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彼らは話し合う

 プロローグ


 ガッカリさせちゃったかな?

「何をしているんだ!」


 部屋の中に、それはそれは大きな怒声が響く。怒声なのだから大きくて当然と思うかもしれないが、こればかりは常軌を逸していて、ともすれば声だけで校舎の半分が崩れ落ちてしまうのかと言う程のものだ。


「まんまと! あぁ、まんまと負けるだけじゃ飽き足らず! まさか信者にまで成り下がるなんて!」


 その怒りに震える男——代表会一位の肩書きを持つヴェルガンダ・ジークハイド・アラドミスは、今にも机を叩き壊さんばかりに拳を振り下ろす。しかし当の机が原形を保っているところを見るに、壊してはならないという自制くらいは効いているらしい。もしそうでなかったら部屋中大惨事だ。

 ずば抜けて高身長というわけではないものの、その細い体つきのせいか、幾分縦長のように見える体型。そしてその一見温和そうな顔立ち。彼が騎士科の実習に出ているのを初めて見た生徒は、その見た目からは想像できないほどの獰猛な戦い方に必ず驚く。

 遠縁ではあるが、鬼人の血をその身体に流す彼は、筋組織や骨密度が根本から人とは違うのだ。その細腕から繰り出される拳は想像以上に重く、硬く、とても身長170cm(センチメートル)と少しの人間の物ではない。蹴りも同様。それもそのはず、何せ彼の体重は、実に92Kg(キログラム)。そこから人間の物ではない筋力で繰り出される正拳は、魔法の補助なしでも容易く岩を砕く。

 その彼の声をその身に受けて、恐れをなさない人物がここにいた。


「信者なんて!」


 心外だと言わんばかりに声を上げたのは、代表会五位マティアス・ロベルト・ダイクロフトである。


「彼女を見れば、きっとそうは言っていられなくなる。これで魔法の才能があれば文句なしなんだけどね」


「随分と懐柔されてしまったものだ! えぇ、おい! それこそどんな魔法を使ったのか聞きたいものだがね?」


 口論は常に平行線だ。互いが、互いの言い分を全く聞きやしない。

 だからこんな時、全く対等な目線で発言できる第三者の存在が、これ以上なく救いなのだ。


「静かにしないか!」


 たった一言、そういった者が。

 一目見ただけで、その者の力を見抜くことはどんな賢人にも不可能だ。なにせ、彼の真価は身体的な特徴に現れず、内側の深い部分に内包されているのだから。

 代表会三位アルテア・ハイド。学園一の叡智と言われる彼の一言によって、会合の目的とは外れた争いはその時点でお開きとなった。

 アルテアは、その頭脳によって代表会三位の座に着いた秀才だ。曲者揃いの代表会において会議を取り仕切るのは本来は準格の役目だが、空席となっている現在はもっぱら彼が行う事となっている。


「……話を戻そう」


 そう、今回集まったのは、別にマティアスを責め立てるためではない。一位、ヴェルガンダがマティアス敗北の知らせを受けて「次は自分の番だ」と招集をかけたのが始まりなのだ。マティアスの報告は二の次で、適当な言い訳を聞いたら本題に入るつもりだったというのに、まさか口論になってしまっては本題に入れない。二位に至っては、持参した本の続きを読もうかとしているところだ。


「ヴェル、次は君が挑戦するということでいいんだね?」


 未だ怒り冷めやらぬといった様子ではあるが、ヴェルガンダはハッキリとした口調で返答する。どうやら話が進みそうなので、二位は読もうとしていた本を机の上に置いた。


「そうだ」


 レア・スピエルへの挑戦前には、必ず報告として全員で集まらなくてはならないことが決まっている。これは「勝負が勝利不可能なものでない」とあらかじめ保証されていなくてはならないからである。勝負内容を全員で共有し、その中の過半数が「充分に勝利可能である」と判断されたものだけが、実際にレアとの対戦に使用されることとなる。


