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真冬の寒空の下、佐藤 純はあてもなく、ただただ街をふらふらと歩いてまわった。
今日はクリスマスイブということもあり、街は実に華やかであった。純の周りはほとんどカップルばかり。普段はなにごともなく道端に並ぶ木々も派手に電飾などで飾られ、道路にそって立ち並ぶ店もセールなどで賑わっている。
しかし、その中を歩く純は周りとは対照的に、寝起きの様なジャージ姿に、ボサボサ頭に無精ひげというあまりに一人浮いてしまっていた。目は虚ろで何処に行くわけでも、ただ廃人のように街をさまよっているだけ…。
まるで、今の現実から逃げるように…ただ純はブツブツと独り言を呟きながら歩いていた。
どれくらい歩いただろう…気が付けば、独り暮らししているアパートの近くの公園へとやってきていた。
手前に滑り台があり、その奥にはブランコと砂場がある小さな公園、全くひとけがなく静まりかえっていた。純は公園の中央に置いてあるベンチに座った。
「……沙織……どうして…」純には同じ学校の同級生の彼女がいた。一週間前までは……。
学校の校庭にある木で首を吊って自殺したのだ…。
彼女は何故自殺したんだろう…?悩みを打ち明けてくれれば…自分が彼女の異変に気付いていれば…彼女が死んでから一週間、純はひたすら自分を責め続けていた…。
「帰るか…」
そう思った時には公園の時計の針は午前0時を指していた。
ゆっくりと腰をあげ、純はアパートへ戻ろうとゆっくりと歩き出した。
純が公園を出ようとした時だった。
「佐藤くん」
純は自分の名前を呼ばれ、戸惑いながらも声の方へと恐る恐る近寄った。
「…誰?」
そこには、沙織の親友でもあった同じクラスの佐伯 理佳が分厚いコートをはおり寒そうにしながら立っていた。
「佐伯か…久しぶりだな…」
力のない声で純が言う。
「心配したんだよ、あの事件から佐藤くん、ずっと学校休んでるから…」
理佳は純の目を見つめながら言った。
「ごめん…今はそんな気分になれなくて…」
純は、心配してくれていた事を知り少し申し訳なさそうに言った。
「実は…実は、佐藤くんに……」
どこか理佳は話すのを戸惑っている様子だ。
「どうしたの?」
不思議そうに純は理佳の顔を見た。
「落ち着いて聞いてね…」理佳は覚悟を決めたように話し出した。
「実は……沙織が自殺する前の日に電話があったんだ…」
驚いた様子の純に対して理佳は話しを続ける。
「沙織……悪戯されたって言ってた……」
一瞬、純の中での時間が止まる。
「えっ、えっ…!?今なんて?」
理佳は泣きそうな声で続ける。
「沙織…泣いてた…私、なんて言っていいか分かんなくて…」
「誰に?一体誰に!!」
純は興奮を抑えきれず、理佳の肩を強く握った。
「佐藤くん、落ち着いて聞いて…」
「落ち着いてられるか!一体誰なんだ!!?」
純は理佳の言葉も耳に入らない程に興奮しきってしまっていた。
「い、痛いよ…」
理佳の悲鳴に近い声に、純は我に返った。
「ごめん…」
「私こそ…急にこんな事言って…私も自分の中だけで止めておくのは辛くて…佐藤くんには知ってもらった方が沙織の為にも…」
泣きながら理佳は座りこんでしまった。
「くそっ!俺が、俺がしっかりしていれば…」
純の目からも涙が溢れていた。
「佐伯…お前に当たって悪かった…」
純は座りこんで泣いている佐伯の肩にそっと手をやった。
泣きやんだ理佳はゆっくりと立ち上がろうとしていた。
「ドスッ…」
突然、純の腹部に激痛がはしる。
「うっ!なんで……」
見ると下腹部あたりに小さなナイフが突き刺さっていた。
そしてさっきまでとは別人のような表情の理佳が目の前に立っていた。
「な…なんでお前……?」
わけが分からず、ただパニック状態で痛みに耐える純を見ながら、理佳はその様子を見て不気味に笑っていた。
「その表情、最高ね」
ゴボッと血を吐き、激痛に耐えながらも純は理佳の胸ぐらに掴みかかった。
「お前!…どういう…つもりだ…」
「私はただ、あんたの今みたいな苦痛に歪む顔がみたいだけなのよ」
「くっ…くそっ…お前はどうかしてる!」
純は全身の力が抜けていくのを感じ、膝からゆっくりと倒れていった。
理佳は不気味な笑みを浮かべながら、しゃがんで純の顔を見ながら言った。
「最後に教えてあげる。さっき話したのは全部嘘、実は沙織も私が殺したんだ」
純の目からは、大量の涙が溢れ出てきた。
もう純の体は、動くことも、喋ることも出来なかった。
純は、かすれゆく意識の中に見た。
目の前にいる人の姿をした悪魔を……。
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