彼女は代表会になる
これから活動報告書く事にしました。
よければ気軽に質問してくださいね。活動報告に来た質問はそちらでお答えします。
っていうか質問欲しいです。
「素晴らしいわ!」
ヴェルガンダとレアの勝負が終わり、ようやく部屋に戻ることができるかと腰を上げたその時、レアとしてはあまり聞きたくない声が背後からかかった。
できることなら振り向きたくはないと現実逃避気味な思考をするレアであったが、レアの背後とはつまり、ヴェルガンダ達の正面なのだ。彼らは意図せず、レアにその声の人物が誰なのかを知らせることとなった。
「四位か」
「ナターシャさん、何か用ですか?」
ナターシャ・ステン・ハング
レアを代表会に引き込んだ張本人である。
「そうですね! 本当はレアちゃんを探していたのだけれど、先輩方と一緒なら都合が良いわ!」
都合が良い、それは当然ナターシャにとってと言う意味だ。レアの都合を考慮する気はさらさらないのだろう。たとえ、レアの勉強時間がみるみるうちに削られていようとも、彼女が気にする筈はない。
「レアちゃん、代表会正式加入おめでとう」
そんな、嬉しくもない言葉をくれるのだ。
「無駄話はなしに、何の用か聞いても良いかね? 我々に用事ということは、代表会に関する事と予想するが」
恐らくはこれからナターシャお得意の長話が始まるのだろうと辟易していたレアにとって、ヴェルガンダのその言葉は非常に助かる。レアが同じことを言っても適当にはぐらかすナターシャだが、先輩に言われては無視して話を続けるわけにもいかない。
「その通りです。だから、レアちゃんのお友達二人にはご遠慮願うわ。秘密のお話なの」
案内された場所は、真上に位置する第五棟四階の会議室だ。その階のほとんどを全て使用した巨大な一室は、教師陣が大人数で話し合う際にも使用される大会議室だ。盗聴を防ぐために多彩な魔術防御が施されており、覗き見対策に窓すら存在しないというほどの秘密主義。正直、たった数人の代表会が使うには過ぎた場所である。
その場所に到着したのはレアが最後であった。第五位のマティアス・ロベルト・ダイクロフトの姿が見える。
そしてもう一人
「……揃ったな」
部屋の中に置かれている不必要なほど巨大な円卓に、全く微動だにしない人影があった。もし声を発しなかったなら、レアは瞬きもしない彼のことを人形か何かと勘違いしていたことだろう。
彼こそが代表会第三位、アルテア・ハイドである。
座学のみなら一位と二位よりも高成績で、代表会の頭脳としてその才覚を遺憾なく発揮している。というのは、レアが聞き及んだ噂である。どこからかライラが聞きつけ、年頃の子女にありがちなお喋りでもってレアに話してくれた。
「座りたまえ」
その尊大とも思える態度を見るに、どうやらその噂は正しいのだろうとレアは納得する。促された一位と二位も、言われるがままに適当な席に着いた。
レアはどうしようかと少し迷ったが、ナターシャが強引に自分の横に座らせた。他の者がある程度の距離を開けて席についているのに対し、レアとナターシャだけが肩が触れ合わんばかりの位置に座っている。
「さてまずは、レア・スピエル。ここに居るという事は無事一位に勝利したと見受けられる。おめでとう。代表会は君を歓迎する」
話し始めたのはやはりアルテア。レアは知らないが、代表会の会議は全て、三位であるアルテアが取り仕切ることとなっている。これは明言された取り決めではなく、個々人の適正によって自然とそのように収まった結果だ。
「……ありがとう、ございます」
一応礼を口にするレアだが、その態度は幾分か固い。彼女が愛想のいい性格ではないことと、そもそも嬉しくもないことを口にした結果だ。
アルテアはレアの微妙な反応を気に留めた様子もなく、そのまま話を進めた。
「今日呼んだのは他でもなく、空いていた準格のもう一席が、ようやく埋まるからだ」
早速本題に入るところに、レアは好感を覚えた。ナターシャではこうはいかない。
準格
代表会七人のうちで、推薦で選ばれる二人のことだ。本来なら、成績で選ばれた者だけで代表会の活動を行うのは不備も多いだろうと、統率の適性がある者が選ばれるのだが、今年の場合は三位がその役割を担うため不要の長物だ。レアのような成績下位者をお遊びで入れようというくらいなのだから、よっぽど枠が余って仕方がないのだろう。
しかし一年の三分の一が経過してようやく代表会の席が埋まるというのも、随分と悠長なものだ。つい先ほどまでレアは正式な一員ではなかったのだから、本来二人いるはずの準格は一つも埋まっていなかったという訳だ。
「早速紹介をしよう。一学年のハンナ・S・ムーアだ」
さて、そのハンナ氏はどこにいるのかと視線を漂わせるレアであったが、その姿を確認することはできない。どうしたことかと不思議に思っていると、何と背後から声が聞こえた。
