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バーン学園は広い。広大な敷地内に高等部、大学、各種研究所、学生寮など様々な施設がある。ガラスの温室や研究に使う畑などもあるのだが、その片隅にひっそりと鳥小屋はあった。
水晶玉で見た通り扉は開いていて中には鳥はいなかった。
しかし、鳥小屋の周りには代わりに子どもが五人いた。
十二才くらいの男の子を筆頭に一回り小さい男の子が二人、女の子が一人、そしてその弟らしき三才くらいの子どももいた。
皆、意気消沈といった感じで肩を落としている。
「……アーロン、説明を」
カナリアが一番大きい子どもに話しかける。
「カナリアさん……ごめんなさい……鳥がみんな……逃げちゃった……」
アーロンと呼ばれた男の子が小さな声で言う。
「分かっている。何が起きたのか説明しなさい」
カナリアは難しい顔をしている。
「違うの! アーロンのせいじゃないの! ブライアンがいけないのよ! ミックをいじめて泣かせるから!」
叱られている空気に耐えられず、女の子がカナリアに言いすがる。
「俺のせいじゃねぇよ! そもそもジョージが扉を閉め忘れたんだろ!?」
五人の子どもたちがギャアギャアともめだした。
(なんで学園に子どもが……)
訳が分からずポカンと見つめるモーガン。
しかし、シンシアはズイッと子どもたちの輪に入っていった。
「あらあらケンカしないの。君かわいいわね~、三才くらいかな~?」
シンシアはその中の一番小さな子にしゃがんで目線を合わせて話しかける。
「うん、ミック三才だよ~」
あどけない顔で答える。
「違うわ、先月誕生日が来たから四才でしょ!」
姉の方が間違いを訂正する。しっかりもののお姉ちゃんといった様子だ。
「そうなの~、お姉ちゃんしっかりしてるわね~」
「まあね! もう八才だからね! 初等学校にも行っているのよ!」
胸を張って女の子が答えると、喋りたがりの子どもたちが次々に話しかけてきた。
「俺も俺も!」
「ブライアンは先生に怒られてばっかじゃん! こないだだってさーマティス先生のかばんにクモ入れてさー」
「おい言うなよ! もー!」
「えー、抱っこしていい~?」
シンシアはかわいくてたまらないという様子で、ミックに聞く。
「ちょっとだけだよ~」
シンシアはミックをひょいっと抱っこした。
「あー、もーしあわせー」
デレデレの顔をする。ミックもキャッキャと声を上げて喜ぶ。
「おねーちゃん、いいにおいがする~、これ知ってるよ~ラベンダーのにおいだ~」
「あ! わかったわ! あなたがもしかして私たちの石鹸買っている人ね!」
「ほんとだ! 俺たちが育てたんだぜ! ラベンダーとかローズマリーとかミントとかバラとか!」
「えー、そうなの~? すごいわね~、私この香り大好き! ありがとうね!」
「まあ、いいってことよ」
「秋にこーんないっぱいバラを摘んだんだよ~」
子どもたちとシンシアは、ワイワイガヤガヤ盛り上がっている。
カナリアは、そんな様子の子どもたちに拳をプルプルさせて怒りに震えて、
「だ・か・ら! 説明しろと言っているだろうがーーー!?」
絶叫した。
カナリアの怒声でやっと子どもたちの声が止まった。