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 つまり、こういうことだった。

 化粧石鹸を作るためにカナリアは近くで捕まえたウグイスを飼育し出した。これが今年の四月のこと。

 それから他の鳥の糞でも成分や効果に違いはないのかを比較するために、他の鳥も飼いたいと思った。

 しかし、捕まえるのも飼育するのも一人ではなかなか手が回らない。なので、地元の子どもたちに声をかけ手伝ってもらうことにした。

 それで十二月の今まではおおよそ上手くいっていた。

 しかし、今日鳥の世話をしに来た五人がささいなことをきっかけにケンカをして、扉を閉め忘れてしまった。

 閉め忘れたことに気づかないままの帰り道、後ろから鳥が飛んできて「あれ?」と思った。野鳥か……と思ったところで次々鳥が飛んできて、これはおかしいぞと気づいた。そして後ろを振り返ると鳥小屋の扉が開いていることに気付く。そして慌てて小屋に戻ったものの、もうもぬけの殻だった、という顛末だ。

「……僕が最後に確認しなかったから……」

「……私も……」

「僕だって……」

「俺がミックに突っかかったから……」

「鳥さん……逃げちゃった……」

 子どもたちは皆しょんぼりしている。

「……逃げたものは仕方がない。まあ、これが素人商売の限界というものだったのだろう。……ほら、もう元気を出して。さっき売れた分だ。これで甘いものでも買って帰りなさい」

 カナリアが優しく言い、先ほどのお金の一部を渡す。

 するととたんに、

「やったー!」

「何買うー?」

「俺ぜってーポップラムネ!」

「リコリスもー!」

「チョコチョコ~」

と盛り上がって、ありがとうありがとうとおざなりにお礼を言って、子どもたちは次々にお金を受け取る。

「またなんかあったら呼んでよね~、カナリアさん!」

「おねーちゃんもバイバーイ!」

 ワイワイと賑やかに盛り上がって、子どもたちは走って行ってしまった。

 嵐のような子どもたちであった。

「……あいつら……」

 下手にでれば付け上がりやがって、とカナリアは拳をにぎりしめて震える。

 シンシアはそれを見ながらニコニコしていた。

「はあ~、子どもってかわいいわね~」

 のんきに言う。

「ええ?」

 カナリアは嫌そうにジト目で見る。

「え?そうじゃない、落ち込んでたと思ったらすぐに元気になったり、すぐケンカしちゃったり、かと思ったら優しさを見せちゃったりさ。

見てて飽きないわよね」

 ニコニコとシンシアは笑う。そして「ウチの弟もあの位の時ホントかわいかったわ~」と身もだえている。

「……まあ……そうかもな……」

 カナリアが不満顔をしながらも一応認める。

「あれをまとめるのは大変ですね……、なんで子どもたちに手伝ってもらっていたんですか?」

 口をはさむ隙がなく、黙って経過を見守っていたモーガンが尋ねる。

「ん? 地域貢献だよ。地元との交流は大切だろう? せっかく離れた地に学びに来ているのだからな。

それに大人を使うのは色々面倒くさいからな、子どもがちょうどよかった」

 片付けまでやらせればよかったとブツブツ言いながら、カナリアは大判のハンカチで鼻と口を覆って後ろで縛り、ほうきとちりとりを持って鳥小屋の片づけを始める。

 モーガンたちもそれを手伝う。

「僕、弟とか妹がいないから、小さな子ってどう接したらいいのかわからないんですよね」

「そうなんだ。……ふふ、ただの慣れだよ。私だって最初はどうしたらいいのかわからなくてオロオロしたもの。今だって、ちょうど世話したことがある年齢の子だったから話しかけられたけど、もうちょっと上になると何を話したらいいのかわからないもの。……子ども扱いしすぎちゃって嫌われちゃたこともあるわ」

「そうなんですか……。ああ、さっき弟さんがいるって言ってましたもんね」

「!? ……あ、ああ、そう、弟がいるの。アレクシスって言ってね、とってもお利口な自慢の弟なのよ。今十四歳よ。」

(あれ? なんか違った?)

