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皇紀2676年 東京



皇紀2676年 東京


 その日。

 羽田の空から見た東京は、いつものように青く透き通っていた。

 最近は飛行系種族との衝突事故も増えて色々な交通規制が導入された日本帝国だが、携帯端末の普及とGPSを利用した飛行種族交通管制の導入によって事故が減少傾向に落ち着きつつある。


「ご搭乗のお客様に申し上げます。

 現在羽田空域は高天原連合王国政府専用機の到着に備えて、空域規制が敷かれております。

 高天原連合王国政府専用機の着陸まで今しばらくお待ち下さい」

 

 そんなアナウンスの後、乗っていた飛行機にドラゴンが近づく。

 悪意ある者を高位種特有の精神魔法で探知するのだろう。

 乗客も欧米系は驚いているが、日本人は慣れた物になっている。

 窓の外のドラゴンが私を見て笑う。

 気づかれたらしい。

 それでもテレパスで何も言ってこなかったという事は見逃してもらえたという事なのだろう。

 まぁ、後で筆頭侍女からのお説教は確定なのだろうが。

 私は深く考えるのは止めた。

 空港管制官の指示と、航空魔術師による誘導によって搭乗機は無事に羽田空港に着陸した。

 有翼人や飛行魔術が使える魔術師はこの巨大空港の運営に欠かすことができず、高天原王国の主要産業である人材派遣のお得意様である日本帝国には多くの人材を提供している。

 窓から二匹のドラゴンが寄り添った高天原王国政府専用機富士航空製ジャンボジェット『飛鳥』が無事に着陸し地上では歓迎式典が開かれている。

 駐機場に並ぶのは近衛師団所属のゴーレム儀杖隊で、日本帝国の日の丸と高天原連合王国の緑の世界樹の旗を持つ数メートルの巨人達がその式典の荘厳さを醸し出していた。


「観光ですか?」


「はい。

 東京見物を。

 山手線に乗って、秋葉原を堪能して、銀座でショッピングを」


 緑色の髪を揺らし、エルフ耳をピコピコアピールし、いかにも観光客ですよーを入国審査官にアピール。

 なお、審査官の視線が無駄に大きな胸とお尻に行っていたのは見なかったことにしよう。

 私は、大樹のごとく寛大なのだ。


「良い旅を。

 渡志留・由具羅さん」


「ありがとうございます」


 高天原王国で広がっていた日本語導入に寄ってこんな名前が一般的になった現在、私の名前に突っ込む人間も居ない。

 もっとひど……げふんげふん。素敵な名前、今の流行ではキラキラネームというのだっけ?

 そんなのが、高天原王国には溢れているのだ。

 羽田空港を出て地下ホームに降りる。

 モノレールにしようか私鉄にしようか迷うが、ここが雑多な世界であるというのをいやでも見せつけてくれる場所だった。


 エルフの女性達が私と同じようにガイドブックを片手に何処に行くか話している。

 あっちはダークエルフだろう。

 南洋諸島自治州へ行くみたいで、乗り換えが分からずにおろおろしている。

 一方、ドワーフの集団がリュックサックを背負って秋葉原に工具と電化製品を買いに行くのを横目に、日本人のオタクとオークのオタクが流行のアニメについて萌えを語り合っている。

 

「ちょっと!

 みんな整列しなさい!!」


 修学旅行だろうか。

 ゴブリンの子どもたちがロビーで騒ぎ、角つき魔族の女教師が尻尾を逆立てて怒鳴っている。

 そんな光景を圧倒的多数の日本人たちは当たり前の日常として受け入れ、旅行にやってきた欧米人達は奇異の目でその光景を目にするのがこの国のある種の洗礼となっている。




「次のニュースです。

 今日午後から開かれる帝国議会において、大東亜連合条約改定、通称東京条約の賛否を問う投票が行われます。

 この条約は欧州連合条約によって成立したEU、先の大戦で講和した米国と英国を軸にする大西洋連合、異世界人類諸国家同盟に対抗する事を目的としています。

 この条約が成立すれば、日本帝国、高天原王国を軸に東南アジア諸国、異世界異種族同盟が加わり通貨統合・政治統合・軍事統合が進められるでしょう。

 既に、東南アジア諸国と高天原王国は条約に調印し、我が国の調印を待つばかりですが、国名を日本帝国から日本国への変更、条約本部が東京に置かれる事よる首都の京都移転等で議事進行が混乱。

 今回の条約調印も与党から離反者が出ることが予想されてより予断を許さない状況となっております」


 モノレール内のニュース画像をなんとなく眺めていたら、ぽんぽんと肩を叩かれる。

 ドアに移る背後の女性は、今一番見たくない人物だった。


「こ こ で な に を し て い る の で す か ?

 た い じ ゅ さ ま」


 とても素敵なメイドスマイルなのだが、窓越しに見ても分かる。

 目が笑っていない。

 というか、激怒している。

 なので、無駄な抵抗をしてみた。


「ひ、人違いじゃないかなぁ?

