5 熱探知
【カリー視点】
現在、カリー達は馬に乗って北西方に向かって駆け抜けている。
メリッサから北西方は深い樹海となっており、それを抜けた先には海しかない。
つまりローズがいる場所はその樹海の中だと推察できる。
そして平原を駆け抜けている際中、遠くに10騎程の馬が同じ樹海に向かっているのを発見した。
「あれは……見た感じ王国の兵士のようだが、カリーはどう思う?」
「旗は……ないな。けどまちがいねぇ、あの白い兜はシルク王子、つまりはローズの兄貴だ。王子が直接出向くとなりゃ、間違いなく行先はローズが捕まっている場所に違いねぇ。あいつに付いて行けばローズの居場所がわかるかもしれないな。どうする、フェイル?」
「そうだな、合流するか?」
「いや、合流はしない方がいいだろう。敵を欺くにはまずは味方からってな。教えてくれたのはフェイル、アンタだろ? だから、このまま距離をとりつつ進んで行き、ローズがいる場所がわかったら裏側に回り込む。あいつらには囮になってもらう方がいい。」
カリーはニヤリと笑みを浮かべる。
「流石だな、カリー。いつもの調子が戻ってきたじゃねぇか。なぁ、バーラ。」
「えぇ、私もカリーの作戦に賛成だわ。シルク王子が直接出向くのであれば、敵は間違いなくそっちに注意を引く。私達の目的はあくまでローズちゃんの救出。戦闘ではないわ。」
バンバーラもカリーの意見に賛成すると、真剣な眼差しでシルク王子が進む方は見つめていた。
魔族や魔物との戦闘経験はあるものの、対人経験はほとんどない。
その為か、バンバーラは少し緊張しており、肩に力が入っていた。
だが、それとは逆にカリーの目は自信に満ちている。
ローズを守る為に身につけたその力、今がまさにその時だからだ。
カリーは二度の転職を経て、現在バトルロードという職業になっている。
今でこそ火力特化型の職業だが、その前はレンジャーというスカウトに特化した職業だった。
なぜわざわざレンジャーを経ているかと言うと、その職業で手に入れられるスキルが勇者パーティに必要だったからである。
しかし同時にそれは、カリーが戦士として強くなる期間を失う事を意味した。
その為、当時フェイルはそれに反対したのだが、それを押し切ってカリーは転職したのである。
どうしてもレンジャーの一部の者だけが取得できる熱探知のスキルが欲しかったのだ。
熱探知はレンジャーになれば取得できるスキルではない。
勇者の加護を受けたレンジャーのみが取得できる特別なスキルである。
しかし勇者パーティであるカリーなら、ある程度レベルを上げれば容易に取得可能だった。
そう考えると得した気にもなれるのだが、実はそういう訳でもない。
勇者の加護を受けることができるのは、一人につき一回のみ。
つまり、戦士……いやバトルロードとして加護を受ける事ができなくなったということだ。
それが意味するところは、カリーは強くなる機会を失うという事。
強くなりたいと願うカリーであれば、当然バトルロードで加護を受ける方が良いに決まっている。
だがパーティとして動くならば、熱探知スキルは喉から手が出る程欲しいスキルだった。
故にカリーは、単純な戦力よりも恩恵の大きいそのスキルを選んだのである。
あの時の選択は間違っていなかった。
今カリーはそれを強く感じている。
神様がこの時の為にそうさせてくれたとさえカリーは思った。
なぜならば、ローズを救出する為にこのスキルは最適だからである。
体温を探知する事で、敵の位置も味方の位置も……そしてローズの位置すら把握する事が可能。
それは救出任務において、ある意味チートに近いスキルだった。
「あぁ、今になってバトルロードに転職する前にレンジャーになっていた事を感謝するぜ。俺の熱探知スキルがあればローズの場所がわかるはずだ。俺がスカウトをするから、フェイルと姉さんは俺の後ろを付いてきてくれ。」
「わかった。カリー、頼んだぞ。姫様を救えるのはお前だけだ。」
「任せとけ! そのために俺は強くなったんだ! ローズは俺が必ず助ける!」
カリーはそう言うと、手綱をギュッと握りしめながらも速度を落とす。
熱探知スキルがあれば、とりあえず離れていてもシルク王子達を見失う事はないからだ。
そしてカリー達はシルク王子とそのまま一定の距離を保ったまま、樹海に向かって進んでいくのであった。




