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バスからの借景

作者: 赤城 ゆう

新宿へ向かうバスが曙橋を出たところだった。

暖房が効きすぎてない座席は心地よく、耳に入る音楽はゆったりとしたリズムで、混んだバスの喧騒を離れるような感覚にいた自分は眠りに就く前だった。

外は茜で、眠りに就く自分をイタズラに妨げていた。

そんな時に、ヘッドホンを突き抜けて声がした。まわりは気付いていない。しかし声のする方向を見ると、幼い男女が二人仲良く座っていた。女の子の声が聞こえた声の持ち主だった。

自分はそれから眠りにつくのを止めた。二人に興味を持った。

同い年のその二人は母に連れられていた。きっと買い物だろう。

話しているのは男の子だけだった。女の子は外を見ながらただ言葉を聞いているだけだった。

彼女たちのほうには日が射さない。だから、女の子のみる車窓は多分つまらないだろう。

男の子は面白いらしい。彼女の反応ではなく自分の話が。この頃の男の子というのは私を含めそういうものだ。自分が面白いことイコール相手も面白いと思っていると勘違いをしてしまう。

だから、幼い日に仲の良くなった子と一緒に居られなくなるのだろう。だってツマラないだから。

私はその子たちを見ていていろいろ考えていた。

私にもああいう一方的な、幼稚な会話とも言えない押し付けをしていたことを。今では住むところも違えば連絡も取らなくなった。でも、今目の前にあることは自分にもあった。それをいま後悔するのは違和感でしかない。ならば、あの時から変われただろうか?

ふと、私は彼らが変われるのか?と考えた。女の子というのはもうこの時期には自分についてしっかりとした芯を持っているだろう。好きなものや、嫌いなもの、面白いと思うもの、そういったものを多分、あの女の子は持っている。

それでは、男の子は?

それはわからない。彼は単純だ。目の前を受け入れているだけなのだから。多分、これから多くのもに出会ってから、それを受け入れて何かを思うだろう。だからわからない。

そうやって思うと、私とあの人はこうやって連絡をとらないのも普通かもしれない。

そう思うと、あの子達の時間を冷凍保存したいそう思った矢先だった。

男の子が女の子にチュウをした。

あまりの出来事に女の子は振り返った。情熱だった。冷凍保存のきかない、あまりに突拍子なものだった。

女の子は片目に怒りを、もう片っ方に嬉しさを宿らせ、怒りを男の子に、嬉しさを母に見せていた。

そうして、怒りながらも彼女は安心していた。

「お母さんは気付いていない」

そう確信したからだ。

ただ、私は見ていた。胸が高鳴っていた。男の子のもつ最初の言わば原始的で幼稚な恋心はついに目的を果たした瞬間だった。

それから男の子はまた喋り始めた。女の子は窓の外を見ているのか。

いや、見えないだろう。

日が落ちて車内の影が窓に写る。

彼女はそれを見ていた。

「借景」という言葉はある広告を目にしてタイトルにしました。

景色をそのまま、しかも10分と短いので、本編も短いですが。

幼い二人を見守ってくれたなら幸いです。

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