ!」と叫んだ。いつもヘラヘラしている兄の真剣な表情にただならぬものを感じたモニカは脇目も振らずにその場から走り出した。

 「はぁ、かくれんぼの次は鬼ごっこか。全く骨が折れるよ。まぁ、どっちも逃がすつもりはないからよ。

 とりあえず、お前はここで死んでくれ」

 アブソーバーは面倒臭そうに頭を掻きながら言った。横に立っているエキラドネは何も言わずにオルカのことをジッと見つめている。

 二対一。オルカに勝ち目など無かった。しかし、今のオルカは勝ち負けなど微塵も気にしていない。

 「もう十秒経ったし、鬼ごっこ始めてもいいか? お前は鬼からお姫様を守る兵隊さんってとこか? せいぜい楽しませてくれよ。まぁ、期待なんざしてねぇけど」

 アブソーバーはそう言って一瞬でオルカとの距離を詰めた。エンドハイドとはケタ違いの素早さだ。突っ込んできたその勢いで、左拳を放った。オルカは間一髪のところで反応し、それを受け流した。

 まさか、避けられるとは思っていなかった。アブソーバーは一瞬反応が遅れたが、そのまま裏拳を放つ。オルカは自分の顔に飛んできた裏拳を何とかガードしたが、攻撃の重さにバランスを崩し膝をついた。

 追撃を予想してアブソーバーの方を見たが、追撃はなくその場に立ってオルカのことを見ていた。

 「へぇ、エンドハイドに聞いていたよりはやるじゃねぇか。もうちょい本気出していいな」

 アブソーバーはヘラヘラしながらオルカを見ている。

 「おいおい、ダンマリはねぇだろ。

 もしかして、実力に差がありすぎて打つ手がねぇのか? お得意の能力でも使ってみればいいじゃねぇか」

 オルカはゆっくりと立ち上がった。そして、アブソーバーとの距離を詰め、顔面を思い切り殴った。それをアブソーバーは避けることもせず、正面から堂々と受け止めた。

 「あ? 何だ? そのゴミみてぇなパンチは。

 いいか、パンチってのはこうやるんだよ」

 アブソーバーはそう言ってオルカの腕を掴み、逃げられないようにしてから拳を握った。

 「…出力0.02%」

 アブソーバーはそう小さく呟き、オルカのボディに拳を放った。オルカは今まで受けたパンチの中で一番の衝撃に苦痛で顔を歪ませ、膝をつき胃の中物を吐き出してしまった。

 アブソーバーはその様子を見て、掴んでいた。手を放した。オルカは腹を押さえて蹲っている。

 「汚ねぇな。ちゃんと掃除しろよ」

 アブソーバーはそう言ってオルカの頭を吐瀉物の上に踏みつけた。その頭を踏みにじっていたが、何かを思い出したかのように足を止めた。

 「しまった。そう言えば、こいつを上官のところに持って行かないといけないだった。

 チッ、失敗したな。こんな汚ねぇやつ、持ち運びたくねぇぞ」

 アブソーバーはオルカの頭の上に置いていた足をどけて、オルカの首根っこを掴み、持ち上げた。

 「おい、クソガキ。俺は全然本気で殴ってねぇんだ。まだ自分で歩けるだろ? 黙って俺らに付いてこい。

 殺してから連れて行ってもいいんだけどよ。ゲロ塗れの奴を持ち歩きたくねぇんだわ。だから自分で歩け。

 …おっと、余計なことをしないように腕の骨は折っとくか」

 アブソーバーはそう言うとオルカの上でを二本とも折った。オルカは余りの激痛に声にならない呻き声をあげ、蹲った。その姿を見てアブソーバーは少し苛立ってオルカに蹴りを入れた。

 「あんまり手間をかけさせんじゃねぇよ! ほら、さっさと立て」

 アブソーバーはそう言ってオルカは蹴られた痛みと腕を折られた痛みで意識が朦朧として立つことさえ、ままらなかった。薄れゆく意識の中でオルカは地獄のような日々を走馬灯のように思い出していた。

 オルカの意識が完全に途絶えてしまいそうになった時、どこか聞き覚えのある声が聞こえた。

 「おやおや、弱い者イジメですか? 感心しませんねぇ」

 オルカは声の正体を確認する前に気を失った。

 

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