第2章「この宇宙の向こうで、キミの呼ぶ声がする。」第7話
昼になっても、わたしは家でゴロゴロとしていた。活動を休止してから、いつもこうだ。光星と言う男がいること以外は、本当に変わりはない。
「なぁ、千歳。健一くんと作った歌の楽譜ってないの?」
ボーッとしているわたしに、訊いてきた。
「その棚のファイルの中にでも、入ってない?」
答えると、彼はガサゴソと探し始めた。10分くらいしただろうか、彼は一枚の紙を取り出し、声を上げた。
「これだ!『マリオネット』」
そしてジイっとその楽譜を見る。
「この字、なんか雑だなぁ」
「どれ?」
「ほらこれ」
差し出されたそれを見ると、確かにかなり雑な字で、ギターのコード譜が書かれていた。いや、でも……
「それ、seiyaさんが書いたやつ。超貴重だよ。そんなこと言わないの! 」
「ええっ、これが⁉︎ なんか想像つかない」
「でも、本当だから。凄いと思うよ、今も第一線で活躍してるからね」
わたしの言葉に、彼は頷いた。
「その曲をさ、出すことはできないの?」
「は?」
突然の言葉に、わたしは固まる。
「だからさ。その『マリオネット』を、千歳の新曲として、出せないのか? 」
その瞬間、わたしは答えを見つけた。
「あとさ、千歳。俺、1つ隠してることがあるんだ」
「何?」
彼はポケットから、取り出したそれを見せて来た。ペンダントだった。
「見覚え、ないか? 」
「……」
「10年前、これを俺にくれたよな? それで、『歌手になる』って、約束したよな? 」
わたしの視界はボヤけ、雫が膝の上に溢れ落ちた。
「健ちゃん、だったんだね」
「ああ」
わたしは涙を拭い、
「……でも、なんで」
鼻の詰まった声で訊いた。
「信じられないかもしれないけど、俺は、別の星から来たんだ。10年前も、今も」
「え? 」
「10年に一度、1ヶ月だけ、こっちにこれるんだ」
頭が付いていかない。
「千歳、本当にありがとう。もう、星に帰らないといけない」
彼が言うと、くすんでいたペンダントが物凄い光を放った。
「じゃあ、元気で。また10年後」
彼が言い切ると、さらに光が増して、わたしは思わず目を閉じた。
目を開けると、彼はもう、いなかった。わたしはたった1人で、立ち尽くした。「マリオネット」の楽譜を持ったままで。