 私はただの観光人……っ!」


 痛い!痛い!痛い!!

 メイド女性が私を肩を掴みキリキリと締め付ける。

 きっとこのあたり防音・防視魔法展開済みなのだろう。


「ごめんなさい!

 だからその手を放して!!

 ダーナ!」


 ダークエルフメイドなダーナと呼ばれる彼女は、筆頭侍女長兼高天原王国王室長官によるおしおきと身体強化魔法で私の肩を離さないし力も弱めてくれない。

 ついでに言うと、笑顔がとても怖いことになっている。

 この笑顔はかつての欧州大戦で数十万の同盟軍相手に殲滅戦を展開した魔将の頃に見た覚えが…………だから痛いって!


「分かっています?

 大樹様。

 今日がどんな日なのか?

 一線を退いたとはいえ、若芽様の晴れ舞台。

 高天原王国にとって大樹様の存在がどれほどのものか分かっていますよね?

 分かっていないと、こんな所で偽名を使って遊びに行くなんて考えられないですからね?」


「いや、だって、私最悪核が来てもなんとかなるし」


「そういう問題じゃないです!

 ……いや。そういう問題でもあるのか……」


 真顔で言いきったダーナの一言に私も本性を現す。

 ダーナが防音・防視魔法展開済みなのを確認して、状況を尋ねた。


「何があった?」


「日本帝国内諜からの警告です。

 国際テロ組織がこの式典を狙って核テロを企む可能性があると」


 第一次・第二次・第三次大戦の果てに世界はやっと四勢力均衡というバランスを作り出すことができた。

 その状況で、使用されたNBCM(Nuclear Bio Chemical Magic)の大量破壊兵器で人類と異世界種族はなんとか殴り合いを止めて先に進もうとしている。

 だが、その秩序成立からこぼれた地域は宗教紛争と民族紛争の果てにテロの温床となり、ばらまかれたNBCM兵器によって既に六都市が犠牲になり、数万人の犠牲者を出していた。


「冗談じゃないわよ!

 百五十年も待ったのよ!!

 それをテロ如きで潰されてなるものですか!!!」


 私の怒り顔にダーナが肩から手を離す。

 お説教はどうやら終わったらしい。


「その百五十年がこの世界に帰ってこられたからの時間なのは分かりますが、一体何を待っていらしたので?

 若芽様も知りたがっていましたよ。

 大樹様?」


 女系国家高天原連合王国における国家元首を身内では大樹と呼び、王太子の事を若芽と呼ぶ。

 娘の晴れ舞台を邪魔する不埒者を片付けるのも母親の務めだろう。


「内緒」


 だって言っても理解できないだろうし。

 ゲーム世界に転生して、チートを駆使してなんとか帰ってきたら時間が百五十年ほどズレていて、人の欲望と物量の恐怖に必死に国を守り続けた果てに望んだささやかな願い。

 21世紀に日本人として日本の食事を食べるという私のささやかな願いなんて。


「大樹様。

 続報が入りました。

 太平洋上の貨物船帝国通商所有さふらわあ丸が航路を外れて連絡がつかないとの事。

 日本帝国海上保安庁所属の飛行魔術師が捉えた画像にミサイルの発射管らしき筒が。

 それと、米国が非公式でテロ組織が旧ソ連製核搭載型巡航ミサイル使用の可能性を伝えてきました」


 技術の進歩は便利なもので、テレパスを使うより携帯端末を使ったほうが便利なのだから、大魔術師と恐れられるダーナですらもテレパスより耳にイヤホンを刺している。

 いずれ魔法は科学に駆逐されるか、科学と融合した何かになるのだろう。

 そこまでは私の知ったことではない。


「自分たちがニューヨークでやられたからってここまで黙っているのってひどくない?」


「大樹様のお力を信頼していると好意的に解釈しましょう」


 NBCM祭りでユーラシアのかなりの部分は治安が戻っていない。

 その為、そのあたりの兵器流出が近年のテロの一因になっていたが、まだ各勢力とも手を打てていない。


「いいわ。

 ちょっと日本を救ってあげましょう。

 内緒でね」


「貸しにもしないんですか?」


 呆れ顔のダーナに私はウインクして微笑む。

 核ミサイル程度なら何度も食らったから防ぐ自信はある。


「だって、私は浮遊諸島国家、高天原連合王国の魔力の源である世界樹の代言者、世界樹のドライアドよ。

 それぐらい防げないと、三度もの世界大戦で我が国は植民地にされていたでしょうね」

この未完をこの道にはめてくれた某時空犯罪者に捧げます。

あなたの作品は未完が多いことをのぞけばどれも大好きでした。

三州公の先と地球連邦は本当に見たかった……

追悼企画があるみたいなので、気になる人はチェックだ。

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