表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

第1章 愛の結晶、仲間の絆 【Ⅳ】

数ヵ月後、

メサイア・アーミー中に放送が流れた。




「これから名前を呼ばれた者は、

至急、研究室に集まってくれ」


グリフ博士の声に、

メサイア・アーミー内にいる全ての人々

が手や足を止め、耳を澄ます。


「クロエ・ジョンソン、フランク・ビズ、

 アレックス・テイラー、アリス・ダリア、

 ティナ・ターナー、そしてセス・アンダーソン。

以上の六名、至急、研究室へ」


六人全員が呼ばれた。

訓練中だった救世主たちも、

この放送が気になっていた。


「シックスのメンバーよ。

 何かあったのかしら」


「任務じゃない?」


「え、六人全員で?」


誰もが、

とうとう任務がこの6人に来たと感づいていた。


本人たちのみならず、

メサイア・アーミー中が胸躍っていた。


ただ、

大抵の任務は救世主が

2〜4人程度で遂行される。


六人全員が呼ばれた点は、

少々気になるところだった。


シックスは、

急いでグリフ博士のいる研究室へ向かった。


「みんな、集まったか

 ……君たちに…最大な任務が来た」


六人は顔を見合わせ、

エンジンを持て余していたように、

喜びの表情。


「普段はトップ救世主じゃなくても平気なんだが、

 今回は少々厄介でな。

この任務を任せられるのは、

 君たちしかいないんだ……やってくれるな」


シックスは、

一斉に縦に首を振った。


「もちろんでしょう。どんな任務?」


ティナが聞く。


任務の内容はこうである。


ニコラス・ギルモアという男が、

通称『神』と呼ばれる木彫りの像を盗んだ。


この歴史が深そうな像を使って、


英国の文化を破壊し、

国の支配を企んでいた。


しかし、

この神の木彫り像は、

かつて強力な黒魔術にも使われた

魔法の像であった。


満月の夜になると、

持ち主のどんな大きな願いでも一つ叶えてしまう

と恐れられた物だった。


それで『神』と呼ばれるようになったのだ。


現在は、作り話とされ、

英国博物館に保管された。


だが、展示はされておらず、

噂が真実だと考える人間も少なくはなかった。


シックスの任務は、

盗まれた像を取り返し、英国の破壊を防ぐ。


今回の敵は手ごわい。


これまでの世界中で起きた

災害や異常な自然現象はこの男の仕業とも、

密かに騒がれている。


また、ギルモアには、手下が大勢おり、

ギルモアの元に辿り着くまでが難しい。


これまでに送り込んだ救世主たちが、

何人も犠牲になってきた。


「俺たちがそいつ悪事を、

 今回で終わらせてやるさ」


セスが自信満々で言った。


後の5人も、

やる気に満ちた表情だった。


中でも最年長のフランクは、

誰よりも気を引き締め、

真剣な面持ちで、

今回の任務に臨んでいた。


「では、これを着て、ワープ室に集合だ」


グリフ博士は、

シックスのメンバーに任務用ユニフォームを渡した。


ユニフォームを着たシックスがワープ室に行くと、

白衣姿のグリフ博士とその助手が待っていた。


「全員、手首にこれを着けて行け」


グリフ博士は、

液晶画面がついた腕時計型通信機を全員に渡した。


アレックス達が

メサイア・アーミーに来たときに使った

あの通信機と同じ物である。


助手が、シックスを一人ずつ椅子に座らせ、

謎の液体を片耳の後ろに注射した。


グリフ博士がこれについて説明し始めた。


「今君たちに注射したのは、

