第1章 愛の結晶、仲間の絆 【Ⅴ】
フランク、アリス、セスの3人は、
アレックスの後を追う。
ティナは、
ビルのコントロール室へ行った。
このビルの妨害電波を排除し、
指令室との接続を取り戻す。
そして、
ビル内の監視カメラや
その他の電気で動くモノを使えなくするため、
その大元である機械の電源を切った。
照明は別の電源だったため、影響はなかった。
さらに、機械の配線を組み換え、
ビル中の磁力と電波を張り巡らすことで、
ギルモアの手下が使うビーム銃が
誤作動を起こすように仕組んだ。
その頃、メサイア・アーミーの指令室が通信を再開。
「ルーシー、クロエを迎えに行こう」
「はい。遺体回収チームを地球に派遣します」
グリフ博士も、
お堅いクールなルーシーも残念そうに肩を落としていた。
フランク、アリス、セスは、
アレックスを見つけ合流する。
アレックスは、十数人の手下と遭遇していた。
互いに銃を構え、緊張の空気に包まれていた。
フランクが銃の安全装置を外す。
セスは横目に見て、自分に呆れた。
さっきまで、ずっと安全装置の解除を忘れて、
焦っていたのだと気づいたのだ。
冷静になって考えてみれば、
当然の事を見落とした完全なる凡ミスだ。
今更気づいても遅い。
自分のバカみたいなミスで
クロエがあんな目にあった。
セスは心の中で自分を責めた。
ティナは指令室と連絡が取れ、
クロエの居場所を伝えた。
そして、
アレックスたちの元へ向かおうと立ち上がるが、
思いのほか傷が痛む。
ティナは再びモルヒネ薬を飲んだ。
アレックスたちの方では、
手下どもがビーム銃を一斉に発射。
しかし、ビームは天井のあちこちに飛んでいた。
手下の連中が武器の誤作動に驚いているうちに、
4人は銃を乱射。
弾がなくなれば、隙を見て、
敵軍に突っ込んだ。
ビーム銃を奪い取り、素手でも戦う。
あっという間に、この廊下は、
使い物にならなくなったビーム銃と手下が、
ゴロゴロと転がっている状態になった。
ちょうど、そこへティナも合流した。
アレックスは、
最愛の恋人であったクロエを亡くし、
感情的になっていた。
まだ息をしている手下の胸倉を掴み、
ギルモアの居所を強引に聞き出した。
グリフ博士は、クロエの遺体を回収するため、
メサイア・アーミーから遺体回収チームを、
地球へワープさせていた。
ティナが伝えた部屋へチームを向かわせたが、
部屋の状況を見て、チーム員もグリフ博士も驚く。
そこにクロエの姿はなく、物家のカラだった。
その頃、ギルモアのオフィスでは、
シックスが思いも寄らぬ展開になっていた。
「ベスラー、よくやった。見事な悲劇を演出したな」
ギルモアがベスラーを褒めながら、
歩いて行った先には、
後ろ手にロープで縛られ、冷や汗をかき、
気を失って倒れているクロエの姿があった。
ベスラーが薬品をクロエの腕に注射する。
ベスラーが離れ、今度はギルモアが、
水の入ったバケツを手に、クロエに近づく。
クロエに思い切り水をかける。
その衝撃で目を覚まし、
今の状況に混乱していた。
ギルモアがクロエの顔を覗き込み、
ほくそ笑んだ。
「訳がわからないだろう?
自分は死んだはずなのにって」
ギルモアはそう言ってデスクの方へ行く。
ベスラーが得意気に真相を話し出した。
「君に刺した毒は、致死量じゃない。
ただ、その分、他の危険な薬品を混ぜたんだ」
クロエは、ダルそうにベスラーの顔を見上げた。
「『ロミオとジュリエット』って知ってるか?
