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高草 総悟の怖いかもしれない話  作者: 相国 孝明
1/5

シジキ様

「夜に、外へ出るとシジキ様に攫われるぞ」


 この台詞を聞いたのは、ド田舎と言えるほどの場所に引っ越した時だった。父親は転勤が多い人で、引っ越しを多くしていた。なぜこんな所に引っ越してきたのかは、その時の僕にはあまり理解出来ていなかったが、安い賃金で平屋を一軒、借りて住んでいた。

 引っ越しで荷物を運んだりしていると、引っ越してくる人が珍しいのか、近所の人がやってきた。近所とは言っているが、実際は一軒と一軒の間に2キロくらい空いている。その間は、畑だったり田圃だったり。とにかく、ド田舎だった。

 近所に人たちは、引っ越しの荷物持ちを手伝ったり、ここでの生活を父親や母親に話をしていたりした。僕には、話が分からないので、果てしなく広がる緑の景色を目に焼き付けていた。

 景色を見ていると、僕に声をかけてくる人がいた。60歳以上のおじいちゃんのようだった。


「坊主、いくつになる?」

「9歳」

「坊主、夕方の7時以降は外にでちゃいけねーぞ?」


 おじいちゃんは、夕方の7時に外に出ちゃいけない事を、僕に注意してくれたみたいだった。転校前の学校でも夕方は外に出ちゃいけないと指導が合ったので。

(優しいおじいちゃんだな)

 と、そう考え。


「ありがとうございます。 夕方はお外に出ないようにします」


 そう挨拶を返し、親の元へ行こうと振り向くと、再び声をかけられる。


「絶対に出ちゃいけないから」


 すごく念押しされたことを覚えている。学校の指導とか以上の剣幕で言ってくるので、当時の僕も不思議に思ったのだろう。


「どうして?」


 などと聞いてしまった。そうすると、そのお爺ちゃんは真剣な顔で僕に伝えた。


「夜に、外に出るとシジキ様に攫われるぞ」


 と僕に言ってきた。僕はシジキ様が何なのか分からない。とりあえず、その時のおじいちゃんの様子が怖かったので、「分かった」と答え、親の元へと戻った。




 引っ越し作業も終わり、家では家族三人でご飯を食べていた。


「あなた、この村本当に田舎ね、半年だけど暮らしていけるか心配だわ」

「大丈夫だよ、引っ越し作業中に近所の人も言ってくれたろ? 作ってる野菜とかお裾分けしてくれるって。それに、車に乗れば30分はかかるけどスーパーだってあるみたいじゃないか」

「そうだけど」


 母親は、田舎生活に不安を感じているようだった。その反面父親は気楽そうに話していた。引っ越しには慣れているけど、ここまで田舎だったのは初めてだった。


総悟(そうご)、お前は明日から分校だけど、大丈夫か?今までと違って、違う学年の子もいるからな。緊張するなよ」


 と言って、父親が笑いかけてくる。


「大丈夫だよ! 友達作るのは得意だから!」


 笑顔で返し、僕は黙々とご飯を口に頬張った。また、夫婦での会話に戻り二人で話している。

 母親が、思い出したかのように僕に話しかけてくる。


「そういえば、総悟。夕方は外に出ちゃだめだからね? ここでは、子どもが夕方に外に出るのは特に禁止みたいだから」


 おじいちゃんに言われたことを思い出す。


「それって、ヒジキ様ってやつ?」

「違うわよ、ヒジキじゃなくて、シジキ様って名前よ? 確か。まぁ、子どもを夕方に出さないってのは賛成だけど、わざわざ神様の名前を使わなくても言いのにね」


 と笑顔で僕に笑いかけて来た。でも、おじいちゃんの真剣な顔を思い出し僕は、「少し怖いな」と呟いた。


「大丈夫よ、子どもを驚かせるための作り話だから。 あなたが夕方に出なければいいのよ」

「そうだね、僕夕方に外に出ないようにするよ」


 こんな感じで話をしながら、ここに引っ越してきてからの初めての晩御飯は終わった。





「僕の名前は高草総悟(たかぐさそうご)です!みなさんよろしくお願いします!」


 そう挨拶をして、僕は転校初日を迎えた。

 友達作りに自身があった僕は、年齢関係なく分校に通う生徒と友達になった。


 転入してから、地元の子に遊び場を教えてもらったり、駄菓子屋さんに連れて行ってもらったり、ここならではの遊び方を教えてもらった。

 友達と遊ぶようになり、夕方ぎりぎりまで遊ぶようになっていた。しかし、必ずここに住む子供たちは、夕方の7時になる前には帰っていった。どうやらシジキ様を信じているようで、真面目に帰っているのだった。僕も真面目なのでもちろん帰った。


