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エリーは何も言わなかった。
侍女頭にも、王にも。
ダリア様が心安らかに過ごしてもらえる場所を水面下で探していた。
「エリー」
ビクリと肩が跳ねる。ダリアの兄、ロータスだ。
騎士団の制服を見に纏い現れた。
「ロータス殿下」
「エリー、いいんだ、仕事中に悪いな。
ダリアの様子を確認したいのだが」
挨拶をしようと立ち上がるエリーに、手を振る殿下。
ロータスは時折、エリーを訪ねてダリアの様子を伺う。
「ダリア様はあまり朝食を取られず、今日も…城の外を見つめてばかりでおられます。」
「そうか」
仕事中に悪かった、と言い残し去っていくロータス殿下は、ダリア様と一緒に過ごす時間が多く、大切に思われていただけに、この状況は切なく寂しいのだろう。
ダリアはもうすぐ15歳、デビュタントを迎えれば王立の学園に入学することが決まっている。
王族唯一の王女であるダリアは、大変大切に育てられた。わがままも言わず聞き分けのよいダリアは、兄たちにもよく可愛がられていた
幼い頃に、風邪を召されて寝込んだ時は王妃自らが側に付き看病をした
恥ずかしがり屋で王妃のスカートの後ろに隠れる姿は、より愛らしく見えたものだ
兄たちと一緒に追いかけっこをして、転んでしまい擦り傷と打撲の怪我をされた際は、王妃は兄たち両殿下を激しく叱責して罰を与えることもあった。
それほどまでに大切に大切に育てられたダリアは、いつしか城の一番安全な部屋で、王妃と共に過ごす時間ばかりだったのだ。
ダリアはたった一度、父の弟である叔父の家に遊びに行った以外、街に降りたことはなかった。
街に降りたいと願うのも無理はない。
ならばそれを叶えてやるのが、私たちの役目だ。
しかし、ダリアの部屋は第一騎士団の護衛が常に張り付いている。まずはそこを突破せねば。