014
「はぁ、はぁ、はぁ、全く、あの目ん玉色違い女、強すぎるでしょ。
結構ダメージ貰いすぎちゃったなぁ。ちょっと休憩しよ」
オルカはエンドハイドから受けたダメージを回復させるため、どこか休める場所が無いか探した。ふらつきながら歩き、目の前にあった扉を恐る恐る開けて中をそっと確認した。中は倉庫になっていて人の気配はない。一安心したオルカは中に入り、身を潜めて体力の回復に努めた。
「いててて、これは中々に面倒くさい仕事だなぁ
リセットするためにナイフとか持って来ればよかった。舌を噛み切るのは、あまり得意じゃないんだよね」
オルカは小さく呟いた。
リセットとは怪我や病気になっても死ねば元に戻ることから、オルカ達がそう呼んでいるだけである。
「ていうか、モニカと合流しないといけないんだった。あいつ大丈夫かな。
…まぁ、誰もモニカには触れることできないから捕まること無いか。
とにかく、野良犬に出会わないように祈るだけか」
少し休憩したことによって、ある程度回復できたオルカは立ち上がり、外の様子を窺った。そして、誰もいないことを確認すると外に出た。
「あいつ、どこに行ったのかなー」
オルカはそう呟きながら角を曲がった。その瞬間、オルカの右肩を貫いた。オルカはその衝撃で倒れる。
近付いてくる足音が聞こえてくる。オルカは肩を押さえながら足音がする方へ顔を向けた。すると、そこには爽やかな笑顔を見せている青年が立っていた。
「いや~、まさかこんなところで会えるとは思いませんでしたよ。オルカ・エルドルトさん」
青年もオルカの名前を知っていた。まさかと思ったオルカは青年の首元に目をやった。やはり青年もエンドハイド同様の首輪を付けていた。
「…首輪の野良犬っ」
オルカがそう言うと青年は驚いた表情を見せた。
「あれ、もしかして僕らのこと知っているんですか?
…うーん、情報が洩れているのは考えられないから~
もしかして、何かここにあるパソコンや資料を覗き見したのかな?」
オルカは青年の質問に答えず相手を観察した。自分の右肩を貫いたのだが、何回も死んでいるオルカは、その『何か』が銃弾だと確信した。それも拳銃などではなく、それよりもかなり威力の高い銃から撃ち出されたものと変わりない。しかし、相手はそれ相当の銃を持っている感じはない。ジーパンに白色のシャツ、靴はスニーカーというだいぶラフな格好をしている。威力の高い銃どころか拳銃を隠し持つのが精一杯の格好だ。それに、発砲音も無かった。
とにかく、エンドハイド同様、この青年も首輪の野良犬である以上、危険人物であることに変わりない。
オルカが黙っていると青年が話しかけてきた。
「あれ? ダンマリですか? …困ったなぁ。
そうだ、無理矢理吐かせるとしましょうかね」
青年はそう言ってゆっくり一歩ずつオルカに近付いた。オルカは逃げようにも先程エンドハイドから受けたダメージと肩を撃ち抜かれた痛みでその場から動くことは出来なかった。
「なんか、ガッカリだなぁ。本当に君みたいな子どもが基地を潰したの?」
「…」
オルカは質問に答えず相手を見上げていた。が、次の瞬間、景色が天井に変わった。
「おい、調子に乗んなよクソガキ。お兄さんが優しくしているうちに答えろや」
青年は先程と人が変わったかのように口調を変え、近付いたオルカの顔面に蹴りを入れた。
起き上がる気力も無いオルカを青年は髪を掴んで無理矢理起き上がらせた。
「おいおい、こんなんで、くたばんじゃねぇぞ」
「…ペッ」
髪を掴まれたオルカは青年の顔に唾を吐きかけた。
「…あぁ、そうか。じゃあ死ね」
青年はそう言ってオルカは人差し指を近付けた。そして、その指から放たれた『何か』が眉間を貫いた。オルカは倒れる。そして動かなくなった。
「任務完了。…なんだか呆気なかったな。
死体はどうすればいいんだっけ? まぁ、こんなゴミを見落とすやつはいないだろ。
…面倒臭いからこのまま置いておくか」
青年はオルカを置いてどこかに消えた。