 通信機の音が直接聞こえるマイクロチップだ。

 通信機の声が敵に聞こえてしまうと危険だからな。

 任務が終わったら、自然に排出されるから安全だ」


シックスは、手首に通信機をつけ、

試しに互いに通信し合って確かめた。


そこへ、

担当指令隊員が一人入ってきて、

グリフ博士に一礼する。


「皆に紹介しよう。

 今回の任務の指令室を担当する

 ルーシー・スミス隊員」


ピシッと伸びた背筋と堅苦しい対応は、

部隊でしっかり身につけさせられているようだ。


「普段は指令室にいますが、

 シックスの皆さんが初めての任務という事で、

直接ご挨拶に伺いました。

 皆さんとタッグが組めて、とても光栄です」


セスが、

お得意の魅惑的な微笑みとウィンクで、

ルーシーに近づく。


「よろしく、ルーシー」


「私の事は、スミス隊員とお呼びください」


ルーシーは、

セスのチャラチャラした態度にも動じることなく、

堅苦く冷めた表情を保っていた。


セスが、ルーシーから離れる。


ルーシーは一歩下がり、退室していく。


各任務において、

武器の標準装備は銃とナイフを二丁ずつである。


「ナイフはピンチのときに使えよ。

銃は、弾を使いすぎないようにな。

訓練通りやれ」


グリフ博士は、

武器をユニフォームに仕舞うシックスを見ながら、

口添えする。


銃は、腰に、


ナイフは、右足の太ももと、

左の足首に隠された。


壁に設置された液晶画面に、

ルーシーが映る。


「皆さん、準備はよろしいですか?」


シックスは、全員でワープ台に乗った。


「ああ、行こう」


グリフ博士と助手は、

サングラスをかけて、

ワープ台のシックスを眺める。


ルーシーは、

指令室からコンピュータに

シックスの情報を入力する。


シックスのメンバー情報と、

地球の検索した場所の航空画像が

表示されているコンピュータ画面に

『ワープ転送開始』の文字が出る。


すると、

シックスのいるワープ台では

「ワープ開始」というアナウンスと共に、

眩いばかりの光がシックスを包み込む。


一瞬にして、シックスの姿は消え、地球へ飛んだ。


シックスは、

ギルモアのタワービルの屋上に現れ、

奴の隠れ家への侵入に成功した。


ビルの中をくまなく探す。


ギルモアを探すが、ビルが大きすぎて、

奴がこの建物内にいるのかどうかさえ、

確証がもてなかった。


シックスは、分かれてギルモアを探した。


セスがうっかり、

ギルモアの手下がいる廊下の角から姿を出してしまう。


「侵入者だ!」


手下が銃を向ける前に、

セスがサイレンサー付きの銃で撃ち倒す。


セスは、安堵のため息。

セスの耳元で通信機から、

アレックスの安否を心配する声。


「ああ、ヒヤヒヤしたぜ。でも仕留めてやった」


セスは、左腕の通信機に向かって、無事を伝える。


一方そのころ、ギルモアは、

大きなデスクチェアにデンと座り、

優雅に葉巻を吸っていた。


側で、

ギルモアの重臣で最強の家来であるベスラーが、

防犯カメラの映像を見る。


「ボス、メサイア・アーミーの救世主が来たようです」


多くの手下たちを束ねるのは、

ベスラーの仕事。


ギルモアは最強と言われているが、

その前にベスラーを倒す事が難しく、

ここで命を落としてきた

メサイア・アーミーの救世主は大勢いた。


「懲りない奴らめ。他にも仲間がいるはずだ」


防犯カメラに映るフランクの姿を見て、

ギルモアの目が変わる。


「ほぉ、見覚えのある顔がいるな。

 全員探して生け捕りにしろ。それと、電波を妨害しろ」


「奴らとお会いになるんで?

