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ローザに運転してもらって、車で王宮に向かう。

「お嬢様、昨日言おうと思ったのですが」

ローザが運転しながら話しかけてくる。

「うん。」

「昨日モーガン様と朝少し走ったのですが、モーガン様は準備運動の時ののけぞりの時顔が面白いんです」

「!?」

「それが毎日なんですよ。無意識だと思うので、今度見てみてください」

「ぷっ……! あははは!!」

笑ってしまう。

緊張していたのに。

「うん、今度絶対見てみる」

緊張がすっかり解けてしまった。

「お嬢様は笑顔が一番ですよ」

「うん、ありがとう」



王宮について応接室に通される。

しばらくするとレイモンドが来た。

「おはよう、シンシア。昨日も今日も会えるなんてうれしいです」

「おはようございます。レイモンド様。私もお会いできてうれしいです」

にっこりとあいさつを交わす。レイモンドは二人で話がしたいからと他の使用人を外に出した。ローザも出ていく。

「……あの、手紙は読んでいただけました?」

「ええ、もちろん。モーガン君はただの後輩です、でしょう?読みましたよ?」

にこにこ笑ってレイモンドが応じる。

シンシアはヘンリーの家から帰った翌日、レイモンドに手紙を書いていた。

髪飾りはクリスマスのプレゼント交換でモーガンからもらったもので、モーガンはただの後輩であり恋仲とかではない、という内容だ。

自意識過剰みたいで書くのがかなり恥ずかしかったが、誤解されたままにはしておけなかった。

しかし、レイモンドからの返信はなかった。

「……じゃあなんで手紙を返してくれなかったんですか?」

「……なんででしょうね……」

遠い目をする。

「……ごめんなさい……」

「……何も分かっていない謝罪はいりません」

沈黙。

「……ケンカしたくないです……」

「僕もです」

沈黙。

レイモンドは横を向いてしまっていて目も合わせてくれなかった。

こんなにまともに話もしてくれないほど怒っているのは初めてで、途方に暮れてしまう。

「……ねえ、どうしたらいいの?」

シンシアは泣きそうになりながらレイモンドの袖をつかんだ。

「……わからないんですか?」

レイモンドも今にも泣きそうな顔をしていた。

「じゃあ言ってあげます。

あなたが他の男と仲良くするのが気に食いません。

あなたが僕の知らないところで楽しくやっていると思うと、取り残された気持ちになります。

あなたがもう僕のところに戻ってこないのではないかと……不安になります」

レイモンドは子どもみたいに言い募ってくる。そこには普段の余裕はなかった。

「……それは、不安にさせてごめんなさい」

シンシアは謝るが、

「……でもっ、あなただって私の行けないところで仕事だってしてるし、生活してるし知らない人とも会ってるじゃない……」

つい自分の言い分も言ってしまう。

彼の王子としての公務は度々新聞でも取り上げられていたし、他の人の口からも聞こえてきていた。

それを見聞きして誇らしい気持ちにもなっていたが、反対に自分はどうなのだろう、とも落ち込んだりもした。

こんなのお互い様でしかない。二人が一人の人間ではない以上、近くにいようが遠くにいようがいつまでもつきまとう感情だった。

「……あなたを狭い部屋に閉じ込めて誰にも触らせないようにしたい」

レイモンドはギュッとシンシアを抱きしめた。

「……どうして僕を恋人だって紹介してくれなかったんですか?」

「それは……」

「どうして僕が髪飾りを見つけたとき外してくれなかったんですか?」

「そんなの……」

「……わかっていますよ。ただの愚痴です。勝手な文句です」

レイモンドはシンシアの肩に額を預ける。

「あなたのことを百年待てるって言ったのは、本当です。

……でも離れていると不安になってしまうんです。

もう僕のところに戻ってこないんじゃないかって……」

 シンシアはレイモンドの背中を優しくなでる。

「子どもの時の方がずっと一緒にいられた」

「……そうだね……」

 五才の時からの友人であり、恋人であり、もう家族同然だった。

 彼は十二年間シンシアのことを待ち続けてくれていた。

 学校に通うと言った時も反対せずにいてくれた。

 辛い時は幾度も助けてくれた。

 彼がいてくれたから今の自分があるとはっきり言える。

 そのくらい大切な存在だ。

 その彼をこんなに苦しめている。

(全部、私のせいだ。こんなこと言わせてしまっている……)

 罪悪感で胸が痛んだ。

「……形があればいいですか?」

 シンシアはポツリと言う。

「形?」

「まだ気持ちの整理はついていないけれど……それをお互いが分かっているのなら……婚約しましょうか」

「……いいんですか?」

 レイモンドは顔を上げて尋ねる。

「……うん。私はレイモンド様を待たせすぎている。私にとってレイモンド様はとても大切な人です。……泣かせたくなんてない」

 シンシアは笑顔を作って言う。

 つられてレイモンドも笑顔になる。

「……僕と、婚約してください」

「はい。よろこんで」

 レイモンドはひざまずいてシンシアの手の甲にキスをする。婚約の儀式だ。

 それから二人は初めてのキスをした。



 婚約発表は春休みにするということになった。

 帰りの車の中、シンシアは窓の外をじっとみていた。

 風景がどんどん流れていく。

「お嬢様、よろしかったのですか?」

 ローザは心配げに問いかける。

「うん……。王子様と婚約だなんて、夢みたい」

 うれしくもなさそうに言う。

「一番好きな人と婚約したわ」

 つぶやく。

「それ以上に幸せなことなんて、きっとない……」

 目をつむる。

(これが夢なら、覚めたら私はどこにいるのかしら?)

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