第2章「この宇宙の向こうで、キミの呼ぶ声がする。」第6話
「僕が作曲の手伝いをしてあげようか」
seiyaさんは、伯父さんの説明が終わると、わたしに向いて言った。その言葉に、わたしは心臓が飛び出そうになった。
「えっ……、いいんですか? 」
「ああ。ここのおじさんにはいつもお世話になってるからね。そのお礼も込めて」
そうして、わたしはseiyaさんと共に、作曲をすることになった。
「なかなかいいね。この歌詞」
seiyaさんが言う。
「これ、さっき言ってたクラスメートの健一くんが書いたんですよ」
「すごいなぁ。その子才能あるよ」
「じゃあ、伝えときますね」
最初、わたしは緊張していたけれど、彼がとてもフレンドリーで接しやすく、すぐに仲良くなれた。
「今、2パターン思いついたんだけど……」
そう言って、彼はギターを鳴らし、歌った。
「どっちがいい?」
「わたしは、後の方が好きです」
「そうか。じゃあ、これにちょっとずつ手を加えていこう」
1時間後、seiyaさんはペンを置き、息をついた。
「できたんですか? 」
「うん。結構いいんじゃないかな」
そうして、彼は今できたばかりの曲を、弾いてくれた。
「すっごくイイです!ありがとうございます!」
「気に入ってもらえて嬉しいよ」
ふと時計を見て、わたしはハッとする。
「すみません。わたし、もうそろそろ帰らないと」
「ああ、もうこんな時間か。気をつけて帰ってね」
わたしは楽譜をカバンに大切にしまい、
「本当に、ありがとうございました」
seiyaさんにもう一度お礼を言って、店を後にした。
月曜日、seiyaさんと作曲した楽譜を健ちゃんに見せると、彼は目を丸くさせた。
「千歳、もうできたのかよ! 」
「まあね」
すると彼は、わたしから強引に楽譜を奪い取り、読み進めていく。そして、ふた回りした頃顔を上げた。
「すげえイイと思うよ。早速練習しないと」
「そうは言ってもさ、まだ午前中の授業も終わってないんだよ」
わたしが呆れた声で言うと、『しょうがねえだろ』とボソボソと言い、楽譜を返してきた。わたしは小さく笑った。
放課後、わたし達は『大村楽器店』に向かった。もちろん、練習をするために。彼もなかなかの腕前で、1時間ほどでギターはほとんど合うようになった。そして、歌。seiyaさんは、2人で歌うならと、きちんとハモりパートまで作ってくれていた。やっぱりつられて歌いにくかったけれど、練習を重ねれば大丈夫だろう。
練習を終え、店から出ると、とっぷりと暗くなっていた。本番まで、あと10日。期待と不安の入り混じった感情が、夜空に浮かんで、消えた。
そして迎えた本番、わたし達のステージは、拍手の中でスタートした。本当に気持ちが良かった。彼と歌って、一躍わたしは注目の的となった。わたしは鼻高々で、彼も本当に楽しそうだった。
しかしそんな時間も、長くは続かなかった。文化祭が終わった次の週、健ちゃんが引っ越してしまったのだ。別れの日、わたしは1番の宝物を彼にあげた。赤色の宝石のついた、ペンダント。彼はそっとそれを握り、
「ずっと大切にする」
と言ってくれた。そして、
「次に会う時は、絶対に歌手になってろよ」
と、言って寄越したのだ。わたしは、涙ぐみながら頷いた。