ジュリエットはある危険な薬品で、
自分を死んだように見せかけた。
その薬は実在するんだよ」
クロエはベスラーを睨み受け、
まだ体力も回復しない口を開いた。
「つまり……仲間の前で私が――」
「あたかも毒で死んだように見せかけたって事だよ〜」
ベスラーが怪しげな高笑いをしながら種明かし。
再び、ギルモアがやってきてしゃがみ、
クロエの顔をのぞき込む。
「君たちはなかなか筋がいい。
いずれここにも辿り着くだろう。
お前はその時の保険だ」
ギルモアは、恐ろしく無表情でいて、
少々悔しそうにも見えた。
本心が見えなし男だ。
ギルモアは、クロエに見せるため、
何かを手に持ってきていた。
『神の像』である。
クロエは、徐にギルモアのデスクを見る。
デスクの後ろに飾られている
アートの額が扉のように開いていて、
その壁には
扉の開いたままになっている金庫があった。
「クロエ、これを見るんだ」
クロエは、体力がまだ四割にも戻っておらず、
首を動かすのもまだしんどい状況だった。
「見るんだ!」
ギルモアは、クロエの前髪を引っ張り、
無理やりこちらを向かせた。
『神の像』がクロエ目に入ると、
ギルモアは不気味な笑顔を見せた。
「今は少々曇っているようだが、
今夜は晴れの予報だ。
あと数十分か小一時間もすれば、
きれいな満月が見え、
俺の大革命が見られるぞ」
淡々と喋るギルモア。
「あんたたち、イカレてる」
クロエの苦しそうな声で出た言葉に、
ギルモアはベスラーと顔を見合わせ、
2人で笑う。
アレックスは、ギルモアの元へ走った。
しかし、ギルモアのオフィスへは、
そう簡単に行けはしなかった。
ギルモアのオフィスへは、
ベスラーの部屋を通り、
ベスラーを倒さなければならない。
さらに、ベスラーの部屋へ行くまでには、
あらゆる危険な動く仕掛けが施されているのだ。
ティナが照明以外の機器の電源を
切ったはずなのに動いている。
この仕掛けを動かしている機械は、
ギルモアのオフィスの隠れた金庫の中にあった。
同時に『神の像』もまた、この中に保管されている。
つまり、この不規則に動き回る障害物は、
ギルモア以外、誰にも止められないのだ。
ギルモアは、
このタワービルを自分の王国のように考え、
その王である自分の身を守るため、
自分の部屋から出ることは一切ない。
では、どうやって『神の像』を盗んだのか。
そのほとんどは、ベスラーが中心となり、
手下たちが犯行に及んだのだ。
では、何故英国を破壊したいのか。
それは、
このタワービルを王国と呼ぶ
自分の小ささに嫌気が差したのだ。
英国は進展国であり、王族も世界的に有名だ。
『神の像』の不思議な力で、自分が王に成り代わり、
英国自体を自分の王国にしてしまいたかったのだ。
セス、フランク、アリス、ティナの四人は、
アレックスを先に行かせるため、ある作戦を実行した。
廊下を進むごとに仕掛けが襲うようだ。
大きな石の振り子が行く手を阻み、そこを通過できても、
今度は大きな釜が通る者の首を狙う。
まさに、アドベンチャー映画に出てくる、
主人公の前に挑戦した雑魚キャラが
必ず死ぬような危険な仕掛けだ。
「相当レベルが高いな。訓練のときとは大違いだ」
セスがあ然とした表情で言った。
アレックス以外の四人は、
廊下の両サイドをなるべく進み、
上手く仕掛けを交わす。
仕掛け一つ一つがメンバーを襲っている隙に、
アレックスがタイミングよく、廊下の真ん中を通る。
アレックスも仕掛けを上手く避け、
ベスラーの部屋に駆け込んでいく。
他のメンバーはケガを負ったものの、
見事な交わし振りで最小限の傷に抑えた。
アレックスは、ベスラーと顔を合わせていた。
「貴様がこのわなを通りぬけられたとはな。
でも、その努力は残念ながら報われない」
ベスラーは怪しげに高笑いながら言った。
「それは、こっちのセリフだ。僕は死なない。
その前にお前らが死んじゃうさ」
「お〜怖っ。恋人を亡くした彼氏は憤ってますねぇ」
ベスラーは余裕の表情で言った。
ヘラヘラしていたベスラーの目つきが変わり、
いきなりアレックスに殴りかかってきた。
アレックスはそれを上手く交わし、
今度はアレックスがベスラーに拳をいれた。
そこへ、シックスメンバーの他四人も部屋に入ってきた。
五人の銃は全て弾切れである。
アレックス以外の四人は、ナイフを構えて様子を伺った。
ベスラーはアレックスと戦いながら彼を挑発する。
「あの子は残念だったな。きれいな子だったのに」
ベスラーは、この戦いを楽しんでいた。
アレックスはすぐにクロエはベスラーの仕業だと勘付いた。
ベスラーに対する怒りは一発殴るごとに増し、
それに比例してパンチ力も増していった。
「お前がクロエを殺したのか!」
アレックスが、彼に飛びつく。
倒れたベスラーを抑え込んで殴る。
すると、殴られながら、ベスラーが何かを呟いている。
アレックスにとって重要な事を言っているようだ。
「え?」
「彼女は……生きている」
アレックスは、それを聞いてあ然とした。
「お前……何言ってる?」
ベスラーはボコボコの顔で、また不気味に微笑んだ。
「アレックス、信じるな。そんなのハッタリに決まってる」
後ろでナイフを構え、タイミングを窺っていたフランクが言った。
「そうよ。こいつはあなたを混乱させて隙を作りたいだけ」
ティナも続けて、アレックスに言い聞かせようとした。
その瞬間、
ベスラーが側にあるデスクの引き出しから、
さっと拳銃を取り出し、アレックスに向ける。
アレックスは驚き、両手を上げながら、
ゆっくりベスラーから離れる。
ベスラーは銃を向けたまま、
立ち上がってジャケットの汚れを片手で払いう。
「ギルモア様がお前たちにお会いしたいそうだ」
ベスラーが、クローゼットを開ける。
屏風扉を開け切ると、カチッっと音がして、
クローゼット奥の秘密扉が自動で開く。
ベスラーは五人に銃をむけたまま、
クローゼットにかかっている洋服を片手でまとめて隅に寄せ、
扉の向こう側をよく見せる。
「下手な真似はするなよ。
彼女が二度死ぬところを見せる事になる」
この秘密扉の先がギルモアのオフィスだ。
シックスの五人は顔を見合わせ茫然とする。
指令室では、
ルーシーがコンピュータ画面上の
ギルモアのタワービルの設計図に表示された
赤外線反応を見ていた。
「グリフ博士、
5人がギルモアを発見したようです」
画面上の熱による生命体反応によると、
ギルモアのオフィスには8人いる。
シックスの五人とギルモア、
あとはギルモアの部下である
ベスラーまでは予測がついた。
「あと一人は誰だ?