「初めまして!」
振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべた栗色の髪を持った少女が立っていた。なるほど見つからない訳である。
髪は短く、フワリと膨らむような形となっている。背後から見たら頭がまん丸に見える事だろう。華奢で小柄なその体躯は、どこか小動物を思わせる愛くるしさを感じさせた。体の前で両手を軽く組ませるのは癖なのだろうか。目鼻立ちは少しぼやけた印象を受けるが、それはむしろ幼さゆえの可愛らしさを引き立てているようにも思える。人当たりの良さそうな笑顔は、食べ物さえ渡しておけば誰にでも懐いてしまいそうだ。
全体的に、子供のようだが可愛らしい少女だ。
「ハンナ・S・ムーアです! よろしくお願いします」
ハンナは笑顔でレアから少し離れた席に着く。わざわざ真後ろに立っていたというのに、離れた席を選び取ったのだ。
「……?」
レアは、何やら彼女に見覚えがあるように思えたが、一体どこであったのかを思い出すことはできなかった。
「さて、彼女は準格一位ということになる。伴ってレアは二位だ。構わんな?」
「はい、大丈夫です」
それは当然のことだ。レア自身、自らの低成績を自覚していないわけではない。
「そして、他の者はもう知っているが、新入りの二人にも今後の活動について話しておかなくてはならないことがあってな」
アルテアは話を続ける。要件は終わりかと立ち上がらなくてよかったと、レアは密かに胸を撫で下ろした。
さて活動といえば、例えば校外の奉仕活動や、学園の宣伝などが主だったものだ。どちらもレアには役立つことができないだろう。なにせ奉仕活動ですら、魔術に重きを置いた内容となっているのだから。
そして今回は何かと言えば——
「対抗戦の予定が決まった」
それはさらにレアとは無関係な事柄だった。
対抗戦
不定期で行われる魔術学園どうしの模擬戦だ。他の活動と同じく、校外に対しての宣伝効果が期待されている。
なるほど、それは確かに代表会の主だった活動だ。むしろ最も目を惹く故に、最も重要であるとすら言える。
しかし
「対抗戦……ですか」
レアは首をかしげる。
「何か問題かね?」
不思議そうなヴェルガンダが問いかける。
「いえ、問題というほどではありませんが、わざわざ準格に話を通すようなことなのかと不思議に思って……」
「それが不思議なのか?」
次はアルテアだ。
「準格は対抗戦に出ないんですよね? 勘違いですか?」
対抗戦は単なる催し物なので、勝敗によって何らかの優劣が決められるようなことはない。しかし、やはり人間は競い事に関して手を抜かない節があり、毎回真剣勝負となるのが常だ。結果、実力で劣る準格は対抗戦に出場することがない。
「準格は裏方だ。全くの無関係でもないさ」
聞くと、参加生徒の補助はもっぱら準格の仕事なのだそうだ。さらに言えば、運営の手伝いもしなくてはならないらしく、むしろ仕事は多い方だとの事だ。あまり真面目に活動をするつもりがないレアは辟易としてしまうのだった。
「そう嫌な顔をしないでくれ。君にとっては、試合に出るよりよっぽどマシだと思うけれどね」
アルテアのその言葉は、確かにレアの真理である。しかし、マシであるという事は、決して最良である事と同義ではないのだ。
その後の会話はどうやら有意義なものだったらしいのだが、レアにはいまいちそうは思えなかった。興味がなかったというのもあるし、上級生の話についていけないというのもあった。習っていない言語や魔法についての話をされても、何のことかさっぱりだ。それはハンナも同じらしい。
差し当たって、対抗戦の試合形態だけは把握した。毎回違う形態をとる対抗戦ではあるが、今回は一対一を五回やる最も単純な形式とするらしい。より多く勝ち星をあげた方の勝ちだ。会話の内容からそうだろうと察せられた。
そして驚いたのは、その日程が驚くほど目前に差し迫っていることだ。なんとたった一月後の、夏期休暇の最中だと言う。
「ずいぶんと急ですね」
対戦の練習を行うにしても、それでは短すぎるような気がした。相手の情報を収集し、対策を立てることを考えれば、さらにその倍の期間は必要だろうと。
「そうかしら?」
しかし返ってきたのは、ナターシャのそんな呑気な言葉だった。
「別に大丈夫じゃない?」
「いや……まあ、先輩方が大丈夫なら構わないですけど……」
選手本人が平気なら、あえてレアに言うことなどありはしない。
しかし
せっかくの長期休暇が潰れてしまう
その思いを消すことはできない。何か先延ばしにするための口実を色々と考えはしたが、レアが言うことに妥当性のある言い分はついに思い浮かばなかった。
ツインタワー編
終了




