当たりのミミック
「魔王様魔王様! 新しいミミックの開発に成功しました!
これで人間どもは恐怖に震え上がることになりましょう!」
「……ほう。言うてみ?」
「その名もラーメンミミック!
カップラーメンの姿をしており、注がれたお湯を吸って3分で覚醒、いざ食べようとフタを開けた人間をそのまま逆に食らってしまうという、大っ変に恐ろしいモンスターでございます!」
「ふーむ……。
で、それを普通のカップ麺に混ぜて流通させて、人間どもを混乱に陥れようっちゅうことかいな」
「ええ、まったくその通りです。
人間どもにとって大切な糧食であるカップラーメンに、よりもよってモンスターが紛れ込んでいるという恐怖……人間どもの混乱たるや推して知るべしというもの!
そこから食品に対する疑心暗鬼が広がれば、人間社会の経済にも大打撃を与えることが出来ましょう!」
「まあ、そこまで希望的観測しすぎるのも良うないとは思うけどな~。
取り敢えず、作ってもうたモンはムダにするわけにもいかんし、やるだけやってみいや。
――ああそうそう、ちゃんとした結果が出んと費用は経費で落とさせんから。そこんところは覚悟しとき」
「……も、もちろんですとも! では、朗報をお待ち下さい!」
「……とか何とか息巻いて出ていったんは、確か二月前やったか。
ほんで? 結局どうなったんや、新種ミミック作戦は」
「そ、それがそのー……あの……。
大変申し上げにくいのですが……え~……」
「何やハッキリせんかい!
ワシ、まだるっこしいのキライて知っとるやろが? おん?」
「も、もも申し訳ありません!
じ、実は、大失敗と言うか……その~……大評判、でして」
「……何やその、大評判、て」
「そのー……腹が減っている人間の貪欲さを見誤ったと申しますか……。
ラーメンが襲ってきたところで、『こちとら腹が減ってんだ、躍り食いと思えばラーメンが動いてようが関係ねえ!』と、逆に喰われてしまう始末で……」
「……確かに、飢えた人間は危険や、ナメとったらアカンな。
それにそもそも、ミミック言うたかてカップ麺程度の大きさなわけやしな。
――けど、大評判?」
「はあ。それが、その……大層美味だったようで……ミミックが。
それで、カップラーメンにミミックが混じっているのを恐怖に感じるどころか、遭遇すればラッキー、みたいな風潮になってきてまして……。
ついには、『ミミックラーメンの見分け方』とか、『こうすれば出遭えるミミック麺』だなんて、ムック本まで発売されるブームっぷりで……」
「……縁起モンか!」
「先日には、とある錬金術師が、運良く出遭ったラーメンミミックを捕らえたので、養殖して売りに出す――と、大手即席麺メーカーと契約を交わしたとかいう話まで……」
「……まあ、それも『錬金術』やわなー……ある意味」
「――と、そういうわけ、なんですが……。
そのー……いかがいたしましょう魔王様」
「せやなあ……うん。
まあ……取り敢えず、お前が使った費用は経費で落ちんから。給料から引いとくで」
「そ、そんなあ……」
「ほいでやな。……ホレ」
「……? 何ですか? 指をくいくいと」
「分かれや!
そのミミックラーメン持ってこい、言うとんねん。味見したる」
「……ラーメンミミックですけどね……メインはミミックですし。
でも、召し上がってどうなさるんです?」
「大儲け出来る権利かっさらわれたままほっといてたまるか!
本家はこっちなんや、もっと美味なるように改良して、大々的に売り出したる!
……ほれ、ブームが過ぎ去るまでが勝負やねんぞ、上手いこといったらボーナス出したるから、はよせんかい!」
「は、はいぃぃっ!」
――ミミックラーメン闘争はその後も熾烈を極めた。
しかしその甲斐あってか、ブームが過ぎ去ったあとも完全に消え去ることは無く、即席麺の一分野としての地位を確立。
そして今も、『ミミック麺と言えばコレ!』と、二大ブランドがしのぎを削っているという。