まさか、一般人の人質でもいるのか?」
これがクロエだとは思いもしなかった。
シックスが身に着けている通信機は、
脈拍を感知できなくなると通信機の機能もダウンする。
無駄な通信をなくすため、二度と復活する事はない。
また、通信機は丈夫に出来ており、
銃などで撃たれたとしても
壊れないような設計だと思われていた。
ただ、今回の敵は、さらにその上をいっていた。
シックスの5人は、ベスラーに連れられ、
ギルモアのオフィスにやってきた。
入口の側で横一列に並ばせる。
十メートル程先にギルモアの大きなデスク。
高級そうなデスクチェアにドシリと座りこちらを
悠々と眺めているギルモアがいた。
ギルモアの後ろには、
独特なアートイラストが飾られている。
「貴様らが、ここまで来られるとはなぁ。
だが、満月は今夜。もうすぐ終わるぞ」
ギルモアの表情は恐ろしいものだった。
まるで、
ライオンから獲物を奪おうと睨みつけるハイエナのように、
ずる賢く、何も恐れない、まともとは言えない目つきである。
アレックスは、椅子に縛られたクロエの姿に気づき、
他の四人もその方向を見る。
「クロエ!」
驚きのあまり、5人の声が重なる。
指令室にもこの声は聞こえていた。
「クロエですって!?」
「生きていたのか!?」
グリフ博士とルーシーは、
衝撃の展開と嬉しい驚き、胸を躍らせた。
ギルモアはベスラーに五人の武器を取り上げるよう命じた。
ベスラーは片手で銃を構えたまま、
もう片方の手に箱を持ち、シックスに近づいた。
五人はクロエを二度と死なせまいと、彼らに従うしかなかった。
ベスラーの持つ箱にナイフを全て預けた。
フランクがナイフを箱に入れたとき、ギルモアが口を開いた。
「やぁ、フランク! 久しぶりじゃないか」
アレックス、ティナ、セス、アリスは、
フランクの知られざる過去をここで知る事になる。
「以前一緒に遊んだ仲間は元気か?
おっと、俺が殺しちゃったんだっけ」
ギルモアはフランクの心を弄んでいた。
フランクのつらい過去にわざと触れ、
今目の前にいるギルモアを殺したいのに殺せない心の葛藤。
そんな悲惨な状況を堪えているフランクを見て楽しんでいた。
ギルモアは箱を受け取ると、窓を開け、箱ごと放り投げる。
それにはベスラーも驚いた。
「あぁ、なんて事を。もし下に人がいたら、大惨事ですよ」
「そんなの知った事か」
ギルモアの心は冷めきっていた。他人などどうでもいいのだ。
続いてギルモアは、5人を縛れと命じた。
その間、ベスラーの銃はギルモア自ら持ち、
5人を狙って構えていた。
ベスラーは五人を後ろ手に縛り、
床に座らせ、両足も縛った。
ギルモアは五人を狙いながら、
クロエを無理やり立たせ、
五人の端にいたアレックスの隣へ雑に放った。
クロエは体力がなくなっているせいか、
受け身も取れず、
床に叩きつけられる羽目になった。
アレックスはクロエを心配し顔を近づける。
「あ〜、カップルの再会だな〜。感動的だ」
ベスラーが冷やかして面白がる。
クロエは長い髪で顔が隠れている事を利用し、
アレックスに小声で伝えてきた。
「『神の像』は……あの絵の奥にある金庫の中よ……」
ギルモアは、フランクだけに留まらず、
メンバーそれぞれの精神を攻撃した。
ぐったりとしているクロエを横目に、
アレックスの前にしゃがみ込むギルモア。
「クロエを起こせ。全員正座だ」
ベスラーがクロエの体を起こす。
シックスは言われた通りに正座する。
「可哀想だよな、彼女。なぁアレックス、
お前が彼女を苦しめているんだ」
アレックスは息を荒くして、
ギルモアを睨みつけていた。
ギルモアは話し続けた。
「君は感情的になりすぎる。
彼女への愛はわかるが、
任務の邪魔になってないか?」
アレックスは息を飲んだ。
ギルモアの適格な言葉に動揺したのだ。
そんなやり取りをしている間、
縛り付けられたままぐったりとしているクロエは、
密かに行動を起こしていた。
中和剤を指した腕の感覚が戻り、
足首の隠しナイフをそっと取り出した。
自分を縛っているロープをバレないように切り始める。
ギルモアはアレックスの隣にいるアリスにも攻撃した。
「アリス、新しい生活には慣れたかな?
