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第1章 愛の結晶、仲間の絆 【Ⅲ】

成績発表の日。




会場は

『GMH(Great Multipurpose Hall)』

と呼ばれる巨大ホール。


それでも、

メサイア・アーミーの人間が

全員収容できるわけではなく、

プレミアムズの救世主と

当選した者しか出席できない。


それ以外の者は、

メサイア・アーミーの

あらゆる場所に設置された

液晶テレビや各部屋のモニターで、

会場の中継映像を見る。


救世主全員が注目する中で、

各クラス成績トップの救世主が、

グリフ博士によって発表される。


アレックス、クロエ、アリス、セス、

そしてフランク、ティナの6人は、

固まって席につき、

発表の時をまだかまだかと待っていた。


セスはポケットから

チョコバーを取り出し、一口食べた。


「おい、セス。お菓子なんか持ってきたのか?」


「朝、売店で売ってたから」


アレックスに言われ、

セスは当然のように答えた。


セスは好きなチョコバーを目にして

買わずにはいられなかったらしい。

地球での好物がここでも食べられると知って、

嬉しかったのだろう。


他の五人はセスの子供っぽさに呆れ、

苦笑いをしていた。




ステージ上にグリフ博士が登場し、

いよいよ成績発表式が始まる。


「まずはAクラス、

 ……ミス……クロエ・ジョンソン」


クロエは涙目になって、

アレックスと目をあわせた。


「続いてBクラス、

 ……ミスター……フランク・ビズ。

Cクラス、

 ……ミスター……アレックス・テイラー」


クロエはアレックスと抱き合って喜んだ。


「Dクラス、……ミス……アリス・ターナー」


アリスは、笑顔で思わずフランクの方を見る。


フランクは、そんなアリスに優しく微笑み、

グッドサインを出してウィンクする。


アリスも嬉しそうだ。


「Eクラス、……ミス……クリスティナ・ダリア」


ティナは、満足そうに、

相変わらずクールな喜び方である。


残るはセス。

ここまで皆揃えば、

当然セスも呼ばれるだろうと誰もが思っていた。


「Fクラス、

 ……ミスター……ショーン・レイモンド」


まさかのセス落選に、本人のみならず、

他の5人ともセスが肩を落とした。


6人から離れた席で、

ショーンが立ち上がり、喜んでいる。


「静かに!

