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3 貧民街の住人

 ローズは貧民街に辿り着くと、一軒のみすぼらしい民家から出てきた中年の女性に声を掛けられた。



「あらあらローズちゃん、泣いているの? このリンゴを食べて元気をだしなさいな。美人が台無しよ。」



 その女性は持っていた赤いリンゴをローズに差し出した。



 貧民街に住んでいる者達は、王族や貴族が大嫌いであったがローズだけは違う。

 王族であるにもかかわらず、平民を見下すことなく、いつも素敵な笑顔で声をかけてくれるローズをみんなが好きだった。


 そしてローズもまた、姫であるにも関わらず一人の人間として優しく接してくれる貧民街の住人が好きだった。

 普段は人形のように扱われ、その美しさしか見てもらえないローズであったが、ここでは自分の心を見てもらえる。それがローズには何よりも嬉しかった。


 だが、それと同時に申し訳なさで心が一杯になる。

 貧民街での暮らしはとても酷いものであり、少しばかりの食べ物でみんなが質素に暮らしていた。

 今渡されたリンゴだって、ここでは貴重な高級品である。



「ありがとう……ございます。でも、これは受け取れません。」


「あらやだわ。気にしなくていいのよ、今日はカリーが山で沢山リンゴが獲れたからって、みんなに渡してくれたのよ。あなたがいつもカリーを庇ってくれているのをみんなが知っているわ。だから、これは感謝の気持ち。ほら、これからカリーに会いに行くんでしょ? だったら、これを食べて笑顔になりなさいな。」



 暖かい……。

 本当にこの街の人の優しさはいつも私の荒んだ心を解きほぐしてくれる……。

 いつか必ず……



「……はい。わかりました。ありがとうございます。私……頑張ってみんなが平等に暮らせる国にしますから!」


「あはは……そんな若い内から難しい事を考えなくていいのよ。若い内は沢山遊んで、沢山笑顔になるのが仕事よ。」



 さっきまでは、城を出てしまおうかとも思っていたローズであったが、声を掛けてくれたおばさんの言葉に考え方を改めた。

 自分しかこの国を変える事はできない。ならば、みんなが笑って暮らせる国にするために、自分にできる事をやらなければならない。



 この暖かい人達を私が守らなくちゃ!


 ローズは自分の顔を両手で叩いて気合を入れると、リンゴにかじりつき、満面の笑みを浮かべる。



「おいしーー! ありがとうございます! お蔭で元気になりました。」


「そうよぉ、その顔よ。ローズちゃんには、いつだって笑っていて欲しいわ。その笑顔を見るだけで、あたしも幸せになれるもの。あ、それとカリーはいつものところにいるわ。その笑顔でカリーをメロメロにさせてあげなさいな。」


「はい! 今日も川で釣りをしているんですね。それでは行ってきますね。リンゴ、御馳走様でした。」


「気を付けていくんだよ。転ばないようにね。」


「もう! そこまでドジじゃありませんよーだ。 うふふ。」



 こうして、優しい言葉に心が温まったローズは満面の笑みを浮かべて、カリーがいるであろう川に向かうのであった。


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