すっかり馴染んだようだが、
君があんなに大事にしていた家族を
忘れたのは、一体いつだ?」
アリスは、
傷つきやすく涙もろいのが弱点だ。
アリスは、
まだ家族を完全に忘れてはいなかった。
ギルモアの言葉で、
忘れかけていた現実を再び思い出し、
心が張り裂けそうになっていた。
我慢はしたが、
瞳の中は今にもあふれ出しそうな涙で
いっぱいだった。
クロエは、
自分を縛っていたロープを切り終えた。
そして、
ナイフをアレックスの手元に持っていく。
クロエはまだ縛られているように演技している。
アレックスはナイフの感触に気づき、
バレないように後ろ手のロープを切る。
ギルモアは並んでいる順番に攻撃し、
再びフランクに回ってきた。
「フランク、
今度は一応仲間を生きて連れて来れたんだな。
最年長だし、二度目の失敗も許されない。
責任を感じているんだろう?
でも、またピンチみたいだな」
ギルモアが、次のティナを見たとき、
アレックスはアリスにナイフを渡す。
「ティナ、
君は他の救世主とは違う。
自分だけ能力が劣って感じるだろう?
訓練は人一倍頑張っているのに、
誰も知らない」
シックスの他メンバーがティナを見る。
「そうだったのか?」
セスが言うと、ギルモアが続けた。
「そうさ、なぜ皆に隠す?
年下と組まされて悔しいか?
エリート新人が現れて、
抜かされまいと必死なんだな。
本当は年下の奴らと
組むのは嫌なんじゃないか?」
「そんな事――」
セスが再び口を開く。
「マジかよ――」
「セス!
君も人を責められたもんじゃないだろう」
セスはドキッとして、ギルモアを見る。
何を言われるのだろう――。
セスの不安は的中した。
「セス、今回の失態、
皆に隠して済ませる気か?
そもそも、
クロエがこんな目に合ったのも
お前のせいだ。
お前が仲間をピンチに追いやったんだ」
アレックスが慌ててフォローしようとする。
「セス、気にするな。仕方なかった事だ」
「お前は役立たずだ。むしろ任務の邪魔をしている」
ギルモアはさらにけしかけ、
アレックスが再びセスをフォローする。
「セス、信じるな。あれは単なるハプニングだ――」
「ゴメン!」
セスの叫びに、アレックスの勢いが止まる。
「ゴメン、俺ミスった。しょうもない凡ミスだよ。
銃の安全装置を外すの忘れたんだ」
「何――!?」
「パニクったんだよ」
アレックスの怒りはギルモアからセスに向けられた。
しかし、
アレックスは確かにセスに怒りを覚えていたが、
後ろ手のロープを順番に切るため、
時間を稼ぐ目的もあった。
その頃、彼らの背中では、
ナイフがティナからフランクに渡っていた。
「アレックス、落ち着いて。
もう過ぎた事でしょう?
クロエは生きてる」
アリスが
アレックスの怒りを静めようと説得する。
それにフランクも賛同する。
「皆自分の言われたことは気にするな。
大体、何故そんな個人的な事までわかる?」
「どうせ憶測とハッタリよ。
ギルモアは私達を仲間割れさせたいだけ」
ティナが言う。
その時、
ようやくセスの手にナイフが回ってきた。
ギルモアはこの友情パフォーマンスを
呆れながらも面白がりせせら笑った。
「は〜あ、くだらない」
ギルモアはそう言いながら立ち上がり、
金庫の方へ歩いていく。
ギルモアが金庫を開けた瞬間、
セス以外の5人が
一斉にギルモアとベスラーに反撃を開始する。
残されたセスは急いでロープを切ろうと
必死にナイフを上下させていた。
「なんで、いつも俺だけ……」
アレックスがギルモアの手にある銃を蹴り飛ばす。
クロエとアリスも参戦し、
3人でギルモアと素手で戦う。
クロエは戻らぬ体力のまま、懸命に戦った。
フランクとティナはベスラーに立ち向かう。
セスはやっとの思いで拘束を解いた。
「セス、金庫だ! 像を取り返せ」
アレックスが
ギルモアの動きをくい止めながら言った。
セスは金庫へ走った。
セスは金庫の中に置かれた『神の像』を取り出す。
フランクとティナはベスラーを倒すことに成功。
力を合わせ、奴の息の根を止めた。
アレックスとクロエ、
アリスの三人はギルモアに苦戦していた。
少なくとも、
床に落ちている一丁の拳銃をギルモアに拾われぬよう、
絶えず攻撃を仕掛けた。
誰にも拳銃を拾える隙はなく、
互いに身体能力を駆使し素手で戦った。
その様子を音声で聞いていた指令室は騒然としていた。
「やはり、彼らの初任務にギルモアは強すぎたか……」
グリフ博士は後悔していた。
いくらエリート・チームとは言え、
これまで幾度となく救世主が犠牲になっている敵は、
さすがに荷が重すぎたと悔やんだ。
「しかし、彼らがやらなくては、
ギルモアは今回の企みをやり遂げてしまいます」
ルーシーがグリフ博士を元気づけようと励ます。
「ギルモアはわざとこの時期を狙ったのかもしれん。
