49 イモコ果てる
「シロマ!!」
「はい! エクスヒーリング」
リングに駆け寄ったシロマが、穴に向かって回復魔法を唱えた。
しばらくすると、穴からイモコがよじ登ってくる。
「今のは流石に死んだと思ったでござる。流石師匠でござる……よ。」
「おい、大丈夫かイモコ? すまない、つい、本気で振り落としちまった。」
「いえ、むしろありがたいでござるよ。素晴らしい稽古でござった。」
「サクセスさん、大丈夫です。多分、全身の骨が砕けて瀕死だったようですが、かなり回復しています。」
それって大丈夫なの?
つか、普通に死んでない?
「ありがたいでござる。素晴らしい回復魔法でござるよ。」
「あ、あぁ……。まぁ、大丈夫ならいいんだけど。ところで、イモコ! お前強いな!! 思っていたよりも何倍も強いぞ!」
「いえ、某はまだまだでござるよ。師匠がかなり手加減していたのはわかっていたでござる。全く歯が立たなかったでござる。」
「いやいや、十分だよ。というか、最後の技なんだ? あれはまじでビビったぞ。」
「あれは、某の最終奥義でござる。天封剣で鞘にエネルギーを溜めて爆発させ、それと同時に同じく溜めた力で相手を斬るスキルでござる。」
「なるほど、でも俺はイモコの場所がわからなかった。あれはなんだ?」
「それは、某の隠しアイテムで1秒だけ姿を消す【消人丸薬】を飲んだからでござる。流石に師匠相手に隙を作るにはそれしかないと思ったにござるよ。」
すっげぇぇぇ!
イモコすっげぇぇぇ!
俺はステータスが高いだけで、こんな戦闘技術はない。
これだけステータスに差があるにも関わらず、一瞬とは言え、イモコは俺に本気を出させた。
こいつは、まじで半端ねぇな。
「なるほどな。イモコ、一つ言っていいか?」
「なんなりと。」
「お前の戦闘技術は完成されている。俺が言う事はない。」
「そ、そんな……某はまだまだにござる!」
「あぁ、そうだ。お前の戦闘技術は一級品だが、レベルが絶対的に足りていない。だから、これから俺と一緒に戦って経験値を稼ぐんだ。まずは土台のステータスを底上げしろ。」
「そうでござるか……。確かに某の戦闘は対人が多かったでござる。モンスターもそれなりに倒してきたでござるが、ある程度レベルが上がると、中々伸びないでござるよ。」
「そうだな、だが安心しろ。俺がお前と一緒に強いモンスターと戦って、レベルを上げてやる。」
「まことでござるか!? それはありがたいでござる。」
「あぁ、だから次はゲロゲロだ。」
「え?」
「だから、モンスター戦をもう少し経験しろって言ってるんだよ。というわけで、ゲロゲロ、戦闘形態になっていいぞ。」
ゲロロ!!(ヤッターー! 僕の出番!!)
ゲロゲロはそう叫ぶと、直ぐに古龍狼の姿に変わる。
突如その場に現れた凶悪な存在。
禍々しいオーラを放ちながら、リングの上に巨大なモンスターが現れた。
突然ラスボス級のモンスターの出現に固まるイモコ。
そして、その姿を初めてみたシロマも驚いた。
「え? あれがゲロちゃん? どういうことですか? サクセスさん。」
「あれが、ゲロゲロの真の姿だ。俺とほぼ同じくらいのステータスになってる。」
「し、師匠……。流石に、ちょっと……あれは無理でござる。」
ゲロゲロの真の姿とオーラを感じて、イモコは冷や汗をかいてビビりだす。
まぁ、無理もないわな。
今のゲロゲロは普通に魔王より強い。
見ただけで敗北宣言というか、逃げたくなる気持ちもわかる。
だが、これは稽古だ!
甘い事は言わないぞ!
べ、べつにさっき、一瞬ピンチになって、シロマに格好悪いところ見せたことの仕返しじゃないからね!
「弱音を吐くな、イモコ! 俺とこれから共にするなら、ゲロゲロクラスの相手とだって戦うかもしれない。その時、お前は仲間を置いて逃げるのか?」
俺は弱気になっているイモコに活を入れた。
すると、イモコの顔に闘志が宿り始める。
「に、逃げないでござる! 立ち向かうでござる!」
「そうだ! その意気だ! 安心しろ! 死んでもシロマが何とかする。何度か死んで来い!!」
いつのまにか俺は、スパルタ教官も真っ青の鬼教官と化する。
当然、死んでもらうつもりはないが、イモコの真剣さにあてられたのだ。
それならば、それに向き合うってのが師匠ってもんだろ?
「わかったでござる!! 死ぬつもりでやるでござるよ! シロマ殿! 骨は拾ってくだされ!!」
どうやらイモコも恐慌状態から解除されたようだ。
とりあえず、本当にやばそうだったら、俺が助ける。
まぁ、頑張ってくれイモコ!
だけど、殺すつもりはないから骨は拾わないぞ!
ゲロォ!(殺るぞ!)
俺の言葉を聞いて、ゲロゲロは先ほどよりも殺気が増している。
おいおい、ゲロちゃん?
冗談だからね?
まじで殺さないでね!!
だ、大丈夫だよね?