「大丈夫ですか? 今度こそ」


 冷やかしを入れるのは、代表会四位ナターシャ・ステン・ハング。四学年である彼女が五学年であるヴェルガンダに対する姿勢としては褒められたものではないが、それを指摘する人物はここにはいない。第一には、それが普段通りであるから、注意しても無駄だという諦めから。第二には、その言葉に完全同意(・・・・)であるという同調から。


「ああ、今度こそ」


 ヴェルガンダは鷹揚にうなづく。

 これにはナターシャだけでなく、その場の全員が眉をしかめた。それもそのはずだ。彼が自信満々で遊戯(ゲーム)を持ってくることは、此度で三回目なのだから。


「ヴェル……あー、あのだな」


「前回みたいのは御免ですよ」


 言い辛そうなアルテアの言葉を、ナターシャが引き継ぐ。全く歯に衣着せない言い方だ。

 前回

 その言葉に、その場にいた全員が見せた表情は様々だ。二位は頭を抱え、三位は肩を落とし、五位は苦笑いを零した。そして一位本人は、不貞腐れたように、椅子の上で片膝を立てた。

 産まれてこのかた、およそ娯楽というほどとは程遠い生活をしていたヴェルガンダは、勝負内容に定められた「腕力を伴わない遊戯(ゲーム)」というものについて、全く無関心な性格をしていた。例えば絵札(トランプ)やモノポリーなどはてんで駄目で、辛うじてチェスの遊び方(ルール)を知っている程度だ。とても、自分に勝てそうな遊びを考える知識を有してはいなかった。

 彼はどうにか、不正についていくつかの方法を考え、それを遊戯(ゲーム)に組み込むことを考えついたのだが、それすらも上手くいかない。てんで使い物にならなそうな案を持ってきては即決で落とされるという様は、ここ数週間の様式美となり始めていた。

 そして前回

 それは、マティアスがロシアンルーレットの案を持ち込む前日のことだった。ヴェルガンダが代表会を招集し、いつも通り案を発表するといった時は、その案が出される前からすでに結果が見えていた。

 何故なのか? それは簡単なことだ。ヴェルガンダ本人の様子を見れば誰だって瞭然だったろう。あれほど自信なさげ(・・・・・)な代表会一位など、今まで見たこともないのだから。

 あの時は疲れていた。どうかしていた。とは本人の言。実際、持ち込まれたのは子供でも考えなさそうな幼稚な案だった。

 概ねはこうだ、数字の書かれた山札から互いに一枚引き、数字が多かった方の勝ち。一番上の札を二、そのほか全てを一にすれば、先に引いた方が必ず勝利できる。

 馬鹿馬鹿しいことこの上なかった。

 事前に山札の確認を要求されるだけで瓦解するような程度のものだ。山札を混ぜられたらそれでもいけない。

 何を思ったのかそれでも食い下がるヴェルガンダだったが、その意見も「不正は違反でないのだから問題はないはずだ」と言うものであった。自分が先に引く決まりだと言い張り、目の前で堂々と二番の札を一番上に置けば良いのだと。それを「勝負」とは言わないと指摘すればあっさり引いたところを見るに、本人も本気ではなかったのだと思われる。


「またあんなのじゃあないですよね?」


 いちいち却下することすら億劫だと全員で話し合ったのは、未だ記憶に新しい。


「大丈夫だ! 自信はある」


「まあ取り敢えず、聞こうじゃあないか」


 このままでは話が進みそうもないので、アルテアがひとまず背を押す。

 ヴェルガンダは全員の顔を伺い、取り敢えず反論がないことを確信すると、満を辞して自分が用意した遊戯(ゲーム)を公開する。

 自信は充分であった。確かに彼は遊戯(ゲーム)に対する慣れというものがことごとく欠如した人間ではあったが、しかし知識も知恵も人並み以上にあることは疑うべくもないのだ。でなければ、代表会になど入れるはずもない。

 それは、二つの塔だ。正方形を三分割したブロックを積み上げた正方柱。


「名付けるなら『ツインタワー』。自信作だ」

 次の更新は一週間後です。


 ブクマはそのままにしていてくれると嬉しいです。愛想尽かして外されると悲しいな……

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