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17  直談判に行ったら

土曜日の朝、いつものようにランニングをしにいったら、ローザがすでに走っていた。

「おはようございます。モーガン様。今日はシンシア様はご実家に戻られますので、私も少し走ったらすぐ用意に戻ります」

「そうなんですか、忙しいんですね」

「今夜はご友人の誕生日パーティーなのです」

「そうなんですか。楽しんでこられるとよいですね」

「……はい。行ってまいります」

微妙な間が気になるが、深くは聞けずにモーガンもローザも走り出した。



レイモンド王子の誕生日パーティーは夕方から王宮の大広間で行われた。

たくさんの王侯貴族が集まっている。

立食パーティースタイルだ。

シンシアはアレクシスにエスコートされてやってきた。

シンシアは朝寮を出て昼には実家に戻り、家族との交流もそこそこに今までずっとローザとメイドたちに身支度をされていた。

良い香りのするお風呂に入れられて丹念に洗われて、上がってからも頭からつま先まですべて磨き上げられ、髪を結われ化粧を施されドレスを着せられた。

アクセサリーはラピスラズリと金のイヤリングと同種のネックレスをしている。イブニングドレスも青を基調としたものだ。

グローブと靴は白、久しぶりに履いたハイヒールに背筋が伸びる。

アレクシスもメイドたちに整えられていつもより格好よくなっている。ミッドナイトブルーのテールコートがよく様になっていた。

(アレクシスは私よりもこういう場にでてるからもう慣れたものよね。)

三つ下、つまり十四歳の大きくなった弟にシンシアは感動で少し泣きそうになる。ちょっと見ないだけで子どもはすぐ大きくなる。

「もう立派な紳士なのね、お姉ちゃん感動しちゃった」

「姉上……もう……あいさつしますよ。ちょっとちゃんとしてください」

弟にたしなめられ、シンシアは淑女の笑みを浮かべる。

シンシアとアレクシスは出迎えたレイモンドにお祝いのあいさつをする。

「殿下、お誕生日おめでとうございます」

「アレクシス、シンシア、ありがとうございます。今宵はゆっくり楽しんでいってください。シンシアはのちほど一緒に踊ってくださいね」

「はい、喜んで。ではのちほど」

淑女の笑みを返す。

レイモンドは来場してきた客に次々と応対していく。

シンシアとアレクシスは中に入ってあいさつ回りをしていく。

「おお! ウィステリア家のアレクシス殿、シンシア嬢、お久しぶりですな」

「ええ、ご無沙汰しております。ボールトン様におかれましてはご健勝のようで何よりです」

アレクシスが対応をし、シンシアはその横で微笑んでいる。

「そういえば、シンシア嬢は王立学園に通われているとか、学校生活を楽しんでおられますかな?」

「ええ、良い先生と友人に囲まれてとても楽しくやっておりますわ」

「それは良かった。シンシア嬢は昔から子どもたちに大人気でしたな。しばらく会えなくなってうちの娘も気にしておりました。ほら、あのなんとか体操とかいうのがお気に入りでしてな」

「まあ、そんな……、踊っていたのは昔の話ですわ。お恥ずかしい」

わっはっは、と皆で笑う。

「我が家のリリーナは、今度エヴォンシャー公爵のマイク様と婚約することになりましてな」

「まあ、それはおめでとうございます。リリーナ様とマイク様ならお似合いですわね。お二人ともお優しくていらっしゃったから」

「わっはっは。いやあ、ありがとうございます。親としてはこれ以上ない喜びですよ。シンシア嬢は気になるお方はおられないのかな?」

「私はまだ学生の身分ですから……」

「結婚はいいですぞ~。いつでもご相談に乗りますぞ」

笑顔でそんな会話をしていると、乾杯のあいさつが始まる。

レイモンドが笑って乾杯をしていた。



ダンスタイムが始まる。

レイモンドはシンシアのところまで来てダンスに誘う。

「僕のお姫様、踊っていただけますか?」

「喜んで」

淑女の笑みで答えて、二人は踊りだす。

ダンスは久しぶりだったが、もう体にしみついているので自然に踊れる。それにレイモンドのリードは上手なので安心して身を任せることができた。

「今日は一段と綺麗だ。……久しぶりにあなたとこうして踊れてうれしいですよ」

「私もです」

にっこりと言う。

「ずっとこうしてられたらいいのに。あなたが僕だけのものになってくれたら……」

シンシアは何も言わずただ微笑んでいた。



パーティーは滞りなく終わった。

帰り際に、

「また明日、待っていますね」

と言われた。

今日はただの茶番だ。明日が決戦だった。



朝、眠い目をこすりながらなんとか自分で起きる。今日は寝坊はできなかった。

ローザに手伝ってもらい身支度をしてからテーブルにつく。

「おはようございます。お父様、お母様、アレクシス」

すでにテーブルについていた家族にあいさつをする。

「おはよう、シンシア。昨日は疲れただろう?大丈夫かい?」

父がたずねる。

伯爵の地位を持つ父は温和な性格で口ひげもあるハンサムな紳士だ。その渋みは年々増していっている。

「ええ、大丈夫よ、お父様。久しぶりのパーティーだったけれど、楽しかったわ」

笑顔で答える。

「おはよう。今日はレイモンドちゃんちにいくとか。子どもの時からずっと仲良しね、あなたたちは」

母が言う。幼馴染のレイモンドは母からすると王子だろうと「ちゃん」付け扱いだ。

「おはようございます」

アレクシスも新聞を読みながら挨拶を返してくれる。

アレクシスが朝眠そうにしているところは近頃見たことがない。昔幼いころは一緒に寝坊をしていたのに。

朝食が運ばれてきて食べる。

休みでも仕事がある父と弟は食べてすぐに席を立った。

母も今日は婦人会なのだと準備に行く。

シンシアも食べてすぐに外出の用意をした。

お出かけ用のドレスを着て髪をかわいらしく結ってもらう。

準備は万端。

出かけにアレクシスがでてきて、

「姉上」

と声をかけてきた。

「なあに?」

「なんか、僕余計なことをしたよね……ごめん」

この前レイモンドに予定を教えたことを悔いているのだ。

「ううん、アレクシスのせいじゃないわ。……まあ、いつものケンカだから大丈夫よ。こう、ガツンとKOしてくるわ」

シンシアはファイティングポーズをとる。

「いや、姉上……、ちょっと殿下は……かなり参ってるから……気を付けて……。

ほらあの方、愛が重いというか姉上に対して心が狭いから……。

最近全然会えていないからだいぶ……まずいと思う……」

アレクシスがすごく言葉を選んで忠告してくれる。

「……休みの時だって会ったし、昨日だって会ったじゃない」

シンシアは口をとがらせて言う。できる限り会う機会は作っているつもりなのだ。

「……それ本気で言ってるの……?……まあ、がんばれ」

応援された。

その温かさに涙ぐんでしまう。

「ありがとう。大好き! じゃあ、行ってくるね」

元気に「いってまいります!」と言って家を出た。

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