2
ダリア・サードニクスには、王である父、王妃である母、王位継承権第一位の兄、ジェード。王位継承権第二位のもう一人の兄、ロータスがいた。
「ダリア?朝食をいただきにいきましょう」
ーー扉の向こうから母の声がする。
マグノリア・オーキッド・サードニクス、元公爵家の令嬢で、サンストーン王国の王妃だ。穏やかで優しい母。
プラチナブロンドの髪に、ダリアと同じ茶色の目。
スラリとした母は当時のデビュタントでは「花」と呼ばれる程、美しい人だった。
母の生家のオーキッド公爵家は代々王家に仕え、当代オーキッド公爵は右大臣を務め、父の右腕として国を守る。
家柄も申し分なく、トントン拍子で婚姻。その後2人の王子と1人の王女に恵まれた。母の美しさは今も健在だ。
「ダリア、起きているのでしょう?…この母にお顔を見せてちょうだい」
幼子に言い聞かせるように声をかける母に応えることができないわたしは、そっと息を潜める
遠ざかる靴音に、ホッと胸を撫で下ろした。
わたしが部屋に閉じこもるようになってからは、毎日繰り返されるこの静かなやりとり。母は毎日訪ねてくる。
最初は、何があったのか。等をよく聞いてきたが、最終的に物言わぬわたしを朝食を誘うようになった。
だが、それにも応えられず。静かに去るのを待っていた。
外部との繋がりを絶った日から、ひたすら窓から街を眺め、静かに、穏やかに暮らしたいと願うダリアだった。