 えー、Fクラスは同率一位がいる。

 もう一人の成績トップは……

 ミスター……セス・アンダーソンだ」


「やったー!」


セスは叫んだ。

ショーンは、ぬか喜びをした気がして、

がっかりしていた。


「この場合どうなる?」


フランクが、ボソッと言った。


すると、

タイミングよくグリフ博士が喋った。


「だが、各クラスのトップは一人と決まっている。

 どちらかを落とさなければならない」


静まり返っていた会場内がざわついた。


「レイモンド君、アンダーソン君、

 ステージに上がってくれ」


セスとショーンが目を合わせ、

ステージに向かう。


会場内も会場の

中継を見るメサイア・アーミー内から、

この二人に注目が集まった。


ショーンはセスに敵意むき出しで睨みつけていた。


セスは不安で、

ショーンの目をまともには見られなかった。


セスとショーンがステージに上がると、

グリフ博士が出したのは、

小型犬の入ったゲージであった。


まさかの可愛らしい犬の登場に、

見ていた者すべてが唖然としていた。


「彼女の名は、サニー。

 Fクラスのトップは、彼女に決めてもらおう」


「トップを犬に選ばせるのか?」


ショーンがボソッと文句を口にした。


「犬は人の心を見抜く。

 素直で悪心のない者を好くとされている」


グリフ博士の言葉に、

ショーンはやや尻込みをしているようだった。


セスとショーンが、

ステージの上手に距離を置いて立つ。


下手側にグリフ博士がサニーを抱いて、

二人まで同じ距離になる位置にスタンバイする。


「サニーが向かった方が、

 Fクラスのトップだ。

 では、始める」


グリフ博士が、キャンディを放す。

キャンディはチョコチョコと軽快に歩き出す。

セスとショーンの間に緊張が走る。

メサイア・アーミー中が、息を飲んで見守る。


サニーは、二人の中心より、

ややセスの方に偏って歩く。


セスが「よし!」と思ったのも束の間、

今度はショーンの方へ行ってしまった。


どちらが選ばれるのかはっきりしない。


セスは、徐にズボンのポケットに手を入れた。


ポケットの中でチョコバーを握る。


セスの脳裏に、

お菓子で釣ろうという考えがよぎったのだ。


しかし、

先ほどのグリフ博士が言った言葉を思い出した。


犬は人の内面を見抜く。


ここでズルをしてしまったら、

その雑念を見抜かれ選ばれないかもしれないし、

選ばれる資格もないだろう。


セスは考え直し、チョコバーを放して、

ポケットから手を出した。


すると、

サニーがひょこひょことセスの方へ歩いて行った。


そのままセスの足元まで行き、

ちょこんと座って、尻尾を振った。




その瞬間、会場が沸いた。




成績発表会が終わり、会場から出てくる6人。


「ショーンはかわいそうだったけど、

 これで皆揃ったし、良かったのかもね」


アリスが、冗談半分で言った。

6人は、互いの功績を笑顔で称え合った。


そこへ、グリフ博士が近づいてくる。


「みんなで成績トップになれた感想は?」


「そりゃうれしいわよ。ねぇ?」


アリスがみんなに言う。


「でも、皆で取れるなんてな。

 まさかグリフ博士、

 わざと皆をトップにしたんじゃ?」


アレックスが言う。


「え? あ、ああ。

 やっぱり俺は女の子にモテるんだなぁ〜」


セスはお道化ていたが、内心複雑だった。


本当に自分の実力で選ばれたのだろうか。


犬は嗅覚が優れている。


セスがチョコバーを握って放したとき、

犬が匂いを察知して、

寄ってきただけなのではないのか。


しかし、

グリフ博士はこういう結末になると知っていた。

セスが選ばれし者であると。


セスがチョコバーを持っていた事は知らないが、

それが理由じゃない事も。


「これが君たちの本当の力なのさ。

こうなることは、最初からなんとなくわかっていた」


グリフ博士はその代わり、彼らの実力を見込んで、

まずはアレックス、クロエ、アリス、セスの4人を

仲良しにさせた。


その仲間にティナとフランクを入れた。


この六人がそれぞれトップになり、

エリート救世主グループになると確信していたために、

予めめぐり合わせておいた、という点は、

グリフ博士の図り事だったようだ。


Fクラスが、ショーンもトップだった事は、

グリフ博士も予想外であった。


しかし、結果はこうなった。

この6人組が揃うのは、

運命だと神は知っていたのである。


グリフ博士は神に動かされ、

この6人の縁結び役となったのだろう。


そして、6人はトップ同士、

エリート・チームを組むことになった。


6人とも、ぐんぐん腕を上げていった。




やがて、

この世界で知らない人はいない程の

超有名チームとなり、

『メサイア・シックス』

とまで呼ばれるようになった。


いつしか6人は、

他の救世主たちに手本として

パフォーマンスを見せる程に成長していた。


難易度MAXのプロコースは、

他の救世主たちの目標であり、

憧れ六人の華麗な動きが見られるため、

常に注目の的になっていた。


「さぁ、選ばれし救世主諸君。この六人の登場だ」


グリフ博士が、救世主の訓練生を集め、指導している。

訓練生たちもワクワクしていた。


「あの六人の技がすぐ目の前で見られるのよ。

 すごいと思わない?」


「当たり前でしょ。

 私はね、

 アレックスのファンなんだ」


「アレックスもいいけど、

私はどっちかって言うと、

 クロエの方が好き」


指導を受けていた二人の女の子が話していた。

すると、近くにいた、

同じく指導を受けていた1人の男の子が

話しに入り込んできた。


「ボクは、ティナのファンだよ。

 十八にしては色っぽいし、

 かっこいいだろう?

 もうティナ最高だよ」


「あんた、ティナに夢中ね」


アレックスファンの子が言った。


「お前だってアレックスにゾッコンなくせに!」


「それは違うわよ」


「だよな。だって、

 アレックスにはクロエがいるもんな」


アレックスファンの子は、

悔しそうに口を尖らせ、残念がる。


アレックスとクロエは、

メサイア・アーミー中でも有名なカップルだった。


「でも彼ら、任務はまだよ」


クロエファンの子は、

この二人の会話を面白がって見ていた。


この冷めた一言に、

アレックスファンとティナファンは、

会話を止め、彼女を唖然と見た。


「それは、トップグループが必要な程、

 過酷な任務がないからだろ?」


「そうよ。

 あの六人はメサイア・アーミーの最終兵器なのよ」


クロエファンの子は、口をへの字に曲げ、

両手を広げて肩をすくめた。


悪気はないと言わんばかりの表情。


アレックスファンとティナファンは、

不満気に彼女を睨む。


「さあ、みんなお待ちかね。

 六人をよく見ておくんだぞ」


グリフ博士がそう言うと六人が出てきた。


六人がやるのは、最も難しく、

クリアできる者は

とても少ないとされている最上級コース。


このコースは、マットがないため、

死人も続出しているコースだった。


ここには、いたるところに障害物にまざって

アンドロイドの敵がうじゃうじゃいる。


この敵を倒しながら、

障害物をクリアしなくてはならない。


初級コースも複雑だったが、

ここは、もっと細かく、複雑になっている。


「行くよ」


クロエが合図し、

6人は一斉にコースに飛び込んだ。


途中、

アリスが一時、手を滑らせ、落下しかけるが、

すぐに態勢を立て直し、

まるで鉄棒のオリンピック選手のように

空中を舞いながらゴールに着地。

歓声が巻き起こった。


シックスは、

圧倒的な速さで軽々とクリアしてみせた。


「さすがね! 有名になるわけだ!」


「私たちもシックスの技術を目指して頑張らなきゃね」


訓練生たちの歓声と拍手の音が

メサイア・アーミー中に響き渡り、

絶賛の嵐となった。




  (つづく)

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