 承知しました。面白くなりそうですねぇ」


ギルモアとベスラーがほくそ笑む。

ベスラーが無線で指示し、手下を一斉に動かす。


セスは、気を取り直し、捜索を再開する。

銃を構え、廊下を駆け抜ける。


すると、

ルーシーからセスに通信が入る。


「セス、正面の角を曲がった先に武装した敵。気を付けて」


セスは、スピードを緩め、角に身を隠す。

こっそり顔を出し、三人の敵を確認。

会話をしながら、こちら側に向かってくる。


会話の内容は、

おそらく侵入してきたシックスの話だろう。

セスは銃を構え直し、

角に隠れながら、敵の一人に狙いを定める。


セスが引き金を引く。

しかし、引っかかっているのか、

何度試しても発砲できない。


銃のカチカチという音に敵陣が気づいてしまう。


「いたぞ!」


セスは、焦りの色を隠せない。


敵陣が銃を構えるのが見え、

咄嗟にその場から逃げる。


セスはもう一度、

発砲を試みるが上手くいかない。


その間も、三人の敵はレーザー銃を発射しながら、

セスを追いかけてくる。


セスは銃を放り投げ、敵を一人撃破。


もう一丁の銃を構え、発砲しようとするが、

これもまた、撃てない。


セスは焦り過ぎて、安全装置の解除を忘れていたのだ。

さっき敵に投げた打てない銃も、

これが原因か、

単に不具合で詰まっていたのかは、定かでない。


セスは全くそれに気づかず、撃つのは諦め、

敵のレーザー銃を避けながら、必死に逃げるしかなかった。


ルーシーは指令室のコンピュータ画面から、

シックスや敵の動きを把握していた。


画面に出した建物の設計図上に

熱感知で、彼らの動きを表示させる。


ルーシーはそれを基に、

セスの逃亡ルートを指示する。


セスは、どうにか逃げ切る事ができ、

小さな部屋に隠れた。


「セス、仲間が来るまでそのまま待機を」


シックスの通信機は全て繋がっており、

他のメンバーの状況をある程度想像することができた。


そのため、セスの通信機に、

シックスのメンバーから次々に連絡が入る。


「お前、バカか!」


アレックスの罵声が、

セスの耳にダイレクトに届き、思わず頭を背ける。


「訓練じゃないのよ。

 せめて任務のときくらいちゃんとしてよ、セス」


「アリスよ。ケガはない?」


「ティナよ。

 部屋に鍵閉めて、電気消してじっとしてて」


「こちらフランク、

 とりあえずセスのところに全員集合」


セスへの厳しい仲間の言葉に切なさをも覚えたが、

自分でも各々の言葉に同感であった。


フランク、アレックス、アリスは、

敵に遭遇する事なく、

セスのもとへ辿り着いた。


「アリス、ありがとう。君が女神に見えるよ」


「何なの?」


「僕の身を労ってくれたのは君だけ。

 帰ったら、色々と腹を割って話したいな」


セスは、アリスの内面に歩み寄ろうとしたが、

冷めた眼差しで跳ね返される。


「腹を割って?

 腹を切って死んだ方がマシ」


フランクとアレックスは、

アリスの毒に唖然とした。


「おっと、お前の女神が、

 一番キツイ言葉だったな、セス」


フランクの冷静で爽やかなツッコミに、

セスもタジタジ。


アレックスも鼻で笑う。


セスが、部屋のドアの方を見て、

クロエとティナが来ない事に気づく。


アレックスは通信機で二人を呼び出す。

ティナの通信機が不調なのか、ノイズが入る。


「私はもうすぐそっちに着くわ」


ティナとの連絡はなんとか成功した。

しかし、クロエの方は応答がない。


「ティナ、クロエを知っているか?」


アレックスはクロエが心配で仕方なかった。


「いいえ。通信ができないの?