我々が邪魔することを知っていて」
グリフ博士の推測は正確なものだった。
ギルモアは、
このエリート・チームが未熟なうちに、
この計画を実行したかったのだ。
「何故、ギルモアはシックスを詳細に、
しかも個人的な情報まで知っていたのでしょう?」
ルーシーの言葉に、グリフ博士は何も答えなかった。
グリフ博士は、
メサイア・アーミーに内通者がいると推測した。
仮に、これが事実だとして、
誰が該当者かもわからない。
ルーシーも例外ではないと警戒していた。
しかし、今心配する事はここではない。
シックスの安否が最重要なのである。
クロエの体力はほとんど残っていなかった。
限界を超えても、ギルモアに立ち向かい、
アレックスやアリスと戦った。
しかし、とうとう、
ギルモアに跳ね飛ばされた衝撃で、
クロエの肉体は動かなくなった。
床にうずくまり、ギルモアを見上げた。
アレックスとアリスも体力をだいぶ消耗していた。
ギルモアの攻撃は、
人間離れしたシックスの肉体でさえも悲鳴を上げる程、
ダメージは大きかった。
クロエの次はアリスがダウンした。
ギルモアに投げ飛ばされ、壁に激突して床に落ちた。
その衝撃で、壁掛けのガラス製の額が割れ、
アリスが力なく倒れているところに散らばる。
さらに壁の大きな破片が剥がれ落ち、
下敷きになったアリスは気を失ってしまった。
アレックスとギルモアの一対一の戦い。
しかし、アレックスも立っているのがやっとと言える程、
体力を奪われていた。
ギルモアもだいぶダメージは受けていたが、
何か特別な薬でもやっているのか、
体力的にはギルモアが有利なようだった。
アレックスが再びギルモアに立ち向かい、
激しい乱闘を繰り広げる。
アレックスが回し蹴りを入れようとする。
ギルモアは飛んでくる脚を掴んでひねると、
アレックスの体は、
宙で勢いよく回転し、床に叩きつけられる。
アレックスは口から血を流す。
ギルモアはボロボロの顔で、
さらにボロボロなアレックスを見て、
満足気な笑顔。
「どうした? もう終わりか?
そんな実力で、よくここまで来れたもんだな」
ギルモアは、
アレックス達をバカにするような口調で言った。
セスは金庫に
危険なからくり装置の電源らしきリモコンを発見。
その電源をオフにする。
「セス、危ない!」
フランクの叫び声に、セスが振り向くと、
ギルモアが銃を拾いセスに向けていた。
発砲と同時にセスはしゃがむ。
ギルモアは三発程打つが、
セスは何とか弾を避けきった。
ギルモアが背を向けているうちに
フランクとティナがギルモアに攻撃体制。
すると、ギルモアはクロエに銃を向けた。
フランクとティナはハッとし、
攻撃に踏み出せなくなる。
「彼女をまた死なせたいか? 動くんじゃない」
この場に、緊張感が一気に走り、
全員の荒い呼吸音しか聞こえない。
「おい、像を私によこせ」
ギルモアは片手を伸ばし、背後にいるセスに言った。
従う他ないようだ。セスは慎重に近づき、
ギルモアの手に『神の像』を渡した。
アレックスが床に這いつくばりながら、
悔しそうにその光景を見ていた。
ギルモアが窓の外に目を向ける。
満月がちょうど雲で隠れてしまった。
「クソッ」
ギルモアが呟き、クロエの胸を一発撃った。
クロエは衝撃で後ろに倒れ、動かなくなる。
「クロエ――!!」
アレックスが思わず泣き叫ぶ。
クロエは死んでしまった。
「あ〜あ、
お前らに時間食わされたせいで満月が隠れたじゃないか」
ギルモアはイライラし、
その腹いせでクロエを撃ったのだった。
アレックスはギルモアを許せずにはいられなかった。
アレックスは本気で人に殺意を覚えた瞬間だった。
ギルモアは、フランクとティナに銃口を向けた。
「残りの動ける奴、部屋の外に出ろ」
フランクとティナが、慎重に扉の方へ歩いていく。
ギルモアの背後にいたセスは、
ギルモアに飛び掛かろうとする。
しかし、ギルモアはセスに発砲。
セスは肩を負傷。
「残念だったな。お前も一緒に出ていくんだ」
セスは苦痛に顔を歪ませ、肩を抑えながら、
フランクやティナと一緒に部屋を出て行く。
ギルモアは扉を閉め、
さらに、二重で頑丈な扉を閉める。
フランク達3人は
完全にギルモアのオフィスから締め出されてしまった。
フランクは、
指令室に扉をリモート操作で開けられるか問い合わせた。
ティナは再びコントロール室へ向かう。
先ほどセスが危険なからくり装置の電源を
切ってくれたおかげで、
難なく通過し、
配線の組み換えで扉が開けられるか、
試しに行った。
セスは負傷した肩を労わりながらも、
身の回りにある物で強引に扉を開けようとする。
硬そうな物、尖っている物、
重い物を投げつけてみるが、
丈夫な扉はビクともしない。
次にセスは、
廊下で倒れている手下のビーム銃を持ち出し、
