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106 蒼き光

【カリー視点】



 イモコを残し、シルク達の下へ急いで向かうカリー。

 シルクはセイメイを担ぎ、卑弥呼を抱きかかえて入口に向かっているためか、その速度は遅い。

 それ故にカリーはシルク達が入口に到着するよりも早く、その背中を捉えた。



「みんな振り向かずに聞いてくれ。妲己の正体は魔王だった。今はイモコが時間を稼いでくれているが急がないとイモコが危ない。シルクはそのままセイメイを下ろしてくれ、ここからは俺が背負う。」



 カリーはシルク達に接近しながらも状況を簡潔に伝える。

 その言葉を聞いたシルクは、振り返ることなく無言でセイメイを地面に下ろすと、卑弥呼を背負い直して走りだそうとする。


 内心ではカリーが未だに無事である事に喜びを隠せないシルクだが、今はそれを喜んで立ち止まる訳にはいかない。それがわかっているからこそ、シルクは無言で言われた通り行動した。



ーーーだが……



「んふぅ。置いて行くなんてつれないじゃなぁい?」



 突然聞こえるゲルマの声。

 その声にカリーの心臓が激しく波を打つ。



(なぜ? まさか……イモコが!?)



 考えたくはないが、ゲルマがここにいるという事はイモコを抜いてきたという事。

 つまりそれは、イモコの死を意味した。


 カリーはセイメイを背負う瞬間であったが、それをキャンセルし、その声に振り返ると同時に剣を抜く。



ーーしかし、遅かった。遅すぎた……。



 ゲルマはカリー達に声をかけると同時に闇の玉を放っており、それは寸分たがわずシルクの背に乗った卑弥呼に向かっていた。



(間に合わない!!)



 そう思った瞬間だった。


 なんと卑弥呼の前にロゼが立ち塞がり……そしてその黒き玉はロゼの心臓に直撃する。



 …………!?



 それはあまりに一瞬の事だった。


 黒き玉を直撃したロゼは、声を出す事なくカリーに向けて微笑むと……そのまま亡き者となってしまった。



「あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 ……響き渡るカリーの慟哭



 あの時と同じ……

 思い出したくもない程の辛い記憶。

 ロゼもまた、最後にカリーに笑顔だけを残していなくなった。


 到底受け入れられないその光景に、カリーは叫ぶと同時に斬りかかった。

 今まで通りであれば、その一撃がゲルマに当たることはない。

 しかし、今回はその右肩にその刃がくい込んだ。


 なぜ攻撃が当たったのか?

 理由は簡単だった。


 ゲルマにとって一番大事な事が、卑弥呼を殺す事だったからである。


 ゲルマの最初の一撃は、運が悪い事に他の者に防がれてしまった。

 故に、ゲルマは迷わず次の一撃を放っていたのである。

 コンマ数秒ではあったが、その間ゲルマは無防備だった。

 その為、防御する暇がなかったゲルマは、カリーに一撃を浴びせられてしまう。


 そんな中放ったゲルマの渾身の一発であったが……



「ひ、卑弥呼様……。」



 なんと今度はセイメイが卑弥呼を庇って黒き玉をその身で受け止める。

 それと同時に、その言葉を最後に、セイメイもまたロゼと同じように死んでしまった。


 あまりに一瞬……それはあまりに一瞬の出来事だった。


 後少しで入口まで逃げ、ライトプリズンまで辿りつくところ……ゴールはもう見えている。

 それがここにきてまさかのゲルマの襲来により、大切な二人の仲間を失ってしまった。



 シルクが振り返った時……既に二人は死んでしまっている。



 だがどういう訳か、シルクはそれに気づいて尚カリーのように叫んだり、感情に任せてゲルマに襲い掛かることはなかった。


 シルクは今まで被っていた仮面を外すと一瞬だけ目を閉じ、開くと同時に覚悟を決めた目で一言呟く。



「カリー……後は頼んだでがんす。」



 だがその声はカリーには届かない。



「ゲェェェルゥゥゥマァァァァ!!」



 怒りに満ちたカリーは、ただひたすら全力でゲルマに斬りかかっていた。


 ゲルマとしてもカリーの攻撃をこれ以上くらう訳にはいかなかったが、それでも2度攻撃を防がれてしまった事に焦りを募らせる。



 その焦りの原因はイモコだった。



 中距離転移で一気に仕留めるつもりであったが、このままだと卑弥呼を殺す前にイモコに追いつかれる。


 本来ならば一度単距離転移でカリーの攻撃を回避したいところであるが、そうしたところでイモコに倒される可能性の方が高い。当然このままカリーの攻撃を受ければ同じように死ぬ可能性もあるが、同じ死ぬならば必ず卑弥呼も道ずれにする。