 前半が少し思ったのと違った反応だったので、モーガンは「はて?」と違和感を覚える。

 しかし話はさらに続いている。

「カナちゃんちは妹さんがいるわよね」

「うむ、この学校の一年生だ」

モーガンは会ったことがなかった。別のクラスなのだろう。

「へえ。姉妹揃って優秀なんですね」

「まあな。だが、あれは生物にも天体にも興味がない。興味があるのはスポーツと金だけだ。趣味が合わん」

「……そ……そうなんですか……」

 学内でこっそり商売をしているカナリアにそう断言される妹を想像して、モーガンは妹の方も個性的なんだろうなあと思う。

「カナちゃんとは別の方向にかわいい子よ。今度紹介するわ」

「はあ……どうも……」

 粗方鳥小屋の片づけは終わった。

 また、春になったら卵を強奪するかひなを捕獲して飼育するのだそうだ。

 帰りにカナリアが作っているという花畑に行った。

 1アールくらいの広さにバラとハーブが植えられている。

 冬なので剪定が済まされ葉もほとんどない。

「ここで植物の栽培を行った。これがまた春になったら化粧品の材料になる」

 カナリアが誇らしげに言う。

「まだ試したい素材は色々あるんだ。拡張して色々植えてみるつもりだ」

 今後の計画に胸を躍らせて目がキラキラしている。

「えっ?じゃあその時は私もお手伝いしたいわ!あの子たちにもまた会いたいし!

モーガン君もやろうよ」

 シンシアが楽しそうに誘ってくる。

「ええ。僕も子どもとも仲良くしてみたいかな……」

 今日全然話せなかったことが心残りだったし、今までやらなかったことに挑戦したかった。農作業は初めてだ。

 そんなモーガンを見てシンシアはにっこりと笑う。

「モーガン君はチャレンジ精神旺盛ですばらしいね!一緒に色々やってみようね!」

 モーガンはほめられたことがうれしくて「はい!」と元気よく返事をしてしまい、自分で少し照れてしまう。

「頭数が増えるのは大歓迎だ。ふふふ、何を植えようか楽しみだな。」

 カナリアはあれもいいこれもいいとブツブツつぶやいていて、ふと

「モーガン君は色々と新しいことをしたいのかな?」

と尋ねる。

「ええ、せっかく新しい場所に来たので色々やってみたいなと思ってます。

僕はまだこれが好きと言えるものがないので……」

 はっきり目標がある人が眩しくて少し小声になってしまう。

「ふむ。模索は大切だ。

では、私からはさらに虫取りと天体観測をおススメしよう。

春休みや夏休みにダンブル山に泊りで行くのだ。興味があれば一緒に行こう。

天文部や部以外の他の友人も行くから初めてでも大丈夫だ。

資金は作業を手伝ってくれることで融通しよう」

「ええ、ぜひ!」

うれしい申し出にモーガンはすぐに飛びつく。

「えー、いいなー、私も行きたいー」

 うらめしげなシンシア。

「いいぞ。最近は虫も星も見ない子どもも増えているからな。私も広く趣味を普及し発展させたい。

……あの子たちにも後学のためと思って色々うんちくも語って聞かせていたのだが……たぶんアイツらは何も覚えてはいないだろう……」

 精神的に疲れて遠い目をする。

「でもまあ、そんなこともいつか役に立つ日が来るかもしれない。……それでいいんだよ」

 その眼差しは優しかった。



 その夜、モーガンは用事があって外に出ていた。

 すっかり暗くなった道を歩く。

 その途中、グラウンドを通ると、誰かが走っていた。

(こんな夜遅く……?)

 グラウンドには照明はなく、真っ暗だ。周りが木々に覆われていることもあり闇深く感じた。

 一つだけカンテラの明かりがついている。それはローザだった。

 走っているのは……

(シンシア先輩……?)

 全力ダッシュを繰り返しながら、グラウンドを走っていた。

 ローザと目が合った。

 ローザは口元に人差し指を当てて「しー」という動作をする。

 邪魔をするな、ということなのだろう。

 すごく気になったが、モーガンは黙って立ち去った。



 翌朝、ランニングに来たローザとグラウンドで会った。

「……あの……、昨日の夜……」

「秘密です」

 夜のことを聞こうとしたのに、一言で封じられてしまった。

「……」

 黙ってしまったモーガンにローザは薄く微笑む。

「まだ秘密です。……どうか、見なかったことにしてください」

 頭を下げられてしまっては、もう何も言えなかった。


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