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二章 1 黒煙

 船が港に近づくにつれて、不穏な光景がカリー達の目に映り始める。

 空に立ちのぼるは、不吉な予感を感じさせる禍々しき黒煙。

 その煙は、普通に考えて煙突から立ち上る煙というレベルではない。

 間違いなく、メリッサで何か良くない事が起こっている事をカリー達に想起させた。



「カリー、あの煙がどこから上がっているかわかるか?」



 フェイルは目を細めて煙の発生場所を注視しながらカリーに尋ねると、カリーは顔を真っ青にさせて叫ぶ。

 


「あの場所は……俺の……俺と姉貴が暮らしていた貧民街だ!」


「嘘!? なんで? どうして貧民街だけが燃えているのよ!」



 冷静なフェイルと違って、カリーとバンバーラは一目でわかるくらいに激しく動揺していた。



「二人共落ち着け!! とりあえず状況は分からないが、陸に着いたら急いであそこに向かうぞ。港からどうやって行くのが一番早い?」


「そ、そうね。こんな時程冷静にならないと! えっと、港からだと商業区を抜けるのが一番早いわ。丁度いいから、そこで馬を借りて行きましょう。」



 フェイルの声を聞き、少しは落ち着きを取り戻したバンバーラ。

 しかし鬼気迫る状況で馬を借りる必要があるのか、フェイルには疑問だった。



「馬を? あそこまでは走って行くと遠いのか?」


「そこまで遠くはないけど港に厩舎があるの。それなら馬に乗った方が速いわね。」



 フェイルとバンバーラは、既に港についてからの行動について話し始めていた。

 しかしカリーだけは未だに放心状態であり、煙が立ち上っている貧民街を見つめている。

 どうやらカリーにとって故郷が燃えている状況は、想像以上に精神的ダメージが大きかったようだ。

 未だに頭が現実に追いついていない。


 そんなカリーに気付いたフェイルは、カリーに近づくと平手打ちをした。



「おいっ! カリー、しっかりしろ。お前が守るんだろ? 目を覚ませ!」



 すると、その痛みでカリーは我に返る。

 といいたいところだが、やはり未だにショックは消えていないようだ。



「あ……あぁ。そうだ……俺が……俺が守らないといけねぇ!!」



 カリーの目には憎悪の炎を灯っており、今度は今度で前が見えていない感じになっている。

 


「一人で気負う必要はない。大丈夫だ、俺もバーラもいる。バーラがいれば火は抑えられるはずだ。それよりも、何が起きているかの確認をしたい。港に着いたらお前は状況を確認してくれ。その間に俺とバーラで馬を借りてくる。できるか?」



 そんな状況のカリーをフェイルは責めない。

 軽く肩に触れて落ち着かせようとするだけだ。

 しかし、今のカリーにはほとんどフェイルの言葉は耳に入っていない。

 胸の中で膨らむ憎悪がカリーの平静を完全に奪っていた。



「あぁ……。当然だ。俺の故郷をめちゃくちゃにした奴をタダじゃおかねぇ!!」



 理由は分からないが大切な故郷が燃えている。

 大切なものが壊される悲しみはフェイルは何度も味わった。

 そのためカリーの気持ちは痛い程よくわかる。

 しかし、だからこそ今は冷静にならなければならない。

 自分と同じ過ちをカリーにさせるわけにはいかない。



 落ち着かせようと優しく声を掛けていたが、今はそんな状況ではない。

 そう判断したフェイルは、今度は手拳でカリーの顔面を殴打した。



「がはっ!!」



 突然の激しい痛みに、腹の中から思いきり空気を吐き出すカリー。

 そしてフェイルは床に倒れ込んだカリーの胸倉を掴み上げんで怒鳴る。



「そうじゃねぇだろ! まだわからねぇのか?!? こういう時程冷静になれっていつも言ってんだろ! 大切なもん守りたかったらなぁ、自分を見失うんじゃねぇ!」



 その形相を見てカリーは次第に頭が冷静になっていった。

 そして唇から滲む血を腕で拭い取ると、今までの旅でフェイルに言われ続けていた言葉を思い出す。



 常に心は熱く、そして頭は冷めたく。



 この言葉はフェイルのモットーであり、そしてカリーにとっても、幾度となく心に刻んできた言葉だ。

 この言葉が意味する事は、これまでの厳しい戦いの中で痛い程痛感している。

 それだけ冷静さを失わないという事がどれだけ大切かをカリーも理解していた。



「いきなり殴ってすまない、カリー。それで、俺はお前に情報収集を任せていいのか? お前がまだショックから立ち直れないなら……」


「できる! すまねぇ、兄貴。悪かった、少し熱が頭に回っちまったみたいだ。でももう大丈夫。とりあえず状況の確認は俺に任せてくれ。」



 どうやら、一応はフェイルの話は聞こえていたらしい。

 フェイルが最後まで言う前にカリーは自分がやれる事を伝える。

 それをみて、フェイルは黙って首を縦に振る。

 任せてもいいと判断したようだ。



「わかった。頼んだぞカリー。俺とバーラは港に着いたら馬を借りに行く。お前は出来る限り早く、そして多くの情報を集め終わったら厩舎にきてくれ。それでいいか? バーラ。」


「えぇ、問題ないわ。とにかく船がついたら急ぎましょう。いつも通り時間勝負ね。」



 こうしてカリー達は、船が港につくと別々に分かれて役目を果たす。

 そして港についたフェイルとバーラは厩舎に向かって走りだすと、カリーもまた別方向に向けて全力で走るのだった。 


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