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アブソリュート・イモータル  作者: ぞのすけ
14/59

013

 同日、午後六時時。日がだいぶ傾いてきた頃。ブラスフェミー第六支部、ヴィクトリアの部屋。

 今日はエンドハイドが当番の日で、二人は紅茶を飲みながら時間を潰していた。

 襲撃からやがて二週間が経とうとしているが、未だオルカ・エルドルトが現れる様子はない。いつ現れるか分からない敵を待つというのは神経がすり減らされる。今や、小さな物音にも敏感に反応するようになってしまった。

 「一体、何時になったらオルカ・エルドルトは来るの? こんなに女の子を待たせるなんて、きっとモテない男なのでしょうね」

 エンドハイドは机に突っ伏しながら言った。

 「私の能力が至らないばかりに皆様に迷惑をかけてしまって申し訳ありません」

 「そんなことないよ。私の力よりずっと役に立つじゃん」

 エンドハイドは目の前にあったクッキーに手を伸ばし口に運んだ。一口食べてからヴィクトリアに質問した。

 「そう言えばさ、あまり、と言うか全然聞いたことないけどさ、ヴィクトリアは首輪を付けられる前はどこで何してたの?」

 エンドハイドの質問に少しの沈黙があった。エンドハイドは「マズイことを聞いたなぁ」と心の中で思い、「やっぱ無し」と口にしようとした時、ヴィクトリアが口を開いた。

 「…私は昔、少し裕福な家の長女として生まれました。しかし、生まれた時から親は私のことを可愛がってはくれませんでした。

 お父様とお母様は、男の子が跡継ぎに欲しかったのでしょう。

 体罰なんかは当たり前でしたわ。

 そんな毎日を過ごしていると、ある日お母様と私は家から追い出されてしまいましたの。

 何故だと思います?」

 ヴィクトリアの質問にエンドハイドは「さぁ?」と答えた。ヴィクトリアは微笑んで話を続けた。

 「男の子が生まれたのです。私のお母様との間に生まれた子ではなく、別の女性の方が生みました」

 「ふーん。じゃあ、用無しになったあなた達は捨てられたってわけだ」

 エンドハイドはそう言って再びクッキーに手を伸ばす。

 「そう言うことですね。

 それから、お母様の私に対しての暴力や暴言は更に酷くなりました。『お前が憎い』『お前が女だから』『お前さえ生まなければ』と呪詛のように繰り返していました。

 行く当てもなく、路頭を彷徨っていたそんあある日、とうとうお母様は私の首に手をかけ、私を殺そうとしました。私は必死に抵抗して手元にあった石でお母様を殴り、怯んだ隙に必死の思いで逃げました。

 振り返って見たあの時のお母様の顔は今でも忘れることはできませんわ。

 それから、道を彷徨い続け、野垂れ死にそうになっているところを拾われて今に至るというわけです」

 ヴィクトリアの話を聞いたエンドハイドは少し目を伏せた。

 「やっぱ、あなたもあなたで苦労していたのね」

 エンドハイドはそう言うと立ち上がった。

 「あら? どちらへ?」

 「ちょっと、お手洗いに」

 「そうでしたか。これは失礼な質問を。

 お気をつけてくださいね」

 「………大袈裟だよ」

 エンドハイドは部屋を出てトイレに向かった。特に問題もなく用を済ませたエンドハイドは部屋に戻ろうとすると前方から歩いてきた人物とぶつかった。

 「ごめんなさい」

 エンドハイドはそう言って顔を上げた。目の前に立っていたのは首輪を付けた少し不思議な掴みどころのない雰囲気が漂っている少年が立っていた。

 「あら、オルトネイトだったのね。ごめんなさい、前を見ていなかった」

 「別に大丈夫だよ。お互い特に怪我をした様子も無いし、僕の能力に支障は無さそうだ」

 オルトネイトと呼ばれた少年はそう言って自分の体の隅々をチェックしている。 

 「そう、それならよかった」

 エンドハイドがそう言うと、どこからか声が聞こえた。

 「あなた達、そこで何をしているの?」

 二人は声がした方に目をやった。すると、そこにはエキラドネが立っていた。

 「やぁ、エキラドネちゃん」

 オルトネイトはニコニコしながらエキラドネに手を振っている。

 「別に何もしていないよ。ただ、トイレから戻ったらオルトネイトとぶつかっただけ」

 エンドハイドは面倒臭そうに答えた。

 「あら、そう。じゃあ、私は巡回に戻るから」

 エキラドネは心底興味無さそうにそう言うと、その場から去っていった。

 「…何よあいつ、自分から聞いてきたくせに」

 エンドハイドは少し苛立ったような口調で呟いた。オルトネイトはキョトンとした顔をした。

 「じゃあ、エンドハイドちゃん、僕も持ち場に戻るね」

 オルトネイトはそう言ってどこかに消えた。残されたエンドハイドは途端に馬鹿らしくなり、ヴィクトリアの部屋に戻った。

 エンドハイドが部屋に戻ると、ヴィクトリアは眠っていた。時計に目をやると、午後十一時を回っていた。少し疲れたエンドハイドは仮眠をとることにした。ふぅ、と小さく息を吐き、机に突っ伏して目を閉じた。

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