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彼女は知られる

今日はエピローグを一緒に投稿しております

前話を見ていない方はそちらをどうぞ

 レアが学園に入学してほぼ一年。学園には、新たな風が吹こうとしていた。最高学年の卒業もすぐそこに控え、学園内の雰囲気がどことなく浮き足立っている。

 このくらいの時期になると、次の代表会員を予測する生徒たちが大盛り上がりするのだが、今年は例年のそれと比べて勢いがなく感じる。


「ナターシャ先輩、代表会一位おめでとうございます」


 次代の代表会一位は、何をどう取り繕っても学園史上でも数少ない最高学年以外からの前年度代表会員以外あり得ないだろうからだ。事実、本人もその周りもそんな事を隠す気もなく会話している。


「ありがとうレアちゃん、今年もよろしくね」


「なんで今年も……」


 レアはため息をつく。本当なら、やりたいような仕事ではなかった。面倒ごとは果てしないし、何より友人との時間が合わないのが気にかかる。この学園に入学するまで本人に自覚はなかったが、レアも友達と遊びたい年頃だ。


 ただ、レアが適任である理由が分からないわけではない。前年ではナターシャの思惑によってなされた代表会入りであったわけだが、それによってレアは仕事の経験を積んでいる。代表会として考えるなら、ある程度仕事に慣れたレアが準格の席にいてくれると非常に助かる。

 分かってはいる。分かってはいるのだが、それでもレアは断りたかった。


「レア・スピエル!」


 背後からかかる声。この一年で随分と聞き慣れた、レア唯一の同輩である。


「……ハンナさん、なんでしょう?」


 公開祭が終わってから、ハンナは頻繁にレアを呼びつけるようになった。流石に果たし状のような物をいくつも貰うのはあまりにも面倒だったので無視していたら、わざわざ向こうから来るようになった。レアとしては諦めて欲しいから無視していたわけだが、どうやら本人には気がついてもらえないらしい。


「勝負しましょう! 今度は負けません!」


「……何度目ですか」


「何度でもです!」


「あぁ……そうですか……」


 かつてのように殺気を持った視線を向けてくる事はなくなったが、その代わりに好敵手のような扱いを受けるようになってしまった。楽しげに勝負を仕掛けてきて、負けると笑顔で「次は勝ちますから!」と元気に宣言する。


 近頃は廊下を歩いているだけで注目を集めてしまうレアだが、その上でハンナが所構わず声をかけるものだからなおさらだ。


「やりますよ、レア・スピエル!」


「え!? レアさんがいらっしゃるの!?」

「いらしましたわ!!」

「あれがあの!!」


 そんなやりとりがあるたびにため息をつきたくなるのだが、それを察してくれる相手はライラとリリアしかいなかった。


「レアさん、急ぎますわ!」


「走りましょう!」


「なんでこんな事に……」


 卒業までのあと四年、レアはこんな生活を続ける事になる。紛れも無い不本意でありながら、何をどうしても人の目から逃れる事ができなかった。


「卒業までの我慢ですね……」


 学園生活中、いったい何度同じ事を言ったのだろうか。両手でたりなくなったあたりから数えなくなってしまったが、二十や三十では収まらないだろうと思う。


 ただ、決して辛くはなかった。

 我慢だ面倒だと言いながら、その実たしかに楽しんでいた。


 レア・スピエルの学園生活は、あと四年間そのように過ごしていた。




 エルセ神秘学園には、学外までその名を轟かせる天才が幾人もいる。


 学園の一期生首席、オードム・ロドルム。

 女性初の代表会、キャロル・ローライン。

 学園始まって以来の鬼才、アドミナ・スピエル。

 のちに賢者と呼ばれる事となる、アリウムテル・バーリントン。

 直接戦闘においては歴代最強、ヴェルガンダ・アラドミス。


 誰もが優秀な魔術師であり、誰もが国の歴史に名を刻んだ。学園を国内でも有数足らしめる大魔術師たちだ。

 そして当代。ヴェルガンダの代より数えて四年を数えた今年も、やはり学園には高名な生徒が幾人も在籍している。その中の何人かはいずれ国外にも名を轟かせる逸材であり、さらに何人かは国の中枢を担う事になる才人だ。


 しかし、たった一人だけ、その実力と知名に大きく開きがある生徒が存在した。


 レア・スピエル。在学中の五年間、代表会準格二位の椅子に座り続けた少女である。

 学園の歴史上最も長きにわたって代表会であり続けながら、その席は常に最下位。


 最も優秀な劣等生であったと、のちの生徒に語られる少女である。

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