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フォレスト老人ホームは学園から十分ほどの小高い場所にあった。つまり道中は上り坂である。
普段運動をしていないモーガンは、シンシアの超高速ペースに合わせて歩いた(というかほぼ小走り)ので早々に息があがり、到着するころには息も絶え絶えになっていた。
シンシアは少し息は弾んでいたが、まだまだ余裕の様子。ローザは涼しい顔をしている。
「こんにちはー」
三人は老人ホームに入っていった。
時間は五時を少し過ぎたところで、中の広間はお年寄りたちが各々席に着いたり、ゲームをしたりおしゃべりをしたりと好きなことをしていた。
そして職員はこれから始まる食事の支度に忙しそうだった。奥からは夕飯を作っている良い香りもしてくる。
「あ、シンシアちゃん! 久しぶり! 手伝いに来てくれたのかい?」
おばちゃん職員が声をかけてくれる。
「そうなんです。これからお夕飯ですよね。何お手伝いしましょうか~? 今日は三人で来たのでたくさん手伝いますよ~」
「!?」
にっこりと言うシンシアにモーガンは驚く。
(どういうこと!? お守りはどうなったの!?)
「あら~、そうなのね~、助かるわ~。じゃあシンシアちゃんはこっちで、ローザちゃんと男の子はあっちね~」
おばちゃんにテキパキと仕事を割り振られる。
すでに仕事を任命されているシンシアは、老人たちと話をしながらテーブルを拭いている。
仕方がなくモーガンとローザは厨房に向かう。
「モーガン様、ここではシンシア様はウィステリアではなくシンシア・スミス、私はその姉のローザ・スミスとなっておりますのでよろしくお願いいたします」
ローザはこっそりと言う。
なるほど、先ほどのおばちゃんとの気安いやりとりはシンシアが貴族と知らないからなのだ。
モーガンはうなずく。
そして良いにおいのする厨房に入った。嗅いだことのないけれど良い匂い……異国の料理のようだ。
厨房の中では調理や盛り付け・配膳の準備で大忙しだった。
その中でも背の高い男性が目立っていた。
女の人だけじゃないんだな~と思って、その姿をなんとなく注目していると、
「!?」
それは今日ガンをとばしてきたリガルド先輩だった。
しかも大きいフライパンを振るっていた。
「……せ……先輩……なぜここに……?」
声をかけると目が合って、リガルドも固まった。リガルドの顔は見る見るうちに赤くなる。
「おまっ……なんでここにっ……!!」
「えーと……なんか……連れてこられて……。……先輩は……その恰好……」
リガルドは調理担当らしく、エプロンを付け調理帽をかぶっている。
「俺はっ……バっ……バイトだよ!!」
乱暴に言ってフライパンの中の出来上がった料理を皿にあける。
そして沈黙。
気まずい。
しかし、
「ほら!二人ともぼさっとしてないで動く動く!もうすぐ食事の時間だよ!」
おばちゃんに怒られて二人はあわてて動き出す。
ローザはそんな二人に何の気も留めずに、キビキビと盛り付けの手伝いをしていた。