第2章「この宇宙の向こうで、キミの呼ぶ声がする。」第2話
小さい頃のわたしは、歌うことが本当に大好きだった。
父も母も音楽が好きで、わたしは3歳からピアノを習い、小学校では卒業の歌の伴奏もした。
両親はその事をとても喜んでいたけれど、わたしは正直、そんなに乗り気ではなかった。
その頃から、わたしはピアノを弾く事よりも、歌うことの方が好きになった。
そんなわたしに、父はギターをプレゼントしてくれた。
ギターだったら、弾き語りも出来るだろうと。
わたしは毎日練習した。
父の誕生日にハッピーバースデーを歌ってあげると、
「千歳はホントに歌が上手いなぁ」
と言って父は喜び、母もそれを見て微笑んでいた。
中学生になって、わたしは合唱部に入った。
「今日から、1年生の新しい仲間が加わります。左からー」
2、3年生の先輩へ向けて、顧問の先生がわたし達新入部員を紹介する。
「菅原千歳さん」
「はいッ!」
1年生は自己紹介をしていくのだが、わたしは緊張して場違いな声を出してしまった。
皆、クスクスと笑っている。
それで逆にリラックスできた。
「わたしは歌うことが大好きです。今日から皆さんと一緒に歌えるのが、とても楽しみです。宜しくお願いします!」
無事、終えることができた。
「今日からは、1年生も加えて、夏のコンクールの課題曲の練習をしたいと思います」
そう言ったのは合唱部の部長、真部みさき先輩だ。
入部から1週間が経ち、部活にも、この中学校での生活にも少しずつ慣れてきた。
そして、この部の先輩や同級生のこともまた、分かってきた。
ちなみにみさき先輩は、とても人望の厚い頼れるリーダー、といったところだ。
「それでは、各パートに分かれて練習しましょう」
彼女の指示で皆一斉に動き出す。
今年のコンクールの曲は、今人気のシンガーソングライター、seiyaさんがNコンのために書き下ろした、「始まりの唄」だ。
わたしはseiyaさんのファンで、この曲も好きだったから、歌えると思うとワクワクしていた。
わたしはソプラノパート。
1年生はメロディーの方が音を取りやすいだろうと、先輩達が配慮してくれたようだ。
無事に練習も終了し、わたし達は家路につく。
「今日の千歳、スゴイやる気だったねー(笑)」
話しかけてきたのは、親友の咲だった。
「だってさあ、seiyaさんの歌じゃん。そりゃやる気出るでしょ!」
「あー。千歳ほんと好きだよね、seiya。流石、年10万円使うファンだけあるわ!」
「…そんなっ!」
言い返そうにも、図星だから出来ない。
「まぁ、いいなって思うよ。そんな熱中できるって」
「咲だって、encountersに同じくらい熱中してるでしょ」
「ッ…‼︎」
咲は言葉に詰まり、わたしは思わず笑ってしまう。
ちなみに、encountersは今大人気のロックバンドだ。
その後もヤイヤイ言い合いながら、夕暮れの道を進んだ。
翌日、学校へ行くと、わたしは朝の練習に参加した。
合唱部では、基本的に朝の練習は自由参加になっていて、いつも、わたしと咲、みさき先輩、それから数人の2年生の先輩が参加する。
今日は合わせて5人だった。
「お疲れ様でしたー」
みさき先輩が言って、8時に練習は終わった。
ホッと一息ついていると、
「千歳さん、ちょっと…」
彼女に呼ばれた。
「先輩、何ですか?」
わたしが尋ねると、彼女は少し言いにくそうにした。
「…あのさ、凄いやる気があって、頑張ってるのは分かるんだけど、もうちょっと声、小さくしてくれないかな…」
「え?」
「歌うのは上手なんだけど、合唱には向いてないっていうかさ。他のみんなと合わないんだよ。…いいかな?」
「…はい…分かりました」
本当は分かってなどいない。
わたしだって、頑張っているのに。
みんなと一緒に、思い切り、一生懸命歌いたいのに…。
それでも、受け入れるしかなかった。