表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

129/508

50 大魔王城

【魔界ーー大魔王城】


「大魔王様……ゲルマニウム、只今戻りました。」


 城の玉座に座るは、大魔王マーゾ。

 そして、その御前には、魔王ゲルマニウムとデスバトラーが膝を折り、こうべを垂れている。

 普段、気持ち悪い話し方しかしないゲルマであるが、大魔王の前では、決してそのような言葉は使わない。


 なぜならば、大魔王とは超常の力をもった魔界の王であり、如何に大魔王直属の八天魔王であっても、そのような無礼は許されないからだ。



「よくぞ戻ってきた、ゲルマニウムよ。此度は勇者の捕縛と魔王化、この二つを成し遂げた功績は多大である。褒めて遣わす!」


「ははっ! ありがたきお言葉! しかし、このゲルマニウム、謝罪せねばなりませぬ。大魔王様の旧知の中である邪龍王様を失い、更には、勇者の魔王化が止まってしまう失態。重ねてお詫び申し上げます。」


 謝罪の言葉を述べるゲルマニウムの額からは、大量の汗が流れ落ちている。

 その厚化粧が剥がれていくほどに……。


 大魔王様の命令は絶対。

 それを完遂することは、部下として当然であり、決して失敗は許されない。

 場合によっては、その場で自身が消滅させられてしまう可能性もある。


 震えるゲルマニウムを前に、大魔王は表情を変えなかった。

 それが、ゲルマの恐怖を更に増長させる。


 しかしーー



「よい! おもてをあげよ、ゲルマニウム。勇者が暴走することなど、余はとっくに予見しておった。それは、お主の失敗ではないぞ、ゲルマニウムよ。」


 ゲルマは、その寛大な言葉に、涙を流して歓喜した。


「ははっ! 慈悲深きお言葉! 誠にありがとうございます。このゲルマニウム、生涯大魔王様の為に尽力することを更にお誓い申し上げます!」


「ふむ。よかろう。して……、勇者はその球体の中にいるのか? 我には見えないのだが。」



 大魔王の表情が若干曇る。

 どうやら、目を凝らして球体の中を透視しようとしているようだ。

 しかし、大魔王をもってしても、それでも中は見えなかった。



「はい、球体の中から聖なる結界を張られております。その為、現在、中にいる勇者……いや魔王ダークビビアムに手出しができない状況でございます。」



 大魔王はアゴに手を当てて、一瞬考え込むと、直ぐにゲルマに命令した。


「そうか……なるほどな。余の前にそれをもって参れ。」


「ははっ!! デスバトラーよ、直ちに!」


「御意!」



 ずっと顔を伏せていたデスバトラーは、直ぐに立ち上がると、ビビアンを包んでいる球体を持ち上げ、大魔王の御前に運んでいく。


 すると球体は、大魔王の前で突然、浮かび上がった。

 それをまじかで見た大魔王は愉快そうに笑う。



「はっはっは! これは……面白い。ふむ。確かにこの結界は、一筋縄ではいかぬな……じゃが!!」



 ブォォォン



 突如、球体が闇の衣に包まれた。



「ふむ、これは凄いぞ。ゲルマニウムよ。結界が破れるまで、時間はかかりそうであるが、この球体の中にいる勇者の光は、余の闇を吸収し続けておる。」


「はは! 申し訳ございませぬ……。」


「何を謝っておる。余は嬉しいのだ。この勇者の光と魔王の闇を、余は自在に使えると言っておるのだ。ふはははは! これは愉快だ! 素晴らしい……素晴らしいぞ!!」



 ゲルマニウムの頭脳をもってしても、大魔王が言っている言葉が理解できない。

 しかし、大魔王はまるで新しい玩具を手に入れた子供の様に喜んで、興奮している。

 


「ふむ、まだよくわからないようじゃな。お主なら理解できると思っていたのだが、残念じゃ……。」



 突然の失望の言葉に、焦るゲルマニウム。

 ここでは、一言一言考えて発せねば、即座に殺されかねない。

 それだけの力を大魔王は有していた。



「お、お待ちください大魔王様! そのような事ではございませぬ!」


「何を焦っておる? 安心せよ、余は今、すこぶる機嫌が良い。お前を塵に変えたりなどしないぞ。」



 その言葉にホッとするゲルマニウム。



「よろしければ、頭の悪いわたくしめに、教えていただけないでしょうか?」


「ふむ、いいだろう。簡単に言うと、この球体の中にいる勇者は、余の闇の力を吸収しておる。そして勇者の光と余の闇が融合することで、更なる力を帯びるのだ。我が喜んでおるのは、その力を余が使えるということである。ふむ……人の世では、【百聞は一見に如かず】という言葉があったな。よし、まずはお前で試してやろう。」



「っは!? お、お待ちを!! お許しください大魔王様! どうかご慈悲を!」



 大魔王がその手を前に出した瞬間、一瞬でゲルマニウムの体が引き寄せられ、大魔王に頭部を鷲掴みにされた。



「何を怖がっておる。余を信じよ。これはお主への褒美じゃ。受け取れ!!」



「お、お許しを! どうか慈悲を……あばばばばばばばばばばばば……。」



 大魔王の手から発せられる、紫のオーラがゲルマニウムを包み込むと、まるで感電でもしてるが如く、ゲルマニウムは激しく痙攣し始める。



「ふはははは! いいぞ! もっとだ! もっとよこせ! 勇者よ!!」



「あばばびゃびゃびゃびゃあばばあ……。」



 すると次第にゲルマニウムの姿が変わっていく……そしてーー変化した。



「ふふふ、どうだ? ゲルマニウムよ。今の気分は?」



 プシューーー



 ゲルマニウムを包む暗黒が、音を立てて消えると、そこに皺だらけの厚化粧のオカマはいなかった。

 そこにいたのは、


   世にも美しい女性の姿


のゲルマニウムだった。


 自分の体を触りながら、何かを確かめるゲルマニウム。

 そして、玉座に置かれた鏡を見て驚愕した。



「こ、これは!? 私? これはわたくしなんですの!? す、すばらしい! 美しい……これこそが私の求めていたもの! そして、この内から燃え上がるように湧き出る力……。」



 ゲルマニウムは余りの興奮に、大魔王様の御前にも関わらず狂喜した。



「ふははは。どうだゲルマニウムよ! これこそが余の新しい力じゃ。この力があれば、配下を更に強化できようぞ。ふははははは!」


「流石は大魔王様! わたくしは、今猛烈に感動しております。」


「言ったであろう? これは褒美だとな。余は、まだ完全に力が戻っておらぬ。故に、直接地上に進出することは叶わないが、これならば、お主たちだけでも地上を支配できるじゃろう。我が宿願が果たされる日は近いぞ! あ~はっはっはっは!!」


 大魔王は勇者ビビアンを手に入れた事で、更なる力を得ることとなった。



 これより、地上を襲う魔物たちの力は、今まで以上に凶悪なものにかわっていくのであった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