扉に向かって発射する。
一発のビームはあちこちに飛び交い、
フランクも危ういところで上手く避ける。
「おい!」
フランクに怒鳴られ、
セスは肩をすくめて、申し訳なさそうに苦笑い。
「ご、ごめん。これで扉が開けばいいなと思って……」
フランクは呆れてものも言えなかった。
ティナはコントロール室の中を必死に探してみるが、
危険なからくり装置同様、
頑丈な扉は、ここで管理していない事が分かった。
こちらは全く歯が立たない。
ティナは何かほかに出来ないか考えた。
やる意味があるかはわからないが、
先ほど設定をいじったシステムを再設定し直し、
ビーム銃が正常に使えるように戻した。
ティナは念のため、
廊下で倒れている手下達のビーム銃をかき集め、
個室に隠した。
ビーム銃を二丁持ち、フランクとセスの元へ戻った。
アリスは目を覚ましたが、
上に乗っかる大きなコンクリートに挟まれて動けない。
コンクリートの下でもがきながら、
クロエが撃たれた事実を知る。
ショックで涙が込み上げた。
窓の外に満月が現れた。
「これで余計な邪魔者は消えた。
私も疲れた。そろそろ終わりにしてやろう」
ギルモアは『神の像』を両手で持ち、
満月に向かって掲げた。
「やっとこの時が来た」
ギルモアは満足そうな笑顔で
月明りを浴びた『神の像』を眺める。
「お前たちもしっかりと見ておけ。
任務が果たせなかった瞬間を」
ギルモアは、必要にアレックス達を挑発し、
この偉大なるギルモア様を見せつけた。
「これで……ものは何もない……」
アレックスがボソッと呟き、
ギルモアが振り向く。
「なんだって?」
ギルモアが近づき、
アレックスの顔に耳を寄せる。
「これで、
お前を殺したいという衝動を妨げるものは何もない」
ギルモアは耳を疑った。
アレックスを脅威な存在に思った瞬間だった。
次の瞬間、アレックスは、素早く攻撃をしかけた。
『神の像』がギルモアの手から離れる。
アレックスは、ギルモアに連続で片足蹴り。
強烈な回し蹴りがギルモアの顔面にヒット。
ギルモアは床に顔から叩きつけられる。
ギルモアは床に這いつくばったまま、
『神の像』に手を伸ばす。
アレックスがすかさず、
像をアリスの方に蹴飛ばし、
ギルモアから像を遠ざける。
アリスがすかさずキャッチする。
アレックスは床にある拳銃を拾う。
ギルモアを見下ろし、銃口を向ける。
ギルモアは顔を覆うように両手を上げ、
観念した様子で命乞いをした。
「やめてくれ。参った。
今の私はもう無力だ。
お願いだから殺さないでくれ」
「お前はクロエを殺した」
アレックスは無表情で淡々とギルモアに言った。
「そうだな。
恋人を殺されて怒るのも当然だ。
だが、君は人殺しじゃないだろう?」
今までの怖いものは
何もないかのようなギルモアの
強気で堂々とした態度が
嘘のようにコロッと変わっていた。
獲物を狙う猛獣が、
狙われる側の小動物に急変したかのように。
「多くの救世主がお前の犠牲になった」
「復讐なら人を殺しても? 私は丸腰だぞ。
殺せば、私と同じになるぞ。いいのか?」
アレックスは考えた。
確かにギルモアのいう事も一理ある。
我々はヒーローだ。
殺人を犯した人間とはいえ、
今は丸腰の怯えている敵を、
復讐の為に殺していいものか。
しかし、
クロエを失った悲しみと怒りは
アレックス自身も止められなかった。
アレックスはギルモアに向け、
中の引き金をゆっくりと引く。
ギルモアは、これまでかと、
目をギュッと瞑る。
銃口から弾は出なかった。
アレックスは涙を流しながら、
何度も撃つが軽い音が鳴るだけだった。
弾切れだったのだ。
アレックスは内心ほっとした。
ギルモアは安堵の表情で笑いだす。
再び強気な態度にコロッと戻る。
「残念だったな。
ふぅ、私もさすがに、もうダメかと思った」
ギルモアは腹を抱えて笑う。
アレックスは肩を落とし、
拳銃を床に落とす。
アリスは、
武器として十分使えそうなガラスの破片を見つけた。
「アレックス」
アリスは通信機を使い小声で呼ぶと、
アレックスの方へ破片を滑らせた。
いい気になっているギルモアには気づかれず、
アレックスの耳にはちゃんと届いていた。
「これで、またフェアだな。お互い武器なしだ」
アレックスは、ガラスの破片を両足ではさみ、
ジャンプして破片を宙に浮かせた。
そして、ギルモアに向けて思い切り回し蹴り。
ガラスの破片は勢いよく飛び、
ギルモアの胸部中心に刺さる。
ギルモアは眼光を広げ、
膝からゆっくりと落ちていく。
大きなガラスが刺さり、
血が絶えず出てくる自分の胸を見て、
そのまま後ろに倒れて動かなくなった。
その直後、
アレックスは力なく、
その場に座り込んだ。
アレックスの体力は
とっくに限界を越していたのだ。
アレックスは、
