第1章「それでも、僕はきみと」最終話
冬月ちゃんが居なくなった部屋で、僕は悶々としていた。
彼女の引きつった顔、慌てた様子。
それがずっと、頭に引っかかっていた。
“ロボット発売から1カ月”。
“彼女が引っ越してきて、1カ月”。
それに気がつき、彼女が慌てた理由が分かってきた。
彼女は…ロボット。
辿り着いた答えに、僕は首を小さく横に振る。
認めたくなかった。
僕はスマホを取り出し、彼女のケータイの位置情報を取得した。
彼女は、新宿方面に向かっていた。
〇〇自動車の本社を調べると、新宿にあるとのことだった。
間違いないだろう。
僕はすぐに、新宿へ移動を始めた。
新宿の本社に着くと、そこは大勢の人、いやロボットで溢れていた。
見渡す限りの…
その中で、僕は見つけた。
ベンチに腰掛ける彼女を。
「冬月ちゃん!」
僕が声を掛けると、彼女は顔を上げ、驚きの目で見つめてきた。
「聖也くん。…何で、ここに?」
「急に出て行くから何事かと思ったよ。でも、全部、分かったよ」
納得した眼差し。
「私のこと、嫌いになった?」
「何で」
そんな事、あり得ない。
今だって、君のことを心配して、愛しているから、きているのに。
「やっぱり、そうなんでしょ」
なぜ君はそう言うの?
悲しみとか、そういうのを通り越して、僕は怒りに震えた。
「…冬月」
そう呟いていた。
初めて呼び捨てした瞬間だった。
「だってそうでしょう?私は人間じゃない。ここで造られたロボット。それが分かって、愛してくれるはずがない…でしょ?」
「冬月‼︎」
僕は声を上げた。
彼女が肩をビクつかせる。
周りのロボット(ひと)は、何事かと目を向けてくる。
でもそんなこと、どうでも良かった。
「何で信じてくれないんだよ!…僕は、僕は、どんな君でも愛してる。ロボットだとか何とか、どうでもいいんだよ」
彼女の肩に手を乗せる。
「僕は、君が好きなんだ」
彼女の心が動いたのが分かった。
目一杯に溜めていた涙が、溢れ出た。
僕は堪らず抱きしめた。
「ごめんなさい。私何もわからずに。こんなにも、私を想ってくれてたのに」
「いいんだよ。これからだよ」
「うん」
人目なんて気にせずに、僕らは抱き合い、泣いた。
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モニターに映し出される、カウントダウンの数字が0になると同時に、僕はステージに上がった。
歓声をくれるみんなに手を振りながら、ステージの真ん中のマイクの前に立った。
「えーと、今日は、僕、seiyaのワンマンライブに来てくれて、ありがとう」
目の前には、5000人近くの観客がいる。
「それでは、早速始めたいと思います」
肩にかけたアコースティックギターを構え、鳴らす。
最前列の冬月に視線を送り、告げる。
「聴いてください。“それでも、僕はきみと”」