 ある日、いつものように遊び、夕方前に友達と別れる。夏の日で日も長く外は明るかったが、時間は6時半に差し掛かっていた。

 そして帰り道、僕は遊び場に携帯ゲーム機を置いて忘れていたことに気付いた。友達に教わった攻略法を試したかったので、明日は取りに行きたくない。誰かに持って帰られちゃうかもしれない。と色々考えを巡らせた結果。


(7時ちょっと超えちゃうけど大丈夫か。シジキ様なんているわけない)

 

 僕はそう考えて取りに戻った。


「良かった。誰にも持っていかれてないや」


 僕はホッと一息つくと、家へと歩いた。時間は6時50分だった。家まで歩いて30分。少しだけ7時を過ぎてしまうけどいいか、と考えながら呑気に歩いていた。

 茜色の夕焼け空から、次第に暗く夜の色に染まっていく。ここらは街灯もなく少し怖かったが、家までは畦道をまっすぐ進めば良いだけだったので、 そこまで怖さは無かった。


「オ……エカ」


 後ろから、変な声が聞こえた。老婆のような、子どものような、混ざった声が地の底から響くように聞こえる。よく聞き取れないがぶつぶつと何か言っている。僕は怖くなった。後ろを振り向けない。人じゃない気がしたからだ。怖い。とにかく怖い。冷汗が止まらないが、足を止めることは無く、ひたすら走ることにした。

 

 走る。しかし、声はどんどん近づいてくる。


「オマエハ、ニエカ?」


 何を言っているのか分からない。ニエってなんだろうか。考えたくない。きっとシジキ様とは後ろから迫ってくる奴だろうと思いながら走った。

 しかし、残酷なことに僕の体力は付き、立ち止まってしまった。


「オマエハ、ニエカ? オマエハ、ニエカ? オマエハ、ニエカ? オマエハ、ニエカ? オマエハ、ニエカ? オマエハ、ニエカ? オマエハ、ニエカ? オマエハ、ニエカ? オマエハ、ニエカ? オマエハ、ニエカ? オマエハ、ニエカ? オマエハ、ニエカ? オマエハ、ニエカ? オマエハ、ニエカ? オマエハ、ニエカ? オマエハ、ニエカ? オマエハ、ニエカ?オマエハ、ニエカ?」


 すごい勢いで、迫ってくる。僕に聞いてくる内容も変わらず、ずっと同じことを僕に聞いてくる。僕は、もう無理だった。疲れてしまって、走り出せない、怖さで歩き出すこともできない。

 そして、気配を感じる、後ろにいる。


 僕は、後ろを振り返った。


 そこには、誰もいなかった。なんだ、夕方になって怖がりすぎてしまっただけかと、想い。

「あぁ、もう怖かった。なんだ、思い込みか」


 そして、前を向く。


「オマエ、ウマソウダナ」


 僕の前には、170㎝くらいのおじいちゃんのようなおばあちゃんのような人が、白目を向き、目の下には黒い隈、薄汚れた白いぼろきれを身体に纏っていた。

 

 そして、一番目についたのは、口を大きくして僕に齧り付こうとしている姿だった。そこから先の記憶は無い。




 僕が、気付いたときに周りに引っ越しを手伝ってくれた人がいた。そして、僕のそばにはお坊さんがいた。何かお経を唱えている。

 なにが起きているのか、僕には分からなかった。呆然としていると。お坊さんが。


「もう大丈夫です。説得をして帰ってもらいました」

「そうですか! ありがとうございます!ありがとうございます!」


 両親が涙を流して、お礼を言っている。


「夕方に外に出たらいけないって言っただろうが!」


 僕に注意をしていたおじいちゃんが怒っている。そこで、思い出す。シジキ様に会ったことを。


そして、僕には聞こえた。


「ミギメ、モラウゾ」


 その時から僕の右目の視力は急激に弱くなり、ほとんど見えなくなってしまった。病院では原因が分からないと言われたが、僕はシジキ様に喰われたことを知っている。


 後から、父親に聞いた話だけど、「シジキ様」ってのは感じで書くと「子喰(シジキ)様」になるらしい。あの住んでいた場所では、昔、この子喰様を祀っていたそうだ。生贄である、子どもを差し出すと、次の年の作物は豊作だったらしい。しかし、ある時から差し出すのを止めたらしい。時代の流れだろう。しかし、言葉の通り子どもを喰らう子、喰様は夕方になると、子どもを求めて現れると言うことだった。

 子喰様は、お前はニエかと聞いていた。ニエとは生贄のこと。僕はその対象になっていたのだ。


 



 この事件があってから、12年たったが、あの日から僕の周りでは恐ろしい体験や話を、よく聞くようになった。

 これからも、書いていこうと思う。


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