クロエの側に四つん這いで近寄り、
彼女の顔にかかった髪の毛を
丁寧に避けてやる。
涙を流しながら額にキスし、
頬を親指で撫でる。
アリスは通信機で、
ギルモアを倒し任務が完了したことを皆に伝えた。
しかし、
この部屋は外部に電波が通じないのか、
指令室にアリスの声は届かなかった。
指令室からシックスに通信が入った。
メサイア・アーミーへ帰る集合場所は、
来たときと同じこのビルの屋上である。
アレックスとアリス、
そしてクロエの遺体は
ギルモアのオフィスに
閉じ込められている状態である。
ギルモアがこの頑丈な扉を閉めたときに
触れていたスイッチは、
ギルモアの脈と指紋を認証するシステムだった。
つまり、ギルモアが死んだ今、
部屋の中から開けることは不可能という事だ。
指令室がセキュリティシステムに侵入して
扉を開けるという方法もあるが、
ギルモアのオフィスは、
セキュリティがとにかく固く、
頑丈な扉が閉まると、
部屋全体がシェルター状態になる。
つまりパニックルームとなり、
ビル外部からの
サイバー攻撃を含む全てが通用しなくなる。
かろうじて、ビル内なら通信可能だったため、
指令室に通じなかったアリスの声を聞き、
フランクが代わりに指令室に
任務完了を知らせる事ができたのだった。
ティナが、ビーム銃を二丁持って、
フランクとセスの元へ帰ってきた。
「ビーム銃を使えるように戻したわ」
「さっきこれでセスに殺されそうになった」
フランクが言うと、セスは申し訳なさそうに苦笑い。
「もう平気よ。これで扉が壊せるか試しましょう」
ティナはフランクにビーム銃を一丁渡した。
セスも先ほど使ったビーム銃を再び手にする。
三人はビーム銃を構え、
頑丈な扉のロック部分に向けて発射した。
扉の鉄板が熱を持ち一瞬赤くはなったが、
結果はロック部分が少し焦げただけだった。
三人が次に考えたのは、
一旦ビルの外に出て窓からの救出。
しかし、ギルモアのオフィスがあるのは最上階。
屋上から救出するにしても、
窓ガラスは大統領の車などで
使用する防弾ガラスを何枚も重ねた窓で、
手下たちが使用していたビーム銃で撃っても動じない
超頑丈防弾ガラスで割るのは不可能であった。
頑丈な扉はあくまで緊急用なので、
オフィス内の超頑丈防弾ガラス窓程の強度はないだろう
とシックスは踏んだ。
しかしそれでも、壊して開けるのは難しいだろう。
「せめてビーム銃と俺達の銃を同時に連射でもできれば、
壊れるかもしれないが……」
フランクがボソッと言った。
「この扉をぶっ壊せるような超強力な武器を
こっちに転送してくれよ」
セスは指令室に提案した。
指令室にいるグリフ博士と
ルーシーはある事に気づいていた。
「グリフ博士、言います? あの事」
「いや、彼が自分で気づくのを待とう」
グリフ博士の判断で、
ルーシーがシックスに通信を伝える。
「残念だけどそれは無理よ。
あなた達で何とかしてちょうだい」
ティナの「なんで?」という声が聞こえた。
グリフ博士が慌てて適当な理由を考える。
「その……任務を終了したから、
武器庫管理室の許可が下りない」
「武器庫管理室の許可が下りない?」
ルーシーがグリフ博士を見て眉を顰めた。
メサイア・アーミーは任務に加え、
もちろん救世主や
その他施設内スタッフの命に責任がある。
人殺しを率先している組織ではないので、
武器は最小限に抑えられている。
通常、任務が終了すれば、
当然無駄な武器と判断され、
許可は下りないだろうが、
今回の理由が理由なら、
例外として認められるはずなのだ。
シックスには賢いティナがいる。
当然、グリフ博士の説明に疑問を抱くだろう。
そこで、ルーシーがすかさずフォローを付け加える。
「さっきの妨害電波の影響か、
ワープ台の調子がおかしいの。
パワーを無駄にできないから、
転送はあと一回。
あなた達を連れ戻すしか、
あとはできないわ」
ルーシーはこれでもまだ無理があると思っていたが、
グリフ博士の理由よりはマシである。
ティナはやはり疑問に思っていた。
「メサイア・アーミーのシステムって、
こんなにすぐダメになるっけ?」
「改良が必要だな。
はぁ、せめて武器がまだ残っていたらなぁ」
フランクがティナに続けて行った。
セスは何か考えていた。
そしてハッとひらめいた。
「あるよ。武器」
フランクとティナがセスを見た。
「武器ならある。多分まだあそこにあるはず」
セスはそう言って、廊下を走っていった。
一方その頃、
ギルモアのオフィスに閉じ込められた
アレックスとアリスは、
なすすべなく救出を待っていた。
少しだけ体力が回復したアレックスによって、
アリスを動けなくさせていた
コンクリートの塊は退かされた。
アリスは足を骨折していたものの、
命に別状はなかった。
アレックスと二人で『神の像』を眺めていた。
