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翌日、今回の合宿の一番の目的であるシンシアの魔法の師匠ヘンリー・ブラウン先生の所に行くことになった。
今回は近くなので徒歩で行く。
お弁当とお茶持参だ。
人家のない林の中を歩くと、こじんまりとした一軒家についた。近くに他の家はない。ポツンとした風情だった。
ここがヘンリー・ブラウンの家だった。
古いが小綺麗に手入れされた飾り気のない家だった。
「ここ電気通ってないんだよね~」
そう言って、シンシアが勢いよくノックをする。
「こんにちはー、シンシア・ウィステリアがきましたよー」
沈黙。何の返答もない。
気にせずにシンシアはドアを開ける。鍵はかかっていなかった。
「いつもこうなんだよね」
勝手に中へ入る。
「お邪魔します……」
一応モーガンは言うだけ言ってみる。
シンシアは勝手知ったる他人の家という様子で、どんどん進んでいく。
玄関を抜け、左の扉を開ける。
「ヘンリーせんせいー」
シンシアは言いながら勢いよくドアを開けて、
「……」
中の様子を一瞥してドアを閉めた。
「えっ……」
モーガンは何が起きているのかわからない。
「……うん……モーガン君、ちょっとごめんね……予想外のことが起きてて……ちょっとびっくりした……」
自分の胸を手で押さえた気持ちを落ち着かせるシンシア。
「?」
「あの……部屋に入る前に一つ言っておくことができたの……」
真剣な表情でシンシアが言う。
「……はい」
つられてモーガンも真剣に聞く。
「中にヘンリー先生以外の人がいるんだけど……、その人……なんというか……私の……」
言っている途中でガチャリと扉が開いた。
「いきなり閉めるなんてひどいじゃないですか、シンシア」
優しい男性の声がした。
中から出てきたのは金髪の美青年だった。
(あれ……この人どこかで……)
モーガンは既視感を感じて怪訝な顔をして、そしてすぐに気付いた。
金髪碧眼に甘いマスク、スラリとした体つき、この物語の王子様のような人物……
「……レイモンド・オルセオロ殿下……」
モーガンが固まりながらつぶやく。
そう、この国の第二王子レイモンド・オルセオロだった。
「いきなりいるからびっくりしたんです」
シンシアがムッとして言う。
「アレクシスから聞いたんですよ、魔法の特訓をするって。それなら僕だって気になるから見に来ました」
にっこり笑顔でレイモンドが言う。
「アレクシスめ……」
シンシアは反対に恨めしげだ。
「今日はお友達と一緒だからできれば自重してほしかったんですけど……」
「なんでですか?あなたのお友達は僕のお友達でもあります。紹介してくださいよ」
さわやかな笑顔で言って白い歯が光った。
「えー……」
仕方がないなあ、とシンシアは全く乗り気ではない様子で紹介を行う。
「こちら、モーガン・クリストフ君、私の学校の後輩で占い部の新入部員です。
……こちら、レイモンド・オルセオロ殿下です。この国の第二王子で私の幼馴染です」
「モ……モーガン・クリストフです……よろしくお願いします」
「レイモンド・オルセオロです。シンシアの婚約者です。よろしくお願いします」
握手をする。
「……婚約者……?」
モーガンは困惑してシンシアを見る。
「婚約してません」
ブスッとして言う。
「つれないなあ。いつかするってことですよ」
あははとレイモンドは笑う。
「はいはい、ヘンリー先生も待っていますよ、中に入りましょう」
レイモンドが二人を部屋の中に入れる。