51 サクセス会議
「ん、ん? え!?」
ガバッ!!
「起きましたね、安心して下さい。いくら泥棒でも取って食べたりしませんから。」
シロマは、目が覚めて飛び起きた泥棒幼女に優しく話しかける。
「誰? あたちをどうするき!?」
幼女は、フードを外すとその素顔が露わになる。
ボサボサの金髪に、気の強そうな……というか生意気そうな目。
ん~、誰かに似てるな。
誰だろ?
「あぁ、うん。とりあえず泥棒が悪い事ってわかってるよな? お前は泥棒した後、俺たちに捕まったんだわ。ここまではわかるか?」
「知らない! あたちじゃないもん!」
う~ん、幼女ってどうやって接すればいいんだ……。
「ふむ、じゃあ君が持っていたこの財布は、何かな? これはそこにいるお姉さんが盗まれた物なんだが。」
俺は幼女にリーチュンの財布を見せる。
すると、その幼女はソワソワして慌て始めた。
「それは……拾ったの! 返そうと思ったの!」
どうする?
脅すか?
いや、相手は幼女だぞ?
うわぁ……もう、俺には無理!
誰か、誰かバトンタッチを!
俺が困っていると、盗まれた当事者であるリーチュンがその子に近寄った。
「そっか、拾ってくれたならありがとうね。じゃあお礼がしたいから名前を教えて欲しいな。アタイはリーチュンよ。」
「あたちは、ちびうさ!」
「そっかぁ、ちびうさちゃんって言うんだ。ちびうさちゃんは何歳なのかなぁ?」
「わかんない!」
「どうしてぇ?」
「あたちのママは、ずっと昔にいなくなったし、パパはあたちの事嫌いだから。だからわかんない!」
「それじゃあパパと住んでるのかな?」
ちびうさは何も言わず横に首を振る。
「パパはどこにいるのかな?」
「お城の下!」
ちびうさの言葉に、全員が顔を見合わす。
子供とは言え、誰一人として、言ってる事がわからなかった。
「お城の下?」
「じゃあ今誰と暮らしてるのかな?」
「一人!」
……。
リーチュンは、黙り込むと涙を流しながらちびうさを抱きしめた。
ギュッ!!
「やめるでち! はなすでち!」
「やだ! 離さない! だって、こんな小さいのに、こんな細くなって……可哀想よ!」
リーチュンは、そのまま話を聞くのをやめてしまい、ひたすら泣きながらちびうさを抱きしめていた。
リーチュンが思いの外上手く聞き出してくれたはいいけど、重要な事がサッパリ分からんな。
お城の下……お城の下ねぇ……。
そういや、俺もお城の下で公務員……!?
お城の下って牢屋か!
つまり母親は理由がわからないけど消えた。
父親は牢屋……。
何かが繋がった気がする。
でも重要な事が足りない。
なんだ?
わからないなら聞くしかないか。
ちびうさは未だにリーチュンの強い力に縛られながら、もがいている。
「リーチュン、ちょっと離してくれ。その子に聞きたい事がある。」
「……。」
「リーチュン、頼む離してくれ。」
「嫌……。この子は悪くないの! 怒らないで。」
「わかってる、怒らない。約束する。だから離してくれ。」
「……わかったわ。」
やっとちびうさは、リーチュンから解放された。
「ちびうさちゃん、一つ教えてくれないか? お父さんがお城の下に行ったのと、最後にあった日は同じかい?」
ちびうさは顔を横に振る。
「じゃあ最近、お父さんに会ったかい?」
今度は縦に振った。
なるほど、でも、ならどこで?
