「いい人になりたい」「……なれたら、いいね」10
「さみしいって気持ちわかる?」
「わかるよ」
「どうしたらさみしくなくなるかな?」
「一人だけの世界になったらさみしくないかもね」
「どういうこと? 一人はさみしいよ」
「いや、一人だけの世界はさみしくないだろ」
「嘘にも良い嘘があるよね」
「例えば?」
「例えば、まずい料理を出されても、美味しいと言ったり、まあ、つまりしてもらう立場の人間は程よく相手に良い嘘をつくべきだってことだよ。それが関係を円滑にする秘訣でもある」
「別に、美味しいって言わなくてもよくないか?」
「じゃあなんて言えばいいんだよ?」
「まあまあ」
「そりゃあ言われた方は嬉しくねえな」
「嘘は悪いと思ってるから」
「馬鹿正直だな。そんなんだとうまくやっていけねえぞ?」
「なにを?」
「人間の関係とか?」
「できないことはできないでいいんだ」
「でも、できないことはできるようにしないと」
「できることだけやればいいんだ」
「なにができるかがわからないんだけど」
「じゃあ、やってみれば?」
「できそうにない」
「なにができるかわからないのに?」
「時間がない」
「時間はあるだろ」
「時間が少ない」
「だれにとって?」
「みんなにとって」
「それについては同意する。ただし」
「ただし?」
「そのみんなの中にお前は入っていない」
「なんでわかるんだ」
「お前だってわかってないだろ?」
「わかってるよ」
「わかってない。お前は時間は無限だということをわかっていない。時間が少ないとは限らないということをわかっていない」
「知らないだけだ」
「だったら知ったふりをするなよ」
「みんなだって知らないよ」
「そのみんなの中にお前は入っているのか」
「言い訳を言わせてください」
「なにかしたのか?」
「なんでそうなるんですか?」
「それ、美味しい?」
「言いたくない」
「不味いの?」
「言いたくない」
「不味いんだね」
「誤解だ」
「不味いんでしょ、どうせ」
「……仕方がない。言うか。普通だったよ」
「そんなのは求めてないんだよ!」
「ごめん」
「なにがしたいの?」
「なにって?」
「こっちが聞いてるの」
「なにかじゃない?」
「なにってなに?」
「なにが聞きたいの?」
「なにがしたいの?」
「なにって?」
「曖昧だなあ」
「そうだけど?」
「はっきりしてくれ」
「お前がはっきり決めれば?」
「なにを」
「さあて、なにを言っているのでしょう」
「あれをやれ」
「はい」
「これをやれ」
「はい」
「それもやれ」
「はい」
「あとは任せた」
「はい」「あとは、あれをやろう」「これもやろう」「それもやろう」「ああ、あれもやった方がいいかもしれない」「あれも」「これも」「それも」「ああ」「眠る時間がないや」「どうしよう」「僕は、いったいなんのためにしているんだろう」




