13 激闘カリー
【カリー視点】
「テメェ! 待ちやがれコラっ!!」
「待てと言われて待つ馬鹿がどこにいる? 安心したまえ。お前の相手は用意してある。」
ローズを抱えて逃げゆくダークマドウ。
ローズは黒色の靄がかかった紐で縛り付けられており、身動きが取れないでいる。
カリーはそれを必死で追った。
しかし敵の逃走速度は早く、一向に距離が縮まらずカリーは焦り始めたその時……
突然、カリーの横から剣戟が飛んできた!
カリーはダークマドウを追うのに必死で、周りが見えていなかった。
それでも咄嗟に反応して、不意打ちを剣で受け止めたのは流石と言わざるを得ない。
カリーはその剣を受け止めた先を見ると、そこにいたのはローズを攫った張本人のラギリだった。
少しづつ距離を詰めていたカリーにとって、これは大きな足止めとなる。
「どうした? 大分焦っているようだな。あの方の邪魔はさせんよ。」
「貴様っ!! ラギリか! 邪魔すんじゃねぇ、お前に構っている時間は無いんだよ!」
「ほう、それはいい事を聞いた。それではこのままお前の邪魔をさせてもらおう。」
焦るカリーに対して、余裕の笑みを浮かべるラギリ。
そしてカリーの追跡が止まった事で、ダークマドウは柵を飛び越えて隠れアジトから出て行ってしまう。
それを目で追ったカリーは、ラギリを無視して追おうとするが行手を阻まれる。
「どけっ!! 邪魔するなら殺すぞ!」
激しい殺気と共に言い放つカリーだが、ラギリはそれを見て愉快そうに笑う。
「いいぞ! お前いいな。その殺気……お前は俺と同類だ。どうだ、勇者なんかと一緒にいないで俺とこの世界を楽しもうじゃないか。この世界を混沌に陥れて新たな世界を創造するのだ! どうだ? ワクワクしてこないか?」
「ウルセェ! 狂人と話している暇はないって言ってんだよ!!」
【乱れ斬り】
カリーは叫びながらラギリに必殺技を放つと、ラギリもまた同じ技を放った。
二人の剣が両者の中央でぶつかり合うと、お互いを弾き飛ばす。
二人は共にバトルロードという戦士の上級職。
カリーは勇者と共に死線を乗り越え、通常では手に入らない程の力を得ていた。
しかしラギリもまた、長い人生でその身を戦場に置いており、培った能力は先に倒した盗賊団幹部等とは一線を画している。
その力は王国最強のゼンよりも強いと噂されていた。
つまり……二人の力量は、ほぼ互角。
「お前の力はそんなものか? もっと見せろ! もっと出してみろ! お前の欲を……お前の力を……お前の全てを吐き出してみろぉぉ!」
挑発しながらも剣の手を緩めないラギリ。
一方カリーはどうしてもダークマドウの行方……否、ローズの身を案じていつもの調子が出ない。
二人の力はほぼ互角であるが、ステータス上であれば本来カリーの方が上をいっている。
しかし、対人戦の経験が多いラギリは、ステータスの差をその経験で埋めていた。
そして二人の剣が高速で何度も混じり合う。
一見するとカリーが押しているようにも見えるが実際には違う。
熱くなったカリーは無駄な動きが多くて体力を消耗しているが、ラギリは最小限の動きで体力を温存していた。
長期戦になれば完全にカリーが不利である。
「クソっ! こんな奴に構っている暇はないのに! いい加減くたばりやがれ! オラぁぁーー!!」
カリーの渾身の一撃がラギリを弾き飛ばした。
ラギリが体勢を崩したのをを見て、追撃すると同時に大振りでトドメを刺そうとする。
ーーしかし、その一撃はラギリではなく空を斬った。
弾き飛ばされたように見えたラギリは、実は自分で後方に飛んでいたのである。
時間が無い事に焦っていたカリーはその罠に食いついてしまった。
そして大振りをしてしまい、がら空きになった腹部を強烈な蹴りが襲い掛かる。
「がはぁっ!!」
「甘い甘い。まだまだ貴様は甘ちゃんだ。そんな事ではお姫様は助けられないぞ。」
「う、うるせぇ! お前なんかさっさと倒して……俺はローズを助ける!」
その後も冷静を欠いたカリーは、ラギリに翻弄されながらも攻撃を続ける。
しかしさっきとは打って変わって、今度はカリーが一方的に押されていった。
さっきの蹴りでカリーの内臓はダメージを負い、ジワジワとカリーの体力を奪っていく。
そしてそれを見逃す程、ラギリは甘くない。
ラギリは隙ができた場所を容赦なく斬りつけると、徐々にカリーの体に切り傷が増えていった。
(クソっ! 早くしないと……早くしないとローズが!!)
ジワジワと失われていく血液。
内臓のダメージも大分蓄積している。
そして、焦れば焦る程カリーの動きは散漫になっていった。
その様子を見て、さっきまで楽しそうにしていたラギリの顔が何故か曇っていく。
その目はまるで、壊れたおもちゃを見るような目であった。




