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18 姉弟の絆

 【カリー視点】



 バンバーラを神殿の外に連れ出したカリーは、近くの軽食屋に入っていた。



「姉さん。まずは無事に生きて会えて良かった」


「私もよ、カリー。お互い色々あったでしょう。私はこっちの世界に来て五年が経ったわ。」


「五年……長いな。俺はこっちの世界に来てまだそんなに経ってないんだ。やっぱりこの世界に辿り着いた時間軸はみんな違うんだな」



 カリーはソレイユのことを思い出していた。


 だがその言い方に、バンバーラは疑問を抱く。



「みんな? それは誰のことを言っているのかしら?」



 その声には少しだけ期待が混じっていた。


 だがカリーにとっては、少しだけ触れたくはない話題でもある。


 ただ、それでも話さない訳にはいかない。



「……ソレイユさ。あいつは四十年位前にこっちの世界に来たって言ってたからな」


「えぇ!! 四十年!? でも、生きているのね。良かったわ。それで今ソレイユはどこにいるの?」



 驚きながらも喜ぶバンバーラであるが、その表情が一瞬だけ曇ったのをカリーは見逃さない。

 

 やはりフェイルの事を期待していたのだろう。


 それも当然ではあるが……いずれにしても、ここから話す内容は自分の姉を悲しませるかもしれない。


 

 カリーは一呼吸おいてから、その質問に答える。


 

「……死んだよ。ソレイユは俺達と違って、サムスピジャポンという大陸に飛ばされたんだ。そこで皮肥という国の王として暮らしていた。あいつは四十年間、俺達の事を探し続けながらも、そこで家族を作り幸せに暮らしていたんだ」



 ソレイユの話を始めたカリーは、胸に押し寄せる悲しみをグッと堪えながらも言葉を続けた。


 親友の死は未だに鮮明と記憶に残っているため、その悲しみは深い。


 そんなカリーの気持ちを感じ取ったのか、バンバーラは深く追求しなかった。


 ただ、今は黙ってカリーが話す言葉に耳を傾けている。



「それで、俺とサクセス達はオーブを探すためにサムスピジャポンに行ったんだけど、そこで偶然ソレイユと再会してさ……。あいつ、スゲェ歳をとってたのに何も変わらなくてよ。相変わらず、あの変な言葉遣いで話してきて……それで……」



 そこまで話したところで、遂にカリーに限界が来てしまった。


 自然と零れ落ちる涙に、声を詰まらせ始める。


 そんなカリーの頭をバンバーラは優しく撫でた。



「辛いこと聞いてごめんね。無理しなくていいわよ。話せる時に話して」



 その優しさが今のカリーには辛い。


 ただ、辛いのはこの話を聞いている姉も同じな訳で、いつまでも子供みたいに甘える訳にはいかなかった。



「いや、ごめん。俺がこんなんじゃだめだよな。サクセスの事何も言えねぇわ。」



 そう言って、無理に涙を笑い飛ばそうとする。


 その姿がバンバーラを切なくさせるとはしらずに……



「いいのよ。あんただって私から見ればまだまだ子供なんだからね」



 久々に再会した姉弟だが、二人の関係は変わらない。


 バンバーラにとってカリーは、今も昔も変わらず、可愛い弟なのだ。



「昔なら子供扱いすんな! って反発してただろうな……でも今は、その言葉を嬉しく感じるよ。姉さん」


「ふふっ。いつの間にこんなに大人になったのかしら。可愛くないわよ」



 そう言いながらも、弟の成長を前に頬を緩めるバンバーラ。


 そして久しぶりにあった姉の優しさに落ち着きを取り戻したカリーは、話を続ける。



「話逸れちまったな。それでなんだけど、ソレイユと再会した俺達は一緒に行動することになったんだ。成り行きというより、半ば強引についてきた感じだけどな。」


「ソレイユらしいわね。きっとカリーが心配だったのね」


「まぁ、それもあっただろうな。でもそれ以上に向こうの大陸で暗躍していた魔王が原因だとも言えるけどな。」



 魔王という言葉にバンバーラは反応する。


 バンバーラはこの世界に来て多くの事を調べたが、サムスピジャポンには結界があると知っていた為、まさか魔王がそこにいるとは思わなかったのだ。



「そこまで魔王の手が……」


「あぁ。そして俺の目の前で仲間二人が魔王に殺された。だが……ソレイユは自分の命と引き換えに殺された仲間を蘇らせたんだ。それがあいつの最期さ。あいつは、いつだって仲間を誰よりも大切にしていた。」



 そこまで話すと暫くバンバーラも沈黙する。


 その目には薄っすらと涙が浮かんでいた。



「……そう。ソレイユらしいわね。彼は誇り高い男だったわ」



 ソレイユを思い出してバンバーラは呟く。


 彼女にとってもまた、ソレイユの死という事実は深い悲しみを伴う。


 しばらくは二人でその悲しみを共有していたいとも思っていたのだが、ここにきてカリーの雰囲気が変わる。



「それでさ……少しだけ言いづらいというか、恥ずかしい話なんだけど」



 そう口にするカリーの表情は、さっきまでの悲痛な面持ちではなく……なんというか子供の頃によく見た懐かしい顔だ。


 その突然の変化にバンバーラは首を傾げる。



「ん?」


「いや、姉さんにはちゃんと言っておこうと思って……」


「何よ、はっきり言いなさいよ」



 ここに来てさっきとは違う意味で言葉を濁らせるカリー。


 勿体ぶるつもりはないが、それでも中々言い憚れる内容だったのだ。


 少なくとも、ソレイユの死の後に話すような話題ではない。


 それでもその死に直接関係もあるからこそ、話そうと決めたのである。


 そして、ついにその重たい口が開かれた。



「俺な……好きな人ができたんだ。それで、そいつと一緒になる約束をした」



 カリーが口にしたのはロゼとの関係。


 そしてそれに一番驚き、喜んだのは外でもない。


 バンバーラだった。



「それ本当!? おめでとう!! 何々? サムスピジャポンで良い出会いがあったの!?」



 悲しい話題から突如として明るい話題へと変わる。


 そしてその報告を受けたバンバーラは、敢えてローズの事には触れない。


 ようやく弟が彼女の死を本当の意味で受け入れたのだ。


 水を差すようなことを口にするはずもない。


 バンバーラはニコニコしながら弟の嬉しい報告を聞き続ける。



「あぁ。ロゼって言ってな。ソレイユの孫なんだ。ソレイユが命を懸けて守った相手でもある。見た目はローズそっくりで、いや、見た目だけじゃないな。性格も本当に似てて驚いたぜ。姉さんも見たらビックリするだろうな」



 ロゼの事を嬉しそうに話すカリー。


 ただそれを聞いたバンバーラは複雑だった。


 カリーはそのロゼという女性を愛しているのではなく、ただ、ローズの面影を被せてしまっているのではないかと心配になったのである。



ーーーしかし



「安心してくれ姉さん。俺はローズの事はこれからも忘れるつもりはないが、ロゼをローズの代わりとして見ている訳じゃない。ローズはローズ。ロゼはロゼだ。それはちゃんとわかってる。その上で、俺はロゼを好きになったんだ。」



 その言葉を聞き、バンバーラは安心した。


 それと同時に、自分の知らないところでこれほどまでに成長したカリーに少しだけ寂しさも覚える。


 

 その後、頼んだ軽食と飲み物が来たことから一時話を中断し、まずはお互いの再会を祝して乾杯するのであった。


 


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