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高草 総悟の怖いかもしれない話  作者: 相国 孝明
2/5

桃太郎

「総悟。お前、桃太郎の話知ってるか?」

「桃太郎ってあれだろ? 犬と猿とキジを連れて鬼を退治する奴だろ?」

「違う違う、都市伝説みたいな話だよ」

「うーん、知らないなぁ」


 僕に、このことを聞いてくるこいつは大学から友達になった重沼 真(しげぬままこと)である。こいつは、僕に良く怖い話をしてくるのだ。


「そうかそうか、じゃあ俺が話してやる!」

「お前が話したいだけだろ。いいよ聞いてあげるから話してみ」

「聞いてビビるなよ?」


 そういうと彼は嬉々として「桃太郎」の話を始めた。


__________________________________________________


 とある夫婦がいたが、その夫婦の生活は良い生活とは言えるものではなかった。夫の方は働くこともなく、無職でパチンコ、賭け麻雀、競馬、競輪、競艇などの賭け事で借金を増やすような男。そして、妻は夫の借金を返すために、言葉通り身体を使って金を作り、借金返済に充てていた。生活資金などは夫に取り上げられては賭け事で全部なくしてくるという日々だった。

 なぜ彼女は別れないのだろうか。こんなにもロクデナシな夫はいないもんだ。身体を使ってまで彼の借金を返すほどの価値もないだろう。しかし、彼女は離婚を選ぶことは無かった。

 理由はある。無職になる前は、善き夫だった。そのことを知っている妻は中々別れることは出来なかったのだ。


 妻は夫がこんなになってしまったのは社会のせいだ」と考えながら生きていた。無職になる前の、夫はそこそこの会社に就職し、真面目に働いていたが、社会の不況の波に飲み込まれ、彼が勤めている会社は潰れた。

 無職になった最初の方は、彼も再就職先を見つけるために、毎日面接に赴き、革靴の底をすり減らしダメになるくらい歩き回り頑張っていた。

 でもダメだった。不況の波は、彼に再就職を許さなかったのだ。

 

 再就職が出来ないことに絶望を感じ、真面目な夫はロクデナシになった。だから、妻は社会を憎んだ。それと同時に彼女は夫が、前のように真面目に戻ってくれるだろうと信じてもいたのだ。



 そんな日々が続いていたある日、妻が妊娠した。彼女が働いている風俗店では避妊具を使っていたので、間違いなくとは言えないものも、ほぼ妻と夫の子どもなのは分かっていた。

 しかし、夫にとっては、風俗で働いている妻が妊娠した子が、自分の子であると信じることが出来ない。

「それは俺の子じゃない! どうせ、お前が風俗で作った客との子だろ!」

 と言ったが。妻は、夫と私の子だと信じて、子どもを産むことを決意した。

 夫は、妻が産む子供は、俺の子どもじゃないと考えるとともに、妻への愛情も冷めていった。元々愛情なんかがあったかは疑問だが、ただの貯金箱のように扱うようになった。


 そうして月日が過ぎ、妻は男の子を出産。


 出産後、妻は「あなたとの子どもよ。喜んでよ」と言ったが、夫は喜んでくれなかった。それどころかゴミを見るような目で、妻とその子を見ていた。

 妻は諦めずに「この子の名前考えましょう!」と言う。とうとう、しつこい妻に夫はキレた。


「うっせーな! 俺の子じゃねーのに、なんで俺が名前を考えなくちゃいけねーんだよ!」

「あなたの子どもなの!だから、名前を一緒に考えて!」

「くそっ! あぁ、分かったよ。桃太郎にしようぜ、桃太郎」


 彼はそういうと、市役所に行き「桃太郎」という名前で申請して、それが受理されてしまった。きらきらネームが増えたことにより、受理されるハードルが下がっていたのだ。

 彼女は呆気にとられたが、それでも自分の子である。妻は名前なんて気にせず桃太郎を愛した。




 妻は桃太郎が生まれたことにより、夫が以前のように真面目になるだろうと考えていたが、それとは裏腹に夫は、妻や桃太郎に暴力を振るうようになっていた。

 妻が賭け事は止めてと言えば、妻の髪の毛を引っ張り、顔を殴り、腹を蹴る。桃太郎が夜泣きをすれば、頬を打ち、ベランダに放置をした。


 そんな日々も過ぎ、桃太郎は5歳になったが、その身体は痣だらけで見ても痛々しいものだった。夫は何も変わらぬままロクデナシであり、妻は以前より痩せこけ、白髪も増え、+20歳くらい老け込み、風俗を辞め、スーパーのパートとして働いていた。


 そして事件が起こった。夫が桃太郎を殺してしまったのだ。いつものように、憂さ晴らしに桃太郎に暴力を振るっていると、桃太郎は動かなくなっていたのだ。夫は焦ることも、悲しむこともせず、ゴキブリが死んでいる物を見るような目をして「あー、死んだか」程度の感情で。桃太郎の死体を見ていた。

 そこに妻が帰ってくる。


「……桃太郎? 桃太郎!? どうしたの!? あなた何したのよ!」

「俺になんて口を聞くんだ!」


 夫は妻に暴力を振るい、言った。


「桃太郎は死んだよ! 俺が殴ったら死んだ」


 妻はそれを聞くと、血の気が引いていくのを感じ、それと同時に自殺することを決めた。これ以上生きていても、私に幸せは無いと考えたのだ。


 そう考えると彼女は、台所に行き、包丁を手に持つと、自分の首に突き刺した。


 こうして、桃太郎と妻は死んだ。

 夫は、遺体が見つかるのを恐れ、遺体を車に乗せ、山へ向かうと、穴を掘り2つの遺体を埋めた。


 夫が2人を埋めて二年経った。こんな底辺な生活を送っている人間がいなくなっても疑問に思う者もいなく、2人が死んでいることは気付かれなかったのだ。

 夫はいつもと変わらず、パチンコでお金を使い家に帰ってくると、やることもないので眠りに就いた。


 寝てから何時間たっただろう。夫は、とある声で起きた。寝ぼけながら、目を開けるとその先には、日本刀のようなものを持った影があるではないか。


「なんだ、お前は!」


 というと、その影は。

「お父さん」


 と言った。よくよく顔のあたりを見ると、痣だらけの顔をした桃太郎だった。


 馬鹿な。

 そう考えたのは、当たり前だ。夫はその手で桃太郎を殺し山に埋めたのだ。そんなことを考えていると、桃太郎が、刀を振りかぶる姿が目に映る。


「お、お前! なにしてるんだ!」


 夫は怒鳴る。そんな彼に桃太郎は。


「お父さん、鬼を退治しに来たんだよ」


____________________________________________



「って話、なんだけどさ! どうよ、怖くないか?」

「お、おう。まあ、夫が屑だった」


 僕の感想はこんなもんだった。でも考えることはある。桃太郎は、父親から虐待を受けている間、彼のことが鬼に見えていたのだろうなと。

 

もしかしたら、桃太郎は今も鬼退治をしているかもしれない。



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