 ビーム銃で通信機かクロエがやられたのかも」


「何!?」


誰もが最悪の展開を恐れた。


もしかしたら

クロエがやられたのかもしれない。


そんな推測が外れる事を祈り、

アレックスは部屋を飛び出していった。


その頃、ティナがクロエを発見。

彼女は生きていた。

ティナがメンバーに通信を試みるが、

完全に使えなくなっていた。


通信機の不調ではなく、

建物中に張り巡らされたべうがい電波の影響だった。


つまり、

シックスの通信機は全て使えなってしまったのだ。


クロエたちは、複数の敵に見つかり逃げていた。


敵の数を考え、明らかに弾の数が足りないと判断し、

無駄撃ちはせずに、逃げる事を考えたのだ。


しかし、通信機がない2人には、

ルーシーの誘導がないため、

どんどん敵の数が増え、

なかなか逃げ切れない。


「仕方ない。私が援護する。逃げ込める部屋を探して」


ティナが銃を二刀流で構え、

敵の群れに打ちまくる。


敵のビーム銃を上手く避け、

先頭の敵を蹴り飛ばす。


次から次へと襲ってくる敵を、

銃で撃ち、銃本体で殴り、

弾がなくなれば、敵のビーム銃を奪い、

そいつを盾にしながら、ビームを乱射。


弾にはクロエも参戦し、敵が驚く隙も無く、

武器を蹴飛ばし、猛攻撃。


敵を華麗に殴る蹴る。


女二人で敵をバンバン倒していった。


残る敵は三人。


ティナが、

敵一人の首を両足で挟み込み、へし折ったとき、

クロエは鍵の掛かっていないドアを見つけた。


それはセス達のいた部屋だった。

残る二人の姿は見えなくなっていた。


どうやら、退散したようだ。


ティナがクロエの方へ駆け寄る。


するとその時、ティナの背後に敵二人。


ティナに銃を向けていた。

クレアは素早く銃を取り出し、

敵二人を一瞬で撃ち倒した。


ティナは背後に倒れる敵二人を見て苦笑い。

クロエのお蔭で命拾いした。


クロエがドアノブに手を駆ける。


開けてみるが、誰もいる気配がない。


「おかしいな。セスはここにいるはず……」


その時だった。




倒したはずの敵は死んでおらず、

手元のビーム銃を拾って発砲。


ティナの腕に命中する。


ティナが腕を抑えて膝をつく。

クロエがティナの方を振り向く。


すると、

どこからか飛ばされた吹き矢がクロエの首筋に刺さる。


「あっ!」


クロエは倒れこんだ。

そこへ、アレックスはクロエの姿を見て駆け寄った。


「大丈夫か?」


アレックスの叫び声に気づき、

フランク、アリス、セスも合流。


フランクがティナの傷を見る。

セスも痛そうな顔で傷を眺める。

アリスはクロエの様子を見る。


アレックスは、

クロエを抱きかかえ、心配そうに見つめた。


クロエは意識が朦朧としている。


「毒針……みたい」


クロエは苦しそうに言った。

クロエは顔をゆがめ、

アレックスの胸の中でうずくまり、

苦しそうにしていた。


アレックスは正直、

何をしたらいいかわからなかった。

クロエを不安にさせないようにすることしか

頭になかった。


「毒針だったとしたら、歩けなくなるわ。

仕舞いには死に至ってしまう」


ティナが腕を抑え、痛みを堪えながら言った。


「グリフ博士に連絡しましょ」

アリスが言った。


「まずは部屋に入ろう。そのほうが安全だ」


フランクが言い、アレックスがクロエを抱き上げる。


セスがドアを閉め、小窓から廊下を見張る。

アレックスがテーブルの上にクロエを寝かせる。


フランクが毒針を丁寧に抜き、

患部を摘まんで血抜きする。

アリスは指令室と連絡を試みるが、

一向に応答する気配はない。




その頃、

指令室のルーシーは焦りの色を隠せなかった。

グリフ博士が様子を見に来る。


「シックスの様子はどうだ? 順調か?」


ルーシーは答えられなかった。

グリフ博士も即異変に気付いた。


「通信できないのか?