牢屋じゃ会えないはずだ。
ますます意味がわからないぞ。
仕方ない。
根気よく聞くしかないか。
「お父さんと会ったところはわかる?」
「闘技場!」
「闘技場……ね。なんでお父さんに嫌われてると思ったの?」
「だってね、パパはね、もう来るなって言うの。でもパパに会いたいから、お金が必要で……。」
「……そうか。」
なんとなくわかった気がする。
ここからは想像だが、まずこの子は生きるために常習的に泥棒を繰り返している。
そしてその理由は、父親に会うため。
一体どれくらいこんなことを続けて来たのだろうか。
それを考えるだけで悲しくなってくる。
自分の年齢がわからないってのはそういう事だ。
そして、父親が牢にいる理由も、闘技場に行かされている理由もわからない。
だが、これは後で調べればわかるかもな。
とりあえずこの子は保護する。
そして原因の調査だ。
マネア、俺は助けることに決めたぞ!
その夜、ちびうさがゲロゲロを抱きながら寝静まった頃……俺達は、会議を開いていた。
「さてみなさん、本日の議題についてはちびうさの家族についてです。何か今日わかった事や感じた事、又は今後やるべき事について、何かある方は挙手を願います。」
司会進行はもちろん俺。
「はい!」
「リーチュンさんどうぞ!」
「可哀想だと思います。」
「……はい、ありがとうございます、他には?」
「はい。」
「シロマさん、どうぞ。」
「まずあの子についてです。サクセスさんはあの子をどうする考えですか? 保護するにしても、私達は冒険者です。ずっと面倒を見るのは厳しいかと。かと言って預かってくれるような人は思いつきません。」
「……司会への質問は却下します!」
「えぇ!」
「では、他の方いませんか?」
「はい、先生。」
「イーゼさん、どうぞ。」
「とりあえずサクセス様は、あの子を助けるつもりですよね? それならば二手に別れて調べるべきです。昼間は闘技場とお城を調査しましょう。後、夜は、ギルドと劇場で情報収集です。」
「素晴らしい提案です! 流石ですね、イーゼ首席。」
「先生に褒められるなんて嬉しいわ。この後、個人レッスンをお願いしますわ。」
「それは却下です。では今の意見について、班編成を決めたいと思います。」
「はいはいはい!」
「リーチュンさん、はいは一回でお願いします。」
「はーい、アタイは闘技場に行きたいです!」
「希望かよ! 却下です。」
リーチュンは項垂れる……。
「はい」
「どうぞ。」
「今朝話したように、明日は私とサクセスさん、明後日はサクセスさんとリーチュン、最後はサクセスさんとイーゼさんでどうでしょう? 毎回同じだと怪しまれますから、最適かと思います。」
「わかりました。その提案を認めます。異議のある方は挙手をお願いします。」
……。
「それでは異議が無いようですので、採用します。次に……。」
その時イーゼが手を挙げた。
「どうぞイーゼさん。」
「シロマさんの提案は、私も同意なのですが、その間ちびうさちゃんはどうするんですか? ゲロゲロに任せるのも難しいかと……。」
「確かに……。では、変装させて俺の班に入れるか?」
「サクセス様、一つのペアはカップルを装うべきです。なので逆の方がよろしいかと。」
「私もイーゼさんの意見に賛成です。後、最初に話した通り、もしも両親がどうにもできなかった時について決めた方がいいです。」
「アタイが育てるわ!」
うん、もう会議形式はなしね。
もうめんどいからいいや。
「リーチュン、冒険者をやめるのか?」
俺の質問に一瞬固まるリーチュン。
だが、答えは比較的早かった。
「……冒険者に育てるわ!」
「あのなぁ、本人が希望するならわからなくも無いが危険過ぎるだろ。それならばセンニンに保護を依頼した方がいいだろ。悪いようにはしないはずだ。あそこなら教育も受けられる。」
「それが良いですわね、王の保護があれば、修道院でも侍女でも、選択できますしわ。流石はサクセス様ですわ!」
お、どうやら俺の案は中々良かったらしい。
全員がうなづいている事だし、それで決定でいいかな。
よし、やることは決まった。
早速明日から始めよう。
今回の作戦は……
【みんながんばれ】 だ!




