始まりの始まり
初めまして。これからタチの冒険が始まります。更新がどの程度の頻度でできるのか分かりませんが、末永くよろしくお願いします。
指を鳴らして明かりを灯す。目的地まで空を飛ぶ。手をかざして物を温める。
他にも、魔法には便利な事がたくさんできる。
物騒なこの世の中だから、身を守るために使うことも珍しくない、というか今では魔法を使った戦闘が当たり前。魔法を使えないものは役立たず。
これが俺の知らない国の常識だった。
大都市は魔法で煌びやかに着飾られ、街のメインストリートにも様々な人が闊歩している。
金を持っていることを誇示したいのか、じゃらじゃらと無駄に高そうなアクセサリーを体中に着けている男、女。これから戦闘をしに行こうというのか、何かの陣形を確認している3人組の魔法使い。散歩をしている4人家族。
平和な光景だが、俺には杖を持っていない人がいないことがとても不気味で、恐ろしく思えた。
「な、なあ師匠。俺この国おっかねえよ。帰ろうぜ」
「なぁ~に言ってんだよ。大の男がみっともない。ほれ、ギルドまでもうすぐだぞ」
俺が師匠と呼んでいる人、名をジン。
だらしがない男で、俺を家に住み込ませて家事を全てやらしてくる。態度もかなり適当でたまに修行をすっぽかしたりする。ただ、戦闘のセンスと教え方はだらしなささに反比例して並外れている。
「そのギルドってのもおっかないんだろうな~」
そして、俺はもちろん師匠ジンの弟子、名をタチ。ジンの元で剣を学ぶ小心者の男だ。
この国のギルドと呼ばれる組織のもとに向かっている。ギルドは組織が集まる建物の事を指すこともあるらしいが・・・・・・頭の弱い俺ではこんがらがりそうだ。
ギルドは『イニミゴ』と呼ばれる(ほかにも呼ばれ方はあるが)、いわゆる人類の敵に対抗するための組織である。
人類の敵は、当然のことながらこの国だけの敵ではなく、俺の国にも攻めて来るし他の国も攻められる。が、この国は別格だそうだ。詳しくは知らないが、とにかく数がすごいらしい。その上、最近は更に数が多いということから増援を他の国に頼んでいるみたいだ。
ほかの国の事は知らないが、俺の国には使者が来た。そいつが言い放った一言、「この国で一番強い者の手を借りたい」。
そうして選ばれたのが俺の師匠というわけだ。まあ、選ばれるまでにいろいろあったがそれは後程。
「ほら、ここだ」
とにかく師匠と弟子の俺はこの国を救わなければならないというわけだ。
「でっか」
俺たちの目の前にはギルドが堂々と建っていた。何かの城かと思うほど豪勢で、宝石が散りばめられているのかキラキラとしている。俺には一体何のために建っているのか分からなくなってきた。
入り口には鎧を着た屈強な男・・・・・・ではなく、細身を灰色のローブで包み、杖を腰に携えた男が二人門番の様に立っていた。
しかし、果たして二人は本当に門番なのだろうか。いや、門番であることは間違いないのだろうが、疑問なのは二人の気が抜けきっていることだ。俺たちが目の前に来たにもかかわらず、気付かづに二人で雑談を楽しんでいる。
「お~い。入ってもいいのかい?」
師匠が門番の片方に話しかける。
二人は気付かないうちに近づかれていたことに驚いたのか、ハッと杖を構えた。
「お前ら何者だ!気配を消して近づきやがって!」
「怪しいやつらめ!」
勿論俺たちは気配を消したつもりは無い。まさか・・・・・っ!
「師匠!俺たち気配を消す修行のやりすぎで気配が本当に消えっちゃったんじゃ――――――」
「馬鹿か」
門番たちの態度の正体の核心に触れたと思ったのだが、本当に門番たちの気が抜けていただけみたいだ。
「驚かしてしまってすまんね。俺たちはギルド長直々に招待を受けてやって来たんだが、話を聞いていないか?」
師匠の言葉に門番二人は顔を見合わせる――――――5秒程経ったか、顔を青ざめていきなり背筋を伸ばして気を付けをした。
「「も、申し訳ございません!どうぞお通り下さい!!」」
「はは。いいや、構わないよ。ありがとう」
俺たちは入り口の門をくぐる。
あ、盗った。
丁度、俺が門をくぐり終えた時、師匠は言った。
「あ、そうそう君たち。平和だからってあまり気を抜かない方がいいと思うよ?」
「は、はい!!以後、気を付けます!!」
そういう事じゃないんだけど。と、師匠は呟き、彼らから盗んだ金をちゃらちゃらといわせながら建物の中へと歩みを進めた。 悪い人だ。
建物の中は眩く輝いていた。照明の魔力を強めにしているのもあるだろうが、きっとあちらこちらに宝石が散りばめられている。いや、もしかすると宝石を目立たせるために照明を強くしているのか。
目が慣れてくると、今度は人の群れが飛び込んできた。屈強そうな男。体の線の細い青年。まだ10もいってなさそうな少女。艶美な女性。他にもたくさん。
やはり不気味だ。こんなに人がいるというのに杖を持っていない人がいない。杖以外の武器らしきものを持っている人がいない。
「ようこそおいでなさいましたお二方。ようこそ魔法大国マリタリアへ」
右側の人ごみから声がした。一瞥してみると、そこには眼鏡を掛けた優男がいた。綺麗な銀色をした髪は長髪で腰辺りまである。ご立派な服を着ている。お偉いさんなのだろうか。
「私はミレライン・ハーボレと申します。以後お見知りおきを」
ミレラインと名乗った男は丁寧な礼をする。その姿は無駄がなく、美しい。
「おお。初めましてミレラインさん。俺はジン。で、こっちはタチ。早速で悪いんだけどギルド長のとこまで案内してちょーだい」
全くこのお人は、なんでも適当に済ませてしまう。
師匠の、ミレラインさんとは全く対照的な態度を、ミレラインさんは笑顔でさらりと受け流し、こちらですと先導し始めた。
大人な対応だ。適当な男の背中を見て育った俺からすれば、少し見惚れてしまう。
「そういえばミレラインさん。さっき門番にお世話になったんだけど、あの二人気が抜けきってたぜ?大丈夫か?」
「恐らくこの場所なら大丈夫だろうと踏んでいるんでしょう。いつ何が起きてもおかしくないというのに――――――」
――――――不意に、風が俺の身体を走り抜けた。建物の中で、しかも体の中を走り抜けるなんておかしい。そう思うかもしれない。俺もそう思った。何だこの感覚は、と。風が抜けた方向に目を向けると、分かった。俺は一目惚れしてしまったのだと。
目を向けてた方向には一人の女性がいた。正確にはたくさんいたのだろうが、俺には一人の女性しか見えなかった。漆黒の様に黒い髪を短くまとめ上げ、凛と歩くのに合わせて主張少なく左右に揺らしている。前からはほとんど見えていないが、刹那に見えた端正な顔と、小さな顔には似合わない大きな胸は瞼の裏に焼き付いている。そして、何よりも雰囲気にやられた。全身からあふれ出る雰囲気に。
気付けば立ち止まっていた。立ち止まって彼女を眺めていた。
「どうした?」
俺が付いてきていないことに気が付いた師匠。
「師匠」
その師匠に、俺は気が付けば口走っていた。
「師匠。俺ナンパしてきてもいいですか」
「おっ。いいぞ~」
何が何だか分からないと、目を泳がせるミレラインさんの顔が印象的だった。
ご拝読有難う御座いました。よろしければ次話も宜しくお願いします。