 彼らの動きが把握できないのか?」


ルーシーは困り果て、

助けを求めるような目でグリフ博士を見た。


「熱反応で生命体は確認できますが、

通信が遮断されているようです」


グリフ博士もギルモアの対策に気づき、

シックスの安否が心配になった。


メサイア・アーミーは

ギルモアを何度も相手にしてきた。


そのため、

ギルモア側もこちらの戦い方は攻略済みであった。


メサイア・アーミーの指令室が死角までも把握し、

救世主がスムーズに任務を遂行する上では欠かせない、

視野と頭脳のフォロー役である。




ギルモアは、シックスの姿を確認すると、

コンピュータの画面を眺めた。

そこには、シックスの情報が表示されていた。


ギルモアは、シックスの詳細を調べ上げていたのだ。

しかし、

メサイア・アーミーの情報は超極秘でセキュリティも万全。

ギルモアがどのようにシックスの情報を

入手できたのかは謎であった。


シックスは指令室と連絡が取れない上、

どんどん状況が悪化するクロエに戸惑っていた。

クロエの足はどんどん麻痺していき、

彼女の両足は動かなくなっていた。




ティナが、メサイア・アーミーから持たされていた

応急処置キットを取り出し、アリスに渡す。


アリスはキットを開け、

ティナの指示通りに治療の準備をした。


毒を中和する薬品と注射器を取り出す。


注射器に中和薬を含ませ、クレアの患部を消毒後、注射する。


フランクは、

キットから包帯と

カプセル加工されたモルヒネを手に取り、

ティナを治療する。


痛み止めも飲み、

ティナは何とか任務を遂行できそうだ。


クレアの容体は、悪い方に進む一方だった。

意識は朦朧とし、呼吸も弱くなる。


「なぜ薬が効かない!? もっと注射してくれ!」


「ダメよ。これ以上打ったら、身体が持たない」


皆、訓練で習得したはずの感情コントロールも忘れ、

冷静ではいられなかった。


お調子者のセスさえも、

ここに来たときの勢いはなくしていた。


「これからどうする?」


フランクの脳裏に、

過去の任務で体験した悪夢が蘇っていた。

フランクは震え手を抑え、

仲間に見られぬよう、隠す事に必死だった。


意識を失いかけていたクレアが、

目を微かに開け、何かを伝えようと口を開く。


しかし、なかなか声を出せない。

アレックスがその様子に気づき、耳を傾ける。


「私はもう、足手まといになるだけよ。

私は置いてって。任務を遂行しなきゃ」


クロエは、残りわずかの力で声を絞り出す。

その表情は悲し気であった。


「何言ってるんだ!

 見捨てるわけないだろ。君は死なない。諦めるな」


「アレックス! お願い……」


クロエの顔は、涙でびしょびしょになっていた。


そのクロエの顔はどんどん青ざめていき、

彼女の体は毒が回ったせいか、

首から下、全身が黒くなっていった。


「こんな姿、あなたに見せたくないのよ」


クロエは、痛みと苦しみ、

悲しみと恐怖に、涙が止まらなかった。


アレックスは、苦しむクロエの悲惨な姿に、

今すぐ楽にしてやりたいと思った。


本人も殺して欲しがっていた。


しかし、誰にもクロエを殺す事などできなかった。

迷っている間にも、クロエは着々と死に近づいていた。


そんな中、ティナが重い口を開いた。


「毒で死ぬのはとてもつらいわ。

 私だったら毒で死ぬ前に終わりにした方がマシ」


ティナの瞳の中は、

今にもこぼれそうな涙でいっぱいだった。


ティナ自身、本心は嫌だが、

クロエを楽にさせたいゆえ、

無理やり声に出した言葉だった。


「殺せるわけないよ。仲間だろ」


セスが頭を抱えながら言った。


「私も無理」


「ああ、そうだ。仲間だ。俺たちみんな仲間だ」


アリスとフランクも当然賛成できなかった。


「やっぱり殺せないよ」


アレックスは涙が止まらなくなった。


しばらくすると、クロエの動きが止まった。

呼吸の音も聞こえない。


「クロエ……」


アレックスの必死の呼びかけに、

彼女が再び目を覚ます事はなかった。


「クロエ!」


アレックスはクロエに泣きついた。

しかし、クロエはもう動かない。


「ウソ……」

アリスは再び涙があふれた。


メサイア・アーミー指令室では、

グリフ博士とルーシーが画面を見て唖然としていた。


「……クロエが……。クロエの生命信号が完全に消えました」


グリフ博士は画面を覗いたまま、

ショックで声が出なかった。


クロエの死により、フランクは、

ギルモアに対する怒りが頂点に達していた。


「先を急ごう。

 クロエはグリフ博士が引き取りに来てくれるはずだから心配ない」


アレックスは、

まだ微かにぬくもりの残るクロエのひたいに

やさしくキスをした。


五人になったシックスは、

クロエに別れを惜しみながら、部屋を出た。




  (つづく)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