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37 膝枕とフェロモン

 現在俺達は、アバロンから北西側にある、いにしえの塔に向かっている。

 今回はスピード勝負であることから馬車は使わず、足の速い馬を二匹に借りて走っていた。

 ちなみにリーチュンの馬にはイーゼが、俺の馬にはシロマが乗っている。

 馬は二人づつ乗せて走っているが、それでも馬車より断然速い。

 この分なら、今日の日付が変わる頃には着くはずだ。 



「サクセス! 顔色が悪いわ。本当に大丈夫?」


 隣で併走するリーチュンは、俺の様子を見て心配する。

 それもそのはず。

 俺は昨夜から寝ずに現在まで強行しているのだ。

 いくら体力値が200オーバーの俺でも、眠気と体力が限界に近い。

 だが今はそんな弱音を吐いている時ではなかった。

 遅くなればなるほど逃げられる可能性がある。故に俺は止まらない。 



「あぁ、頭痛はするがまだ大丈夫だ。このまま急ぐぞ。」


 俺が強がりながらもそう言うと、俺の後ろに座っているシロマが俺の頭を軽く小突いた。 



「サクセスさん、朝に言いましたよね? もっと私達を頼って下さい。だからサクセスさんの意見は却下です。少し休憩しましょう。馬も休みなしで走れば動けなくなります。」



 シロマに言われて今朝の事を思い出す。

 俺は、またはき違えるところだった……。 



「すまないシロマ。わかった。じゃあ、その先に見える岩場で少し休もう。」 


「うん! アタイ、先に行って安全を確認してくるね! サクセスはゆっくり来て。」 



 リーチュンはそう言うと、馬に鞭を入れて速度を上げ、一気に岩場に向かって走っていく。

 しばらくして、俺の馬も岩場までたどり着くと、既にそこには石で囲まれた安全地帯が作られていた。

 先に到着したイーゼが、ストーンウォールを使って、簡易的な休憩所を作ったようだ。

 それを見て、シロマもすぐさまホリフラムを唱えて結界を張る。 



「一時間程休憩しましょう。サ、サクセスさんは……こちらに来て少し寝てください……。」



 シロマはそういうと、自分の膝の上を恥ずかしそうに指しながら言った。 



「えっ?」



 俺は一瞬、シロマが何言っているかわからなかった。


 こちらってどちら?

 ま、まさか……ひざまくら!?


 突然積極的になったシロマの言動に、俺は戸惑う。 



「あ、あまり肉付きはよくないと思いますが、石の上よりは柔らかいはずです。それに、少しだけ疲れを和らげる魔法も使えますから……。」



 どうやら、シロマも大分無理をしているようだ。

 テンパっているのがよくわかる。


 そこまでして俺を……くそ可愛いな。 



「ちょっとシロマ! アンタはサクセスの後ろに乗ってたんだから、次はアタイの番よ! アタイが膝枕するわ!」 


「そうですわ、自分でもおっしゃってますが、私の膝の上の方がサクセス様もゆっくり休めますわ。」



 リーチュンとイーゼがシロマの行動に異議を申し立てると、イーゼはローブの裾を捲って、俺にその魅惑的な足を見せつけた。


 ムラムラするからやめてほしい。

 まだ俺は……抜けてないんだ……。

 賢者に転職するまで待ってくれ! 



「アンタは黙ってなさい、この変態! またサクセスに悪戯するつもりでしょ!」


「あなたこそ、そんなカチカチの足じゃサクセス様を満足させられませんわ。私なら熟睡できる魔法も使えますし、どう考えても私が適任ですわ。」



 俺の膝枕を巡って、美少女達による三すくみの戦いが始まる。

 なんと羨ましい光景だ。

 できるなら俺は、その戦いを見守っていたい。

 でも今はそんな余裕はない。

 だから、俺の答えは既に決まっている。 



「みんなありがとう。でも時間がない。シロマ、迷惑かけるけどよろしく頼む。」


 俺はそう言うとシロマのところに行って、シロマの膝の上に頭を置いた。

 これで三人の争いは終わる。シロマWINだ。



「アタイだって……役に立ちたいもん……。」



 それを見てリーチュンは悲しく呟いた。

 どうやら今朝の事をまだ引きずっているらしい。

 リーチュンは何も悪くないんだけどな。



「俺は、リーチュンが元気な姿を見せてくれるだけでいつも元気をもらってる。それにこの後、いにしえの塔まではノンストップで向かうから、ここから塔までは、俺をリーチュンの後ろに乗せてくれ。俺はリーチュンの後ろなら安心して休める。だから頼りにしてるぞ。」



 俺がそう言うと、リーチュンの顔がぱぁっと明るくなった。 



「わかったわ! みんな聞いたわね? ここからはサクセスがアタイの後ろね。」 


「サクセス様がそうおっしゃるのであれば異存はありませんわ。でもシロマさん、30分経ったら私と膝枕を代わって下さらない? 私もサクセス様の寝顔を間近で見たいですわ。」 


「それは構いませんが……わかりました。約束ですものね。」



 しぶしぶ、シロマはそれを認める。


 約束?


 どうやら昨日の女子会で何かルールができたらしい。

 それが何か気になるが、今はそんな事よりもこの膝枕だ。

 俺は、躊躇なくシロマの柔らかい太ももに顔を埋める。


 体と精神は疲れているのに、シロマの太ももの間から香るフェロモンの匂いに、息子だけが全快した。

 既に完全体になっている。


 これぞまさに疲れマ〇。


 悶々と興奮していると、目が冴えてしまった。

 まずいな、このままじゃ休めない。


 そう思った時、シロマが何か呪文を唱える。

 シロマの手が魔法の光を帯びると、その手が俺の頭を優しく撫でた。


 それはとても気持ちがよく、心の奥から安らいでいく。


 だが、俺の性欲はそんな事では収まらない。

 安らぎ以上に、ムラムラが半端ないのだ。


 俺の本能がシロマの太ももと秘密のデルタ―ゾーンを堪能しろと叫ぶ。

 だが、同時に早く休めと叫ぶ奴もいる。


 今日もまた天使と悪魔による激しい戦いを繰り広げていた。


 俺が悶々としていると、今度は、突然イーゼの呪文が聞こえてくる。



「ラリパッパ。」



 なんじゃそのイカレた名前の魔法は!


 と思うもつかの間、その呪文が聞こえた瞬間、俺は急激な睡魔に襲われた。

 その魔法は眠り魔法であり、疲れていた俺には一発で成功する。



 もう少し……。

 もう少し堪能……させ……てくれよ……。



 そして俺は深い眠りにつくのであった。


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