 たとえ己の身がここで朽ちようとも、卑弥呼だけは殺す。



 それは大魔王マーゾに対する絶対的な忠誠心。

 意外にもゲルマは、自身の身の安全よりも大魔王への忠誠心を優先させたのである。


 故にカリーの攻撃を受けながらも三発目を放とうとするが……その前にカリーの怒りの一撃により、その胴体を真っ二つにされ、三発目を放つことは叶わず倒されてしまった。



「コココココ……こんな……はず……では……マ、マーゾさまぁぁぁ!!」



 最後の断末魔の叫びを残し、ゲルマはその身をゆっくりと塵に変えていくが、それでもまだカリーはひたすらゲルマに攻撃を続ける。



「あ”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁぁ!!」



 完全に怒りに我を失ったカリーは、それでもその手を休めることなく斬り続けた。



 何度も……何度も……何度も……



 ゲルマが完全に塵となって実体が無くなってもなお、カリーはその場で剣を振り続ける。


 それはある種、カリーにとって防衛本能だったのかもしれない。


 もしも攻撃が終われば、後に待っているのは受け入れがたい現実。


 攻撃を止めて振り返れば、認めたくない現実をその目に映してしまう。


 だからこそ、カリーは攻撃を止めない。


 例えその対象が既にいなくなっていたとしても……。



ーーそんなカリーであったが、暫くしてその手がピタッと止まった。



 カリー達がいる空間に、突然温かな空気が広がったからである。


 その温かさはどこか懐かしくも、それでいて、心が思い出す事を否定する温かさ。


 優しくも儚いその空気は、カリーの心を徐々に冷静にさせる。


 だが心が冷静になるとは逆に、カリーの心拍数はどんどん上がっていった。


 既にカリーはこの感じが何かを思い出している。


 この感じは間違いない。



……生命の温かさだ。



 カリーは勇気を出して振り返る。


 決して見たくはない現実……しかし、それでも見届けねばならない。


 そんな使命感からカリーは温かな光に目を向けると、その目に映ったのは……蒼く輝く親友の姿だった。



ーーそして次の瞬間

 


【聖なる蘇生アイガザル



 その呪文と同時にシルクの体は爆散した。



「シ……シルクゥゥーーー!!」



 その瞬間を見たカリーは再び叫ぶ。

 まるであの時の焼き直しだ。

 そう……最愛の人……ローズが【ミガッテ】を唱えた時。


 そして同じように、シルクの爆発と同時に蒼き光が一面に広がっていった。


 その蒼き光もまた、かつてローズが最後に放った赤き光と同じもの。


 あの時、ローズはその命と引き換えにダークマドウ……そして魔の軍勢を滅ぼした。


 だが今回の光は、あの時とは異なり蒼い光。 



 それはローズが放った【ミガッテ】と対を成す禁忌の呪文【アイガザル】による聖なる光だった。



 これは己の命と魂を引き換えに死者の魂を呼び戻し、そして体を蘇生する魔法であり、レベル99に到達したパラディンのみが使える魔法である。


 この魔法は、死んで間もない者であれば、その蒼き光がその魂を死者の体に引き戻してくれる。

 

 当然既に魂が天に還ってしまった者までは無理だが、少なくともセイメイとロゼの魂はまだ天に還っていなかった。



 その結果……死んだはずだったセイメイとロゼがその目をゆっくりと開く。


 そしてそれだけではなく、卑弥呼は意識を戻すと、カリーとイモコの怪我すらも蒼き光は回復させた。


 だが……ハンゾウだけは生き返らない。

 

 ハンゾウは己の魂ごと自爆していたため、その魂は形を成すことなく天に還ってしまっていた。

 あくまで呼び戻せるのは、その魂がまだ形を残している場合だけである。



「あれ? 私は……? カリー!! 無事……ど、どうしたの?」



 復活したロゼは、言葉を失って涙を流し続けるカリーを見て驚いた。



 一体何があったのか?

 カリーが止まっているという事は、既に脅威は去っているという事。



 でもなんで……なんでカリーはあんなに悲しい顔をして泣いているの?



 そう疑問に思った瞬間、胸がゾワッと騒めき、ふと視線を後ろに向けた。

 

 そこには祖父の愛刀である大鉾だけが地面に落ちている……そして祖父の姿は見当たらない。



(まさか!?)



「カリー! おじい様は!? おじい様はどこ!?」



 その必死な叫びに、カリーは答えない。



 いや……答える事ができなかった。



  ※  ※  ※



 一方、ロゼと同時に生き返ったセイメイは、辺りを一度見まわした後、卑弥呼を見つけて抱き着いていた。

 そんなセイメイを卑弥呼は抱き返すと、その頭を優しく撫で……贖罪の言葉を口にする。



「すまぬのじゃ……すまぬのじゃ……わかっておる。わかっておるぞ、我が孫よ……。」



 セイメイはロゼとは違い、生き返って数秒後にはここで何が起きたのかに気付いていた。



……自分は間違いなく死んだ。



 だが蒼き光に誘われるように戻ってきたところ、自分は生きている。


 その光が何かをセイメイは知っていたし、その結果も理解していた。


 だからこそ、その胸を激しく痛めていたのである。 


 短い付き合いであったが、セイメイにとってもシルクはかけがえのない仲間だった。


 今まで幾度となく戦場で近しい人が死んでいくのを見届けてきたが、それでもつらい事に変わりない。


 だからこそセイメイは、意識を戻した卑弥呼に抱き着きながら、黙って涙を流していたのであった。


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