こうしてイモコとゲロゲロによる地獄の特訓が始まった。
「ぐぼらぁぁっ!!」
「立て! イモコ! 立つんだじょーーー!」
ゲロゲロにボコボコにされ続けるイモコ。
イモコは、さっき俺に使った必殺技を何度もゲロゲロに浴びせるが、ゲロゲロにダメージは全くない。
本来、ゲロゲロのスピードならば全部避けれるはずだが、ゲロゲロはそれをちゃんとくらってあげている。
どうやら、稽古という事をちゃんと理解してくれているようだ。
攻撃にしても、ちゃんと急所は狙わずに、全身ボロボロにするくらいにとどめてくれている。
その姿はまるで、猫が虫をおもちゃにして遊んでいるようだった。
そしてボロボロになったイモコには、俺がライトヒールをかけて回復させている。
シロマが回復してもいいのだが、俺のライトヒールと違ってシロマの回復には時間がかかるからだ。
しかし、血液が不足しているときだけは、シロマに回復してもらっているけどね。
俺のライトヒールは失った血液までは回復させない。
だが、シロマのエクスヒーリングは違う。
ちゃんと、血液までも補填してくれるのだ。
うーむ、いい連携だな。
俺とシロマの回復コンボ。
これなら、何回だって蘇れる。
げろぉぉ!(早く立って遊ぼう!!)
禍々しい姿のゲロゲロが、可愛らしい事を言っている。
いや、ゲロゲロちゃん。
遊びじゃなくて稽古だよ?
だが、当の本人には、ゲロゲロが何を言っているかわからない。
ただ目の前いる恐怖の象徴が、恐ろしい遠吠えをあげているようにしか聞こえなかった。
ゲロゲロの声を聞くだけで、イモコの体はビクッとする。
どうやら、トラウマになっているっぽい。
やりすぎたかな?
「ま、まらまら……でござるよ……。」
それでも、ふらふらになりながら立ち上がるイモコ。
負けるとわかっていても立ち向かう姿。
剣をリングに突き刺し、剣を支えにしてなんとか立ち上がる。
それはまるで絵本の中で出てくる伝説の勇者のような姿だった……。
やばい、涙が出そう。
頑張って! 勇者イモコ!
その後もイモコは、ボロボロになりながら何度でも立ち上がり、ゲロゲロに挑み続けた。
通算、100回程死の淵を彷徨うイモコ。
イモコは戦闘技術だけでなく、その精神力も相当なものだった。
流石は国の代表として派遣されるだけはある。
そして日も落ち、時間も大分過ぎた事から訓練を終わらせることにした。
流石にもう、イモコは限界だった。
いや、既に限界を何度も越えている。
「それまで!! イモコ! よく頑張った!」
イモコはモンスターと戦う事に慣れているつもりだった。
だが、ゲロゲロと何度も戦うことで自分が間違っていた事に気付く。
モンスターは自分が思っているより賢い。
そして、なによりも力が桁違いである。
それを今回思い知らされた。
全く歯が立たなかったイモコであるが、これはかなり良い経験であったと言える。
イモコにとっては、この一日は十年の修行よりも価値があった。
「し、ししょう……す、すばら……しい、稽古……ござる。」
「お、おい! イモコ大丈夫か! 無理すんな! シロマ、回復してやってくれ。」
「はい。【エクスヒーリング】」
シロマの回復魔法を受け、少しづつ心身共に回復するイモコ。
だが、精神がもうかなりやばいところまで来ている。
歩ける程に回復するには、大分時間が掛かりそうだった。
そして、俺はというと……
「さて……と、じゃあやるか。ゲロゲロ」
ゲロ!!(待ってた!!)
そう、今度は俺がゲロゲロと訓練する番である。
俺も今のゲロゲロの強さを知っておきたかった。
イモコとの訓練では、ゲロゲロは力を全く出しておらず、あれではわからない。
それともう一つ、俺はリヴァイアサンとの闘いで思い知らされた。
ステータスだけではダメだという事。
カリーを見ても、イモコを見てもわかる。
今ある力を100%発揮するには、戦闘技術、知識、そして経験が大事だということを。
確かに俺は今のままでも強いかもしれない。
ましてや、龍化なんていう反則技だってあるんだ。
普通に考えたら、俺より強い奴なんてそうはいないだろう。
だが肝心の龍化はもう使えない。
あれが本当に危険なスキルだとわかった今、使うわけにはいかないんだ。
ムッツから聞いていなければ、危なかった。
そして、その力が無ければ俺はカリーを救えなかった。
更に言えば、その力を持ってしても、シロマが来なければ俺は死んでいる。
つまり、今の俺は弱い!!
それじゃだめだ。
それじゃ、俺はまた失ってしまう。
また……守れない!
仲間を……大切な者を……。
だから、それ以外の方法で俺は強くなる!
敵を知り、そして自分を知る。
その上で、確実に勝てる為の策を練らないといけない。
その策は力が強いだけでは足りないんだ。
スキルだったり、アイテムだったり、使える物は全て使う。
その為に必要なのは、経験と知識。
俺にはこれが絶対的に足りていない。
故に、まずは自分がどこまでできるか、何ができるかをこの訓練で把握する。
次に、ゲロゲロという最強のパートナーの力もしっかり把握したい。
つまりは、イモコに稽古をつけると言った時から、俺はこれを想定していた。
ゲロゲロとの死闘を。
当然、ゲロゲロにもそれは伝わっている。
なんていったって、ゲロゲロと俺は一心同体みたいなもんだからな。
と、いうことで……
やりますかな、本気の死闘ってやつを!




