138 愛
【仲間視点】
「ロゼ……お前、本気なのか?」
カリーは門の外まで出たところで立ち止まると、振り返って、その後ろを黙ってついてきたロゼに聞いた。
「本気よ。私は本気。私の残りの人生がどこまで続くかはわからないけど、その最後まで私はカリーの傍にいるわ。もう、カリーの隣は誰にも譲れないの。」
その目は強い決意の意思に満ちていた。
そしてそれを見て、カリーは思う。
(やっぱりロゼはローズにそっくりだな)
「そうか。正直に言うが……お前のその言葉……」
カリーはそこまで言って言葉を少し止めた。
自分の気持ちに正直になっていいのか、未だに迷っていたからである。
一方ロゼの方はそう話を切り出したカリーの浮かない顔を見て、恐怖に襲われていた。
もしかしたら、カリーにウザがられたかもしれない。
もしかしたら、私のこんな気持ちがカリーは嫌かもしれない。
そんな事を考えると、恐怖が苦しみに変わっていく。
ーーだが、
「……凄く嬉しく思う。俺は……二人の女性を愛してしまった。」
それは、まるで懺悔の言葉のようだった。
しかし、その言葉を聞いたロゼの顔からは恐怖が消える。
いや、消えるどころから、その顔一杯に喜びが広がっていた。
「ねぇ、カリー。あえて聞くね。その二人っていうのは、一人はローズさん?」
「そうだ。」
「ふーん。やっぱりね。じゃあもう一人は誰?」
「そ、それは、だから、その……」
ロゼの質問に少し歯切れ悪そうに答えるカリー。
その様子を見て、ロゼは悪戯な笑みを浮かべる。
「ちゃんと教えて欲しいなぁ。私はこれだけ捨て身で自分の想いを伝えたんだけどなぁ~。」
「それは……すまない。」
「すまないじゃなくて、ちゃんとカリーの気持ちを言葉として聞きたいの。だから教えて、カリー。」
中々質問に答えないカリーに、再度ロゼはハッキリと伝えた。
内心、これで私じゃなかったら笑えないし、立ち直れないな、と思いながら。
ーーすると
「わかった。ハッキリ言う。俺はお前が好きだ。」
「好き? それは仲間として?」
意を決して答えたカリーであったが、その言葉ではまだロゼには足りないらしい。
まさかの返しにカリーは戸惑うが、その時ふと顔を上げると、ロゼの不安そうな顔がその目に映った。
それを見て、覚悟を決める。
自分に嘘をつかないと……。
「違う……仲間としてじゃない。俺のお前に対する気持ちは……これだ。」
カリーはそう言うとロゼを抱き寄せ、その唇を奪う。
「俺はお前を愛している。いつからお前をそう想うようになったか、自分でもわからない。だけどこれだけは言える。俺はローズの面影を見てお前を好きになったわけじゃない。お前がロゼだから好きになったんだ。」
ずっとローズの事が心に残っていて言えなかったカリーの本心。
一度吐き出してしまえば、ロゼへの気持ちが波のように押し寄せてきた。
もう二度と女性を愛する事はないと思っていたカリー。
しかし出会ってしまったのだ。
本当に自分を愛し、自分を大切に想ってくれる存在に。
そしてそれは自分にとっても、同じ想いとなる。
だが、だからこそ怖い。
一度愛する者を失った時の恐怖が、未だにカリーを苦しめている。
あの時の恐怖が、カリーを素直にさせてはくれなかった。
けれども、今その恐怖をカリーは乗り越える事ができた。
ロゼのストレートな愛によって……。
ロゼは、涙をこぼした。
……笑顔のまま。
そしてカリーに再び抱き着いた。
「嬉しい……嬉しいよカリー。こんなに……こんなに幸せな事が世の中にはあったんだね。私、夢にも思わなかった。」
「あぁ、俺も嬉しいよ。だけど……」
「わかってる。無理しなくていいよ。もう十分。だからこれ以上カリーを困らせないわ。だってカリーは向き合ってくれたから、私の気持ちに。」
ロゼはカリーの気持ちを聞いて、何が言いたいかわかっていた。
これからもきっとカリー達は、今回と同じ様な危険と立ち向かっていかなければならない。
その中で自分は足手まといだし、ついて行けばきっとカリーは無理をする。
自分の我がままでカリーを危険にさせる訳にはいかない。
「すまない……ロゼ。」
「謝らないで。でもね、私は待っているから。元気一杯でいつでもカリーの帰る場所になるから。だから……」
そう言葉を続けながらも、カリーと別れる事に胸が張り裂けそうになって言葉が詰まってしまった。
「ありがとう。俺は絶対にお前のところに帰る。帰る場所があれば、俺は絶対に死なない。約束する。」
「本当? 信じていいの?」
「あぁ、信じていい。俺の旅の終着点がやっと見つかったからな。俺はお前のところに帰る。そしたら……一緒に暮らそう。ロゼ。」
「はい……。ずっと待ってます。ずっと……ずっと……。」