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 夕方まで勉強して一緒に下校する。

「クリスマスは家に帰るんだよね? ちょっと早いけど、これクリスマスプレゼント。どうぞ」

 小さな紙袋を手渡される。

「えっ!? そんないいのに……」

 全く用意していなかったモーガンは慌てる。

「ううん、いいの、もらって。

 初めてできた後輩で、私は何かあげたくて仕方がなかったの。むしろもっとすごいものをあげたかったんだけど、引かれると思ったからそれにしたの」

 モーガンはもらった紙袋を開けてみる。

 中には銀色の羽根の形のキーホルダーが入っていた。

「羽根のモチーフは、隠れたいいところを見つけたり伸ばしたりして飛躍させるんだって。

モーガン君はいっつもがんばってるから私も応援したいのであげます」

 えへへと照れ笑いしてシンシアが言う。

「ありがとうございます……ちょっと感動しました。

……大切にしますね」

「うん、そうしてくれるとうれしいよー」

 さっそくかばんにキーホルダーをつける。

 二人でほのぼのしながら寮まで帰った。



 期末テストが無事に終わった。

 二人ともまずまずの結果を取り、晴れやかな気持ちで部室に来ることができた。

 ちなみにヤマの占い結果は三割程度のヒットだった。全敗ではなくとも『当たる』とは言い難い微妙な結果だ。

「やー、もうクリスマスは始まったようなもんだねー」

 もう何も恐れるものはなく、すでにクリスマス気分になっているシンシアが鼻歌交じりに言う。

 あと二日で今年の学校も終わる。

 モーガンは占いの本を広げて読んでいる。

 占い部に入ったのだから占いをしようと思ったのはいいけれど、どれをすればよいのかわからずとりあえず片っ端から試してみていた。

 占星術・タロット占いに次いで、今は手相を勉強している。

 手相であれば今後人とコミュニケーションをとるときの話題になるかな、という打算もあった。

「そうだ、モーガン君さ、今度うちに来ない?」

 シンシアが身を乗り出して聞いてきた。

「うちって……シンシア先輩のご実家ですか?」

「うん、そう。うちの近くに私の魔法の師匠がいてね、占い関係も全般詳しいからモーガン君にも会わせたいなあって思ってるの」

「魔法の師匠……」

 すごい魔法使いなのだろうか?

「あ、先生は魔法は使えないよ? 

