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絶望

作者: 忍野潤

 こんなものを書いてみた。


 僕は遺書のつもりでこれを書きます。でもまだ考えがまとまってないので、読みにくいところも多いかと思います。その点はご了承下さい。

 僕がこれを書くのは、生き抜く力がないからなんです。この世にとどまること自体が苦しみなように思えるからなんです。僕のような者が生きていていいだなんて、とても思えないからなんです。

 初めに言っておくと、僕は別段貧しい境遇に生まれたわけでも、重い病気を患っているわけでもありません。それでもこんな気持ちなんです。どれだけ貧しくても、どれだけ体が弱くても、僕なんかより立派に生きている人たちがいることも知っています。戦争や飢餓なんかで生きていけない人たちがいることさえわかっているのです。そういう人たちのことを思えば、何不自由ない生活を送れることに感謝し、日々を喜んですごしていく義務があるようにも思います。でも僕はそういう気持ちになれないのです。自分が生きていることに申し訳なさこそ感じますが、感謝することはどうしてもできません。

 僕は小さい頃から、人に迷惑をかけてはいけないと教わってきました。今では僕はこの教えを憎んでいます。それは僕の生きづらさの八割はこの教えに由来しているような気がするからです。当たり前のことですが、人は他人に迷惑をかけずに生きることはできません。人が関わりあうということは迷惑をかけあうということですし、少しくらいの迷惑がかかったからといってそれを大きなストレスとするような人はいないのです。ですが幼い僕はそれに気づかず、人にぶつかったり、約束を忘れていたりするたびに動悸が激しくなって息が浅くなり、決して許されないことをしてしまったのだという絶望を感じました。お菓子などを人から施していただいたときなどは家に逃げ帰りたくなりました。今は、その時に比べれば随分と図太くなって、他人への迷惑など顧みない僕です。しかし、それでも、他人へ迷惑をかけるたびにあの気持ちを感じます。幼いころからの癖はもう治りません。やはり僕は人と関わってはいけないのではないかという思いが何度も頭をよぎります。

 いや違う。間違っているのは世界のほうだ。そうも思います。どこを見ても生きていていい理由がないのです。働かなくては生きていけませんが、働いたところでそれに何の価値があるでしょう。本当にその仕事が誰かの役に立っているのか、役に立っていたとしてその誰かは他の誰かの役に立っているのか。いや、こんな思考は泥沼です。くだらない。

 僕には人間社会とこの世界との間に歪みがあるように思えます。人間は平和をのぞみますが、どう考えたって平和は自然の状態ではありません。それに、人間にとっての平和は、ほかの生物にとっては平和ではありません。家畜は喰われ、害虫や害獣は駆除されます。他のすべてを蹂躙して独善的な平和をつくる人間が、僕には理解できません。人殺しはいけないのに駆除すべき生物もいて、たくさんの肉を喰うと思えば保護すべき生物もいるのです。筋が通ってないでしょう。しかも人間以外なら殺しても構わないところを見ると、命そのものに価値があるというわけでもなさそうです。

 この世界はただこのようにあるだけです。ただ事実だけが淡々と並んでいます。そんな中で何を大切に生きていけばいいのでしょう。どうして他の人たちはみんな、こんな世界であんなにも明るく生きていけるのでしょうか。僕にはわかりません。無神論者は神を嘲笑します。お坊さんは金を軽蔑します。人は常に誰かを下に見ながら生きています。確実に価値があるといえるものなど、どこにあるのでしょうか。生きていたって死んでいたって大差ないんじゃないでしょうか。どっちにしろ零です。何もないんです。虚しいだけです。

 いろいろ書きましたが全部嘘です。忘れてください。僕の弱さは、生きたいと心の底からは言えない、そういう弱さです。本当に、できないからできないとしか言えない弱さです。わかっています。これは逃げです。僕は臆病者です。卑怯者です。わかっています。でも仕方がないんです。

 最後に、これまで僕に会ったすべての人に。僕なんかが、あなた方の人生に関わってしまい、申し訳ありませんでした。


 こんなものを書いた。がしかし、今も醜く生きている。

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