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第2章「この宇宙の向こうで、キミの呼ぶ声がする。」第4話

息を切らしながら目的地に着くと、約束の時間の3分前だった。

駅前の広場には既に健一くんがいた。

わたしに気がつき、ふっと微笑んでくる。


「ごめん、待った?」

「ううん。俺も今来たところだから」


彼は徒歩だった。

わたしは自転車を押して、彼の横に並んだ。


「家はこの近くなの?」


わたしは彼に訊く。


「うん。そこのマンション」


そう言って、駅前の一等地にそびえる大きな建物を指差す。


「千歳はどこに住んでるの?」

「わたしは、東ヶ丘公園の近くの住宅街」

「ふーん。じゃあ、ちょっと遠かったね。ごめん」

「いや、大丈夫だよ」




2、3分歩いて、カラオケ店に着いた。


彼に続いてガラス戸をくぐると、階段があって、わたし達はそれを上った。



「いらっしゃいませ」


スタッフの人が対応してくれる。


「2名様ですか?」


「はい」


ここは彼に任せて、わたしは店内を見渡す。


ドリンクバーに、お菓子類各種。マラカスやタンバリンもある。




「千歳、時間はどれくらいにする?」


尋ねられて、わたしは慌てて振り返った。


「ええと、8時くらいまでなら大丈夫だけど…」

「んじゃあ、3時間くらいか」


うんと頷いて、彼は店員さんに、


「3時間だと、どれが安いですか?」


と言った。


「フリータイムがお安くなっております」

「じゃあ、フリータイムで」

「かしこまりました」


店員さんはスッと奥へと下がっていき、グラスと部屋番号カードを持って戻ってきた。

彼がそれを受け取るのを確認すると、わたしは歩き出した。


「23号室だって」


案内通りに進み、部屋に入ると、冷房を入れマイクを手に取った。



「さあて、歌うか」


彼の言葉で、カラオケデート(?)が始まった。




やはり、最初の曲は重要で、悩んだ。


でもやっぱり、わたしはあの曲にした。


『始まりの唄 seiya』という表示とともに、イントロが流れ出す。


1番のAメロは少し探るような感じだったけれど、徐々に調子が上がってきた。




わたしはその後、seiyaの曲を2曲歌った。

その間、彼は黙って聴いていた。


「健一くんも歌ったら?」

「う、うんっ…」


彼はリモコンを手にし、入力を始めた。

そういえば、彼が何の曲が好きかとか、知らない。

っていうか、ほとんど何も知らない。



ピピッという機械音と同時に、画面が切り替わる。

seiyaの『瞬き(またたき)』だった。


「別にわたしに合わせなくても…」

「そういう訳じゃ、ああっ!」


演奏が始まってしまっていて、彼は途中から歌い始めた。



最後のワンフレーズが終わり、彼がマイクを置くと、2人で笑った。


「イントロ無しの曲にしなきゃ良かった…」


悔しそうな顔をする。


「まあまあ、これからだよ」




切り替えて、わたし達は思う存分歌った。

2時間くらい経った頃だった。


「千歳さ、やっぱ歌上手いね」


彼が言う。

何回目だろうか。


「歌手にでもなったら?」


からかっているつもりだろうか。


「変な冗談やめてくれない?」

「いやいやそんな。冗談なんかじゃないよ」

「大体さ、どんだけ厳しい世界か分かってるの?」

「分かってるよ…」


多分、いや、絶対に分かっていない。


「とにかく、そんな夢物語はやめて。とりあえず、歌おう」


その時はそう言ったけど、後から考えてみれば、彼のこの一言がわたしの人生を変えたんだろうなと思う。




あっという間に時間は過ぎて、お開きの時間になった。

この短い時間の中で、わたしの夢はシンガーソングライターに変わっていた。

もう全く分かりやすい奴だと、そう自分でも思う。


「今日の支払いは俺がするよ。出世払いで返せよ」


なんて彼は、嫌味ったらしく言う。

わたしはそれに、


「よーし、ちゃ〜んとその時まで待っててよ!」


って返した。



シンガーソングライターって、どんなに楽しい仕事なのだろうか。

自分の書きたい歌詞を書いて、歌って…。

そんな事を仕事にしたい。

そうしたら、きっとこのお金も返すからさ。



1歩外へ出ると、ビュウっと夜の風が吹いた。


「じゃあ、気をつけて。また月曜日に」

「ああ。千歳も気をつけて帰れよ」


自転車に跨って、満点の星空の下、わたしは走った。

ひときわ大きな明るい星が、チカチカっと瞬いた。

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