ヘンリー・ブラウンて人でうちの元執事だったんだけど、私が魔力持ちだったから両親が心配してあれこれ魔法について調べるのを先生にやってもらってたんだ。

そしたらそれが意外にハマっちゃったらしくて執事をやめて研究を始めちゃったんだよ」

「そうなんですか……、シンシア先輩の周りはなんというか自由な人が多いですね」

「まあね~、やりたいことできるのはいいことだよね。

まあそんな繋がりで今でも魔法とか占いのアドバイスとか人生相談? とかしてもらってるの。

学校に行くのも後押ししてくれたんだよ」

「へえ」

「『お前は馬鹿だから学校に行くべきだ』って言われたのよ~」

「それは……なかなか強烈ですね……」

 辞めたとはいえ、かつての主人の娘にはなかなか言えない一言だ。

「まあ、言い方はキツイけど心配してくれたんだよ。

私ね、グサッとくる言葉は一回心から抜いて、言われたことを吟味してみることにしてるんだ」

「吟味?」

「うん。確かに私は学校で学ぶような基礎知識が足りていないし、同世代との集団生活の経験もない。だから学校に行った方がいいと思うのはわかるの。

そういう心配がヘンリー先生の口を通ると『お前は馬鹿だから』になるんだね~、いやーツンツンしちゃってるよね~」

 あははと笑って言う。

「超ポジティブですね……」

「まあ、ヘンリー先生とは長い付き合いだからね、もういちいち落ち込まないよ。

でも先生は本当に一度会うと『先生!』て言いたくなる含蓄のある人だから、どうかな? 会ってみない?」

「そうですね、会ってみたいです」

 モーガンはうなずく。

「じゃあ決まりだねー、この日はどう?」

 予定をすり合わせる。

 日程が決まりシンシアはさらにご機嫌になる。

「あ~楽しみだな~」

「あ、あの先輩……」

 モーガンはカバンから包みを取り出してシンシアに渡す。

「これどうぞ。クリスマスプレゼントです」

「えっ?」

 シンシアは驚きながら受け取った。

「う……うれしい……、ありがとう! ……開けるね」

 包みを開けると、それは四つ葉のクローバーモチーフの髪留めだった。

「僕に羽根のモチーフのものをくれたので、僕もシンシア先輩に幸運のアイテムをあげます」

 照れながら言うと、シンシアは急にぐすっと鼻を鳴らした。

 そして泣き出してしまった。

「ええっ!?なんで!?だ……大丈夫ですか……?」

 どうしたらいいのかわからず、モーガンはオロオロと慌ててしまう。

「ううっ……うん……だいっ……ぐすっ……じょうぶっ……」

 そう言いながらもなかなか泣き止むことのできないシンシアに、モーガンは気まずさを感じてハンカチを差し出す。

「ごめ……っ……ありがとう……っ……」

 ハンカチを受け取り涙を拭くが、それでもあふれ出る涙はなかなか止まらない。

 モーガンは背中をさすってあげる。

「大丈夫ですよ……大丈夫……」

 しばらくそうしていると涙はだんだんと収まった。

「うう……ごめんね……、ちょっと昔のこと思い出しちゃって……」

 涙をハンカチで拭き、鼻をティッシュでチーンとかむ。

「あのね……昔野原で四つ葉を探したことがあったの」

 シンシアは話し出した。

「でもその時は見つからなくて、でも次は見つけようねって約束したことがあったの……。

私ってそういう運がないというか見つけるのが不得意なのよね……。……結局一緒に探した子とはもう会えなくなってしまって……まあ、そのことを思い出しちゃって、ちょっと泣いてしまいました……。

……やっと私にも見つかった! みたいな感じがして……。ごめんね。プレゼント本当にうれしい! ありがとう!」

 そう言ってシンシアはもらった髪留めを髪につける。

 つけた自分の姿を手鏡で見て、ふふっとうれしそうに笑った。

「ようやく私にも幸運がめぐってきたわ」とおちゃらける。

 モーガンはなんだか無理している気がして、もう少し聞いてみることにした。

 話して楽になるならそっちの方がいいと思った。

「……その子は引っ越しちゃったとかですか?」

「うん、まあそうなの。……仲良しだったんだけど。あの、モーガン君がちょっとその子に似ていてね」

「僕が?」

「うん、黒髪のところとか、頭がいいところとか、優しいところとか、いつも一生懸命なところとか」

 ひとつひとつを懐かしむように数える。

「……そうなんですか……」

 それは男性だろうか?と気にしてしまう。

「……その人のこと……好きだったんですか?」

 遠慮がちに聞いてみた。

 シンシアはちょっと考えてから、

「……うん、そうだね、好きだったよ」

そう言って悲しく微笑んだから、モーガンはなんとかしたくなってしまう。

「あのっ……生きていればまた会えますよ! だから……」

 だから、なんなのだろう? 結局言葉が繋げず黙ってしまった。

 シンシアはそんなモーガンに優しいまなざしを向ける。

「うん……、ありがとう。もうずっと昔の話だから大丈夫だよ。ずっと忘れてたことだったし。

聞いてくれてありがとうね、すっきりしちゃった」

「……ならいいんですけど……」

 あまり役に立てなかった気がしてシュンとする。

「うん、本当だよ。気遣ってくれた優しさにむしろ泣きそうなくらいだよ。

いやぁ、いい子に育っていて私はうれしいな!

さ、私の手相でも鑑定してよ!」

 シンシアはそう言ってずいっと片手を差し出す。

 モーガンは本を見ながら鑑定を行う。まず利き手を確認した。

 そして、

「……ええと、生命線は普通に健康ですね。あ、旅行線があるので離れた場所に行くといいことがありますよ。それから……気にしすぎるきらいがありますね、考える時も長く考える傾向があるようです。

……運命線は……早いうちから才能が開花する線がありますね。金運はまあ困らないでしょう。結婚線は幸せな結婚ができるようですよ。あ、あと……うん。そんな感じですが……どうでしょうか……?」

「なるほど……。当たってる気がする。旅行に行くのもいいのか……ふむふむ。……ありがとう!」

 少しは雰囲気が和んでモーガンはホッとする。

「いえいえ。でも手のしわを見るって結構難しいですね……、どこまでをカウントしていいのかすごく迷います」

 そして性的な線のことはさすがに言えないよなあと心の中で思う。『見る』以外に伝えることにも気をつかう。

「うーん、そうだよねぇ、やっぱり経験を積むしかないのかな。ローザも見てもらう?」

「ええ、どうぞ」

 次はローザの手相を見る。……結構壮絶な線が出たのでちょっとオブラートにくるみながら結果を伝えた。

 でも、シンシアに『未練』の線が出たことはモーガンには言えなかった。



 その夜もシンシアはグラウンドを走っていた。

 モーガンは少し見つめた後、何も言わず寮に帰った。

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