初めてのお外は突然に
これは大変なことになりました。
「いいですか坊ちゃま! 帽子はしっかりと目深にかぶって、最近はかなり冷え込んで参りましたのでもう少し暖かいお召し物を」
「う、うん。わかった」
一体どういうことなんだ。
「外の世界は何があるかもわかりません! マイヤが常に目を光らせているとは言え、ご自身でも自衛の心得は持っておくべきでございます!」
「わ、わかったよ、まいやさん」
ぐいぐいと必死に洋服を着せてくるマイヤさん。
わからない。
なぜこんなことになったのか。
昼食を食べおわり、いつも通り書斎で本を読んでいた時だ。
この国でしか見られない植物があるということで、この屋敷からでも見ることが出来るかを聞きに行ったのだ。特に何があるわけでもない。
俺が知らないものを物知りのマイヤさんにその実体験を聞きにいく、いつものこと。
ただ今思えばだが、今日はいつも凛としたマイヤさんとは違い、朝からソワソワしているような気がした。
しかし心配になって思わず訪ねてみたが、特におかしな様子はない。これもいつも通りだ。
それがどういうことだ、急に村へおりて行こうなどと言い出したのだ。
いや、外の世界へ行けることは素直に嬉しい。あと一年は我慢しなければならないと思っていたし、何よりナメツグ草の開花を4年待たずして見ることが出来る。
わけだけど。
「あ、あのマイヤさん? 村に行けるのは嬉しいんだけど、大丈夫?」
大丈夫?というのはもちろん言葉通りの意味だ。
俺が4年間屋敷から出ることが出来なかったのにはなんらかの理由があるわけで。
詳しい事はわからないが、この国の風習のようなものなのだろう。
その掟を破ることにマイヤさんが幇助する形になるわけだ。
屋敷から出る事はやぶさかではないわけだけど、そのせいでマイヤさんに何か被害が被った時、俺はそれが心配なのだ。
「ええ、フェル坊っちゃまに何かありそうな時はマイヤがお守りします」
いやそういうことではないんだけども。
しかし、フンスと鼻息が聞こえてきそうなほどの気合いに俺はつい言い返す熱を削がれてしまう。
ここまでやる気になるマイヤさんを俺はみたことがなかった。
まあマイヤさんも守ってくれると言っているし、特に問題はないんだろう。
すると、それでも心配そうにしている俺を見かねてか、マイヤさんは床に膝をつき言った。
「では坊っちゃま、最後に私とお約束をしてください」
「うん、何?」
「本当は後1年、フェル坊っちゃまが外に出る事は出来ません」
「うん」
「ですが今日、その掟をマイヤのわがままで破ります」
「うん」
「でもこれは内緒です! 私が怒られてしまうので!」
「う、うん」
「それに破ったところで特に問題はないです。おそらく。たぶん」
「え?」
「まあ何かあるとすればバカになってしまうくらいでしょうか」
「え? それってマズイん——」
「では坊っちゃま行きますよ!」
マイヤさんがそういうと、外から入り込んできた生温い秋の風が俺の顔をくすぐった。
わずかに乾燥した土と樹の香り。
真上の日光が俺の視界を一瞬だけ真っ白にする。
同時に、目の前に広がる鬱蒼とした森が俺を歓迎しているようだった。
「どうですか坊っちゃま」
「ははっ、すごいねマイヤさん!」
俺は前で手を引くマイヤさんに笑いかけた。
昔はこんなことでいちいち感動なんてしてなかったはずなんだけど、数年ぶりの外だからか、それとも単に俺が歳をとったからなのか、俺は俺が思っていた以上に外の世界が恋しかったみたいだ。
なんてことない風景に胸は喜びでいっぱいになる。
確かにそう言えば、危ないからと言いつつ毎日散歩してたもんな、前世は。
「ふふふ」
「すごいよ。感動だ」
正直景観は屋敷から見ていた方が綺麗だ。全体もよくわかる。
ただなんと言うか、ここから見るとライブ感があるというか。
走り回れるくらいの広い庭に、玄関からまっすぐ遠くに延びる大きな長い一本道。思わず走り出したくなる。
広い森の真ん中に大きな一本道を上から敷設したようなイメージだ。
シミュレーションゲームでありがちなやつ。
「では坊っちゃま、村に行きましょう」
「うん!」
笑いかけながら手を引いてくれるマイヤさんに俺はついていく。
いまいちどこで区切っていいのかがわかりませぬ_:(´ཀ`」 ∠):