窓の外は満月が光り輝いている。
「なぁ、アリス、その像の伝説、本当だと思うか?」
「さあ」
「まだ満月だ」
アレックスは、それとなくアリスを誘ってみた。
『神の像』の力を試してみたかったのだ。
「まさか、願い事したい訳? ただの伝説よ。
願いが叶う魔法の像なんてありえないわ」
アリスは像の伝説を信じてはいなかった。
アレックスもただの噂だとは思っているが、
試して減る物はない。
伝説が本物ならば、
クロエを生き返らせることが
できるかもしれない。
そう思っての提案だった。
アリスにもアレックスの気持ちは伝わっていた。
「願い事って、
声に出したら叶わないって言うわよね」
アリスのこの言葉は、
遠回しに賛成を意味していた。
アレックスは嬉しそうに微笑んだ。
アレックスは『神の像』を両手で持ち、
満月に掲げる。
目を瞑り、心で願いを込めた。
「アリス、君もやったら?」
アレックスは心なしか
スッキリした顔をしていた。
アリスは少し渋っていた。
伝説を信じて願い事をするなど、
バカバカしい気がした。
アレックスがアリスに『神の像』を渡す。
アリスは持たされた以上、
やるだけやってみる事にした。
アリスはその場に座ったまま、
満月に像を掲げ、目を瞑り願いを込める。
「何願った?」
「秘密」
「当ててみる。足が治るようにだろう?」
「言わない方が叶いやすいんだってば」
アリスの願いは足の件ではなかった。
アリスは『神の像』の伝説を
結局信じてはいなかったが、
少しばかり、
この願いが叶うのが楽しみでもあった。
アレックスとアリスの2人が
『神の像』を楽しんでいる頃、
セスがメサイア・アーミーから
私有された銃一丁を廊下で拾っていた。
セスが壊れたと思い手下に投げつけた、
あの銃である。
セスが確認すると、やはり、
ただの安全装置の解除し忘れだったようだ。
セスは銃を持って、
フランクとティナのもとに戻った。
行くと、フランクしかいなかった。
セスと少し遅れて、ティナが戻ってきた。
二人ともこのときばかりは、
セスを見直した。
ミスが功を奏し、
これまで任務中ほとんど役に立てずにいたセスが、
ようやく仲間の役に立つ瞬間だった。
指令室で見守っていた
グリフ博士とルーシーは
この展開を待っていた。
セスに光を持たせようと、
わざと黙っていたのだ。
「でかしたぞ、セス」
フランクは、
これならこの頑丈な扉を
壊せるだろうと確信した。
威力の強いものをかけるのではなく、
別の威力の強いものをプラスすることで
驚異的な力になる。
電気のビーム銃と火薬の銃を連射すれば、
化学反応が起こし大爆発すると推測したのだ。
フランク達三人は、ベスラーのデスクを倒し、
扉の反対側の壁に寄せた。
倒したデスクを盾替わりに、
フランクとティナがビーム銃を構え、
セスが銃を構える。
フランクは、アレックスとアリスに通信で、
扉から離れるよう指示した。
アレックスは、
クロエと足を負傷して動けないアリスに、
覆いかぶさるようにして、
2人を守り、爆発に備えた。
そしてフランク達3人は、
息を合わせて銃を発射。
結果はフランクの推測通り、
大爆発を起こした。
フランク達はデスクの陰に隠れ、
爆発から逃れた。
クロエとアリスを守っていたアレックスの背後で
頑丈な扉の破片と砂埃が待っていた。
作戦は成功だ。
フランク、ティナ、セスが、
アレックス達の元へ駆け寄る。
シックスは、六人揃って屋上へ向かった。
アレックスがクロエを抱きかかえ、
アリスはフランクの肩を借りる。
セスは肩の負傷を理由に、
ティナに甘えようとしたが、
即座に必要ないと見破られ、
やむなく自力で歩く。
『神の像』はセスが持った。
屋上に着くと、
夜の街を明るく照らす満月が
我々を悠々と見下ろしていた。
「さっき僕ら、『神の像』に願い事したんだ。
君たちもせっかくだからしたら?
夢があるじゃないか。やって損はないよ」
アレックスが言うと、
セスはノリノリで『神の像』に願い事をした。
セスはティナに渡した。
ティナは全く願い事をする気はなく、
何もせずにフランクに渡した。
フランクは、片手に持っている『神の像』を眺め、
反対の肩を貸しているアリスを見る。
アリスはフランクを見上げて微笑む。
フランクは、
アリスが家族の記憶や足の痛みに
苦しまないよう祈る。
屋上のヘリポートに立つシックス。
クロエを抱いたアレックスの周りに
他メンバーが固まる。
すぐに指令室から通信がきて、
メサイア・アーミーに戻る
ワープ転送が実施された。
「五名の救世主と他一名をメサイア・アーミーに転送します」
指令室のアナウンスが
通信機を通してシックスに届く。
メンバーが目を瞑ると、
眩い光がシックスを包み込むと、
一瞬にして、その